第55話 戦いは続く!


 固すぎて切り裂くことを諦めた兎の毛皮・・。あれと同じように、俺の皮膚も簡単には切り裂けなくなった・・・らしい。試していないので判らない。短刀でちくちくした感じでは、あまり変わっていない気がする。


(まあ、当たらなければ、どうという事は無いのですよ)


 こんなものは、万が一、俺が叩き斬られるようなシチュエーションにおちいった時に検証すれば良いのだ。


 それよりも・・。


「素晴らしい」


 俺は、細槍キスアリスを手にうっとりと吐息を漏らしていた。


 授かったのは、槍の技だ。


・手槍の操法

・円月の真奥

・理の目利き

・無拍子


 どれも、これといった派手な技では無く、要するに槍の扱い方がとても上手になったという事だったが、我流で毒虫を相手に槍を繰っていた俺としては、なにか頭の中がさっぱりと透き通った気分だ。


(これ・・強くなったかも)


 地味だが、しっかりと強さの底上げができた気がする。細槍キスアリスを持っている時だけだが・・。


「コウタさん?」


 槍をうっとりと見つめている俺に、ユノンが遠慮がちに声をかけてきた。


 女神様に会って来た時間は、こちらでは止まっている。ユノンとデイジーにとっては、会話の途中で、俺がいきなり槍を取り出したような絵面なわけだ。


「ん・・ああ、いや・・ええと、俺、この槍が大好きなんだよね」


 俺は、真珠色をした細槍キスアリスを陽にかざすようにして見せた。


「とても綺麗な槍ですよね」


 ユノンが眼を細めるようにして見る。


「ふふふ・・いくらユノンでも、これはあげません。大事な槍だからね」


「私に槍は難しいです」


「そう言えば、ユノンが武器を持ってるの見たこと無いね」


「お母様に一通りは教えて貰いましたけど、褒められたのは礫打つぶてうちだけでした」


「つぶて?」


「石を投げるんです」


「ほほう?」


 石って武器なの? 俺の中の武器というと、剣とか槍とか、弓矢とか・・。


「ちゃんと当たれば鳥だって落とせるんですよ?」


 かなり正確に投げられるらしい。


「凄いじゃないか。でも・・それって鎧着てたら弾かれるんじゃない?」


「・・そうなんです。なので、どうしても魔法に頼ることになります」


 嫌そうに眉をしかめた。


「魔法嫌なの?」


「だって、私の魔法って・・準備に時間がかかるし、動く的には当てにくいんです」


「ふうん?」


「もしかして、魔導陣なのですか?」


 黙って聞いていたデイジーが口を挟んだ。


「魔導陣・・?」


「指定した場所に魔法陣を敷設して、その範囲内に魔法を発生させるものです」


 デイジーが説明する。

 総じて、威力が高い魔法が多いが、魔法円が足下に浮かんでからでも発動まで2~3秒かかるため、範囲外に逃げられるらしい。

 

「なるほど・・」


 座標指定のタイプか。何となくイメージができる。使いどころを考えないと当たらないだろう。


「デイジーは?」


「治癒などの神聖術、あとは基本的な水火の魔法ですね。聖術による浄化は、身体を清潔にすることもできます」


「ふうん・・」


 身体を洗うくらい、うちの精霊さんだってできるから・・。


「ユノンさんも、清浄化の魔法を使えるみたいですけど・・意外にちゃんと使える人は少ないんですよ? ああ・・でも、異界から来た人は生活魔法というものが使えるんでしたね」


「俺は使えない」


 魔力がありませんからね。


「あれ?・・でも、コウタさんは、とても身綺麗にしていらっしゃいますけど、ユノンさんが?」


「いいえ、コウタさんが自分でなさってますよ?」


「・・・どうやって?」


「世の中、大抵のことはお金で解決できるのだよ、デイジー君」


 俺はふっ・・と鼻で笑った。


「お金で・・」


 怪訝けげんそうに首を傾げるばかりで理解が及ばない様子だ。まだ、精霊をぶところを見せていない。


「さて・・無駄話はこのくらいにして、そろそろ、次の行動を開始しようか」


 休息十分。腕の傷は癒えたし、体力も戻った。


「どうします?」


 ユノンが見つめてくる。紫の瞳がとても綺麗なんだが、この瞬きをしない眼で見つめられると、嘘がつけなくなるというか・・隠しておきたいことまでしゃべってしまいそうで怖い。


 いや、嘘をつく気はありませんよ?


「アナン教団と奴隷商の争い事、捕まっていた人を解放した件を闇谷へ報告してから、森の中の奴隷狩りの奴等を狩っていこう」


 そう言いながら、俺は話精霊を呼んだ。



『ご伝言ですかぁ?』



 蜜柑みかんのような色の服を着た小太りの精霊が現れた。

 横で、レイジーが眼と口を開けて硬直している。



「ディーオ・ラルクーンに伝言を頼む」



『う~んと・・あっ、見つけましたぁ~、伝言できますよぉ~』



 話精霊が嬉しそうに笑顔で言った。



「森の北東から3キロの場所で港町を発見。アナン教団と奴隷商ミーゲル・タランドが争う現場に居合わせ、双方を撃滅。捕らわれていた森の民を解放した」



『承りましたぁ~。代金は500セリカになりまぁす』



「おっけ~」



『口座から引き落としになりますぅ~』



「はいよ」



『ではでは、ご利用ありがとうございましたぁ~』



 蜜柑色の精霊が消えて行った。



「よし・・それじゃあ、森へ」


「ちょ、ちょっとぉーーー」


 固まっていたデイジーが騒ぎ始めた。


「なにかね、デイジー君?」


「な、な、な・・何ですか、今のはぁっ!?」


 酸欠気味の金魚のような顔で、しがみつくようにして詰め寄ってきた。


「素敵な精霊さんだ」


 俺はデイジーの顔面を手で鷲掴みにしながら押し戻した。


「・・コウタさんは、精霊術を使えるんですか?」


「そうかもね」


 俺は興味無さそうに応じて森の方へ眼を向けた。

 精霊さんを呼ぶことは出来るけど、たぶん、デイジーが言うような精霊術というのとは違う。でも、その辺をぐだぐだ説明するのが面倒臭い。


「でも、魔力が無いのに・・どうして・・」


 ぶつぶつ言っているデイジーを無視して、俺はユノンを促して森に向かって走り出した。


「森の人達が捕まっていた。思ったより手強そうだ」


 奴隷にしようと捕まったのなら助け出せるかもしれない。しかし、アナン教団に襲われた者は、その場で殺されてしまうだろう。


「お姉様達は、何処にいらっしゃるのでしょう」


 ユノンが心配げに呟いている。


 デイジーが大騒ぎをするような加護持ちが参戦してきているのだ。今頃、さくっと狩られてアナン教団の祭壇にお供えされているんじゃなかろうか。


(これ、西側から攻め入っている連中にだって、加護持ちが混じってるだろ・・東達は大丈夫なのか?)


 俺としては、同じ異世界人として、二条松高校のみんなが心配だ。


「とにかく、急ごう」


「はいっ!」


 俺とユノンは、ぐんぐん速度をあげて森へと駆け込んでいった。


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