第60話 死線の果てに・・。
(へへっ・・燃えてるぜ・・こんがり燃えて、真っ白な灰になっちゃいそうだぜ)
俺は、力尽きて地面に転がっていた。
辺り一面、火の海である。
俺がやったんじゃない。アナン教団の魔法使いが派手にやってくれたのだ。
(ぅ・・動けぇぇぇ・・動いてぇぇぇぇ・・・)
捕まっていた森の人達がアナン教団によって神への
おかげで、もうボロボロである。
やたらと体格の良い戦い慣れた剣使いが10人も居たし、とにかく火炎魔法を使える奴が多過ぎた。
雷兎の毛皮の力を得ていなかったら、今頃、灰になって大地の肥やしになっていただろう。毒や呪術が効かなかったのは月光の女神様の加護の
奴隷狩りで戻って来たガザンルード帝国やセンテイル王国の
だが、とにかく全員を神の
迷惑な連中なので返品不可だ。
(・・だれか・・助けてぇぇ・・)
頭がじゅわじゅわ・・って変な音を立ててる・・泣きたいくらいに痛いんだけど?
流人特典で、動かずにいれば回復するのだが、回復と損耗度合いがちょうど釣り合った感じで・・。
もう、結構な時間、服が燃えたり、髪が焼けたりしながら、こうして倒れ続けているんです。そろそろ、誰か助けに来てくれませんかねぇ・・?
ボク、
誰か見付けてくれませんかねぇ~?
もう、泣いちゃうぞ?
これで、ユノンにまで見捨てられたりしたら、ボク本気で泣いちゃいますよ?
見捨てないで・・。
こんがり焼けてるボクを助けに来て・・。
というか、もう駄目かも知れません。
(ぁぁ・・天国のお爺ちゃん、お婆ちゃん・・俺、頑張ったよね? もう日本に帰れないからお墓参りに行けないけどね・・というか、俺のお墓が必要になりそうだよぉ・・)
なんだか、痛みも感じなくなってきて、ぼんやりと空を見上げていたら、
「コウタさんっ!」
どこからか呼び声が聞こえてきた。
「ゆ・・の・・」
「コウタさんっ!」
必死の声が響き渡る。
なにしろ、そこら中が焼け跡だらけだ。俺が倒れているのは、倒壊した倉庫の陰・・顔だけが隙間から覗いた状況だった。倉庫の
「ゆの・・」
乾ききって声が出ない。
「コウタさん! どこですかっ! コウタさんっ!」
懸命に心配する声を聴いて、涙がこぼれそうだった。
自分を心配してくれる女の子が居る・・それだけで、もう幸せで胸が詰まってしまう。
良かった。ちゃんと心配してくれてる。こんなに嬉しいことは無い。
「ユノンさん、あっちに人の反応があります!」
デイジーの声があがった。
(いや・・ちょっと・・待てや!)
あの残念司教が、的外れな方向に誘導しやがった!
(ぅぁぁ・・・くそぉ・・動けねぇぇぇぇ・・)
雷兎の耳は、ユノンの息遣いまではっきりと聞こえているのに、胸に乗っている石壁が邪魔して声が出せない。
「いいえっ、あの方なら・・あの崩れた建物の辺りです」
初めて聴く声が混じった。やや震えの残った女の子の声だ。
(・・捕まっていた子かな?)
アナン教団の立て籠もった陣地に突撃した時、祭壇のような舞台に設えた檻の中に、2人の
「敵の首魁と、あの建物の辺りで戦って・・建物が崩れました」
女の子の声に、ユノンが弾かれたように走り出し、俺が倒れている方向へと近付いて来た。
(な・・ナイスっ!)
誰だか知らないが、素晴らしいファインプレーだ。後で、みたらし団子をあげる!
「コウタさんっ! 返事をしてっ! コウタさんっ!」
焦った足音と共に、ユノンの声が近づいて来る。
「ゆの・・ゆ・・のん」
「コウタさんっ!」
「ゆ・・の」
なんとか絞り出すように声を漏らしていたら、不意に視界に影が落ちた。
「コウタさん!?」
涙をいっぱいに溜めたスミレ色の瞳が見えた。
「ゆの・・ん」
「あぁ・・コウタさん、生きて・・良かった」
俺の状態を見るなり、ユノンが真っ青な顔で力無く首を振る。
「見つかったんですか!」
デイジーが駆けつけて来た。
「ゆの・・ここ、出して・・」
「・・はい!」
ユノンが力強く返事をして視線を左右する。
「手伝おう」
「手を貸すぞ」
男の声がいくつか聞こえた。
「異界の方は、その身を動かさなければ命の力が回復するそうです。命さえ保っていれば・・まだ大丈夫です。とても強い方ですから」
先ほどの女の子が、泣きじゃくるユノンを宥めているようだった。
「治癒術を使います。その間に、皆さんで運び出して下さい」
デイジーの声が聞こえた。
(・・大丈夫かな)
デイジーの魔法と聞いて、一抹の不安を覚える。
(ぃだぁっ・・・)
胸を圧し潰していた瓦礫が持ち上がったのは良いが、代わりに太股が何かの下敷きになったようだった。
(うぅぅ・・もうやだ・・)
泣きたいところだったが、
「コウタさん! しっかりして!」
可愛い婚約者が涙濡れた顔を寄せてくる。女の子にこんな顔をさせて、俺まで泣くわけにはいかない。
「だい・・じょぶ・・らく・・なった」
俺は努めて笑顔で声を振り絞った。
「・・コウタさん」
大粒の涙が落ちてくる。
ああ、両手が使えたら抱き締めてキスしたい。でも、今はボクの両手がおかしな形に曲がっててさ・・。アナン教団の奴等がとても強かったんだ。最後なんて、両手をへし折られた状態で捨て身で破城角を使った挙げ句に、
「だいじょうぶ・・おれ、死なない」
焼け跡から引き摺り出されて、肩と足をそれぞれ誰かに抱えられ、俺はやっとバーベキュー状態を脱出できた。遠赤外線と輻射熱でこんがり焼かれていた体が、ようやく冷気を感じられた。
後は、時間さえ経てば身体は治る。
「コウタさん」
「ユノン・・ありがとう」
俺は眩しそうにユノンの顔を見上げ、痛みで引き
それから、周囲へと視線を巡らせる。
肩と足を抱えてくれているのは、
「助けた・・人達は・・?」
「大丈夫です! 闇谷のみんなが渓谷まで迎えに来てくれました! みんな大丈夫です!」
ユノンが泣き笑いのような顔で言う。
「そうか・・」
それは良かった。
これだけ苦労したんだ。無事じゃ無いと困るよ。本当に、こんなの俺のキャラじゃないんだから・・。俺は軍師キャラなんだからね・・。
「少し・・眠るよ・・さすがに疲れちゃった」
「はい。ゆっくりお休み下さい」
耳元で
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