第40話 客人にクラスアップ!


「森が大変な事になっている」


 東の声に、


「ふうん・・そう」


 俺は素っ気なく答えた。


 当たり前だ。


 俺と東の間には、絶望的な距離感がある。

 

 東の周りには、二条松高校の美少女軍団に加えて、ありえない造形の美貌をしたスレンダー美少女が並んでいる。


 対して、俺の方は、冷え冷えとカビっぽい石床と、粗末な造りの寝台と小机だけだ。


 その上で、俺と東の間を鉄格子がへだてている。


 いったい、俺が何をしたというのか!


 逃げずに戻って来て、しかもちゃんと頭を下げて謝ったというのに・・。


 吊された樹から落ちたのは事故だからね? 変な蜘蛛女が襲ってきたんだから・・。


(まあ、良いけどね)


 みたらし団子を食べながら、俺は寝台に寝そべって、先日拾得した物品の仕分けをやっていた。


 剣と錫杖っぽい物の幾つかは売却した。

 拾った布袋には棒金貨という初めて見る大型貨幣が10本、金貨が10枚ずつ紙片に包まれて20個、誰かの名前を記した帳簿と、半分に割ったコインが入っていた。

 他に拾った物は、傷んだ巻物が2つ。魔法の仕掛けで開ける事ができないので鑑精霊に査定をさせたが、たいした値段が付かなかった。とりあえず、そのまま収納している。


「結城、どこで何をしていたのか話して貰えないか?」


「おまえと話すことは何も無い」


 俺はきっぱりと拒絶した。

 俺と和解をしたかったら、まずは牢から出したまえ。


「・・仕方が無いな」


 東があっさりと引き下がっていった。


 俺は、小机の上に燻製肉を出して切り分けた。


「異界の者よ」


 いきなり声を掛けられて、俺は物凄く嫌な顔をした。


 まさに今、燻製肉を口へ頬張ろうとしていたところだったのだ。


 とはいえ、話し掛けられてから口に物を入れるのは失礼だろう。


「・・何か?」


 俺は鉄格子の向こうへ視線を向けた。


 そこに立っていたのは、やっぱり、繊細に目鼻立ちが整った美男子だった。この村だか、町だかの住人は、男女に関わらず、全員が美形だ。それも半端な美形では無い。


「どなた?」


「里の長老、エーフィス・ルーノだ」


 この若々しい美少年は長老らしい。


「俺は、コウタ・ユウキ」


「ふむ・・では、ユウキと呼んで良いか?」


「どうぞ」


「下の森で、ユウキが関係したであろう騒動が起きている」


「憶測で人を悪者扱いするのは止めましょう」


「ユウキが落ちた場所に、天幕があったのを知っているか?」


「・・いいえ」


「魔法で隠蔽されていて、我ら森の民ですら気がつかないほどの隠し方だったのだが・・そこへ、ユウキが落ちた」


「ふうん・・」


「その天幕に居た者達が何者なのかが知りたい」


「・・そんなこと訊かれてもな。粉々だったし・・」


「何でも良い。手がかりを・・何か思い出せないか?」


「う~ん・・」


「下の森に、多くの軍勢が攻め入って来ている。森の守護者達が向かったようだが、あれだけの数を相手にすれば多くの死傷者が出るだろう」


「守護者?」


「ユウキが斃した猿人だ」


「・・あぁ、あれね」


「我らが従えているわけでは無い。獣人王の差配によるものだ」


「獣人・・」


 あの猿は人だったのか?


「我らとしては、あれだけの軍勢が攻め入ってくる理由を知っておきたい」


「・・分かりました」


 長老だという人物が、これほど丁寧に話をしてくれたのだ。ちゃんと答えないといけないだろう。

 俺は、燻製肉を収納した。

 代わりに、傷んだ巻物を2つ取り出して鉄格子の隙間から長老だという美少年に手渡した。


「あそこで拾った物ですよ。俺には開けられなかったけど」


 腹立たしい事に、魔力が無いと開かない仕掛けらしいのだ。


「我らで読んでも良いか?」


 すぐに開かず、連れてきた全員で読んでも良いかどうか、許可を求めてくる。


「どうぞ」


「では・・」


 巻物を開いて読むなり、平静だった美少年の容貌に、初めて動揺があらわれた。立て続けに2本とも眼を通し、後ろに控えていた美少年だか、美少女だかに手渡し、読むように指示をする。


「ユウキ、とてつもない内容だ」


 ランドールという宗教組織の長が森の民や獣人を人間より下だと断じ、ガザンルード帝国とセンテイル王国、さらにはタランドという奴隷商が、ここの森にいる森の民や獣人を捉えて奴隷として売買する協定書だった。


「すぐ近くの森で会談とかやってたのに、誰も気が付かなかったのかな?」


「・・そういうことだ。馬鹿にされたものだな」


「もしかして・・みんな死んじゃった?」


 俺、空から落ちた時に、破城角とか使って・・。

 俺が、協定に来ていた人を・・?


「死亡、もしくは重傷を負ったのだろう。この協定は本人の血判が押されている。辺境伯ルギール・クーランダ、サキューレ・ムーラウス王女、奴隷商タランド、そして、立ち会いとしてランドール教会の・・メンヒス・ポーラ司祭が居たことになるな。むろん、護衛の兵は連れていたはずだが・・」


 長老が元の落ち着いた口調で言った。


 なんだか、身分の高そうな感じの人達だ。やってしまった感がある。


「俺、こっちの人の名前が分からないんですけど、メンヒス・ポーラって女の子の名前ですか?」


「・・いや、メンヒスというのは男性の響きだな」


「そうですか・・」


 じゃあ、あのお尻の子は何だったんだろう? 着ていた服は、教会の関係者という感じだったけど。


「ユウキのおかげで、すべてに納得がいった。さすがに、これを黙ってはいられないな。ユウキ、この書簡を預かって良いか?」


「差し上げます。俺が持っていても意味が無さそうだから」


「感謝する。すぐに牢を開けよ! この者は非常に貴重な情報をもたらしてくれた恩人だ。客人として遇する」


「はっ!」


 付き従っていた美形の少年?が進み出て牢の鍵を開けた。


「出ようと思えば出られたのだろうが・・よく我慢してくれた」


 長老が小さく礼をする。


「いえ、ありがとうございます。屋根付き、寝台付きで快適でした。森の獣に怯える必要も無いですし」


 俺は深々とお辞儀をしてから、大きく体を伸ばした。


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