第53話 考察、加護について。


「コウタさんて、色々とおかしいですよね?」


 デイジー・ロミアムが失礼な事を言っている。

 

 奴隷商やらアナン教団やらを片付けた後の事だ。失血で命を失った俺をユノンが助け出し、蘇生するまで護ってくれたお陰で、あまり痛い思いをすることなく森まで退散することができた。


 馬車に乗せられていた人達は全員解放した。森の民と黒豹っぽい獣人だった。薬で眠らされていたが、ユノンが気付け薬であっさりと起こした。それぞれ礼を言いつつ、森に帰って行った。


 今は、みたらし団子を食べている。


「酷い目にあった」


 生えてきた左手の具合を確かめながら、もう1本いっておくかどうか・・わずかに逡巡しゅんじゅんした。

 すでに5本食べている。

 これ以上は食べ過ぎかもしれない。


「あの剣士・・タランドの実弟で、剣神の加護を持っているというミーゲル・タランドですよ?」


「ふうん・・?」


「月光の加護で、どうやったら勝てるんですか?」


「戦いは加護じゃないのだよ、デイジー君」


 俺は軽く鼻を鳴らした。


 俺には模写技があるのだよ?

 剣技や体術を超えた理不尽な技の数々を保有しているのですよ?

 まあ、死にかけましたが・・。

 あいつが2人居たら殺されていたのは俺の方だったね。


 雷轟を放っても良かったんだけど、万一、俺みたいに雷耐性があったり、雷を防ぐ物とか持っていたらアウトなので、禁断の技を使ったのだ。


 俺が敵じゃなくて良かった。

 あんなのやられたら痛みで発狂する。


「だって、あのミーゲル・タランドですよ? 剣聖と呼ばれたコード・マトフォンを一撃で斬り捨て、聖騎士クーヨン・ルーツを一騎打ちで破った、あのミーゲル・・」


「あいつは死んで、俺が生き残った。それが事実でしょ? 何か立派な理屈が必要なの? 不満でもあるの?」


 俺は、6本目のみたらし団子を取り出して頬張った。


「・・いえ、そういう事じゃなくて」


 デイジーが俯く。


「教会の人は、加護というものを神聖視しているのです。神々に与えられた絶対的な力だと・・」


 ユノンが団子の串を手に言った。こちらも3本目である。


「ふうん・・」


 加護なんて飾りですよ? 月光の加護なんて、月夜に身体の動きが良くなるというだけですからね? あんなものを神聖視とか頭にムシでも湧いてんじゃないですかねぇ?


「加護を授かった人は、常人では成し得ない技や魔法・・不思議の力を得るのです」


 デイジーが小さな声で呟くように言った。


(なんだってぇぇぇーーー?)


 みたらし団子がのどに詰まりそうだった。


「その不思議の力は、使うほどに強くなり、様々な力が派生していくのです」


(・・加護、良いじゃん! すっごく良い力じゃん!)


「月光神の加護は・・月が出ている間だけ身体の能力が高まるというものです」


「・・詳しいね」


 神様の関係者なの? 内部事情をり過ぎじゃない?


「ランドール教会は、神々の加護について古くから情報を集めて目録を作成しておりますから・・」


 各地にある教会を情報網として、大陸中の加護者についての情報を収集しているらしい。

 おかしな宗教団体だ。


「ほほう・・?」


「剣による斬撃を見えなくしたり、思いも寄らぬ方向から切っ先を出現させたり・・そうした技が使えるようになる加護と、夜に元気になるだけの加護では・・・戦闘という点に限れば、どうしても優劣がついてしまいます」


「まあ・・・加護だけを比べればね」


 俺は、みたらし団子を2本取り出して、1本をユノンにあげ、1本を自分で頬張った。ユノンが嬉しそうに受け取ってから、新しいお茶をれ始める。


「あれ?・・そういえば、俺って加護の技が・・不思議の技が無いじゃん? 夜の間は強くなるって・・技なの?」


 俺はちょっとした疑問にぶち当たった。


 加護で授かる不思議の技・・それの練度をあげると、新しい力が派生するというサクセスストーリーですよね? 俺はどうしたら? 何の練度があがるの?


「月光神の加護を授かる人自体、とても少なく・・その力で偉業を成すこともありませんので、ほとんど記録が存在しないのですが・・加護を得てから50年経った人が、1割増しくらいの身体能力になったと記されています」


「・・ふうん」


 それって凄いの? ねぇ? 1割増しとか、筋トレしたら達成できるんじゃない?


「実際には個人差があるそうですから、もっと・・2割増しとかになるかもしれません」


「・・そう?」


 その1割の差には意味がある?


「剣神の加護者ですと・・過去には、剣の一閃で城を切断するほどの者が居たそうですから、各国の権力者は、加護を持つ者を発見したら味方に取り込むために力を尽くし、奪い合い・・戦争を起こすほどです」


「馬鹿じゃないの?」


 もう一度言おうか? 戦いは加護の優劣では決まらないのだよ? 加護なんて飾りですよ? 俺なんて、お月様の無い真昼間に、剣神の加護持ってる奴に勝ったんだからね? 加護無しだったからね?


「どうぞ」


 ユノンがれたてのお茶を注いでくれた。


「ありがとう」


 ちょっと舌先にピリピリくるが、とても薫り高いお茶だ。心も体もホカホカである。


「・・そうでした。月光神の加護の大切な力を忘れていました」


 デイジーが呟いた。


「ん?」


「あらゆる状態異常が無効化されます」


「いや、知ってるし・・?」


 デイジーの視線の先にユノンがれてくれたお茶があることに気がついて、俺は少し考えてから婚約者の方を見た。


「良い毒草が見つかりましたから」


 婚約者が嬉しそうに呟いて目元を和ませる。


「う、うん・・」


 俺には毒が効かないからね。うん、知ってるから毒草でお茶をれたんだよね。分かってる。ユノンはとても良い子なんだ。


 これ・・仮にこのまま、いつか結婚したとして、来客があった時とか気をつけなきゃ、うっかり毒殺とか・・。


「コウタさん?」


 ユノンが小首を傾げて見つめてくる。


「いや、ほら・・なんというか・・俺って、毒を飲み食いしてると、新しい力とか派生させるのかな?」


「どうなのでしょう?」


 ユノンがデイジーを見た。


「無い・・と思います」


 過去に、稀少例で発見された月光の加護持ちが試したらしい。生涯に渡って毒物を食べ続けたが、結局、新たな力を得ることは無かったそうだ。おまけに、その人物は、加護を持たない、ただの夜盗に襲われて命を失ったそうだ。


「・・残念ですが」


 デイジーが俺の方を見て、小さく嘆息した。

 まるで、死病を告げる女医のように・・。


(・・って、女神様ぁーーーー! なんか、溜息つかれてんだけどぉーーー?)


 俺は胸内で叫びながら、そっと8本目のみたらし団子を取り出した。


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