第26話 慟哭
俺は生きていた。
いや、みんな知っていたとは思うが念のため・・。
(ふぅ・・・知らない空だぜ)
俺は地面で寝ていた。
もう一度・・。
俺は地面で寝ていた。
(・・なんで?)
こういう時って、どこかのベッドで、綺麗な女の子とかが看病してくれてたり、膝枕とかして貰ってて、ちょっぴり甘酸っぱい
どうして、俺はぽつんと1人で、土の上に寝ていますか?
虫がたかって来てるんですけど? 蟻っぽいのが顔を登ってますが?
俺はむくりと身を起こすと、大急ぎで体に寄っていた虫を払い
手足が問題無く動く事が立証された。すでに腰の痛みは消えている。どうやら元気だ。
そう思ったのだが・・。
「あれ?」
俺は、ふと自分の道着の胸元を見下ろした。
・・おや?
こんな所に、穴が・・?
厚い綿の道着の胸に穴が空き、そこを中心にお腹の方にまで出血した痕がある。
(へっ?・・なに、この傷? いつ刺されたの?)
意識を失う前の戦いでは、あちこち痛い思いをしたけど、こんな致命傷は負わなかった。
(・・マジか?)
これ、気絶している間にやられたよね? 気絶して倒れている俺を、誰かが剣か何かで突き刺したよね? というか、あの時、俺を刺せたのは、二条松高校の皆様しかいませんでしたが・・?
・・信じられん
俺は溜息を漏らしながら、膝から座り込んだ。
確かに、仲間ってわけじゃないし、助けたのも偶然居合わせたからだが・・。それにしたって、こんなことするか?
(そりゃぁ・・色々と見ちゃったよ? もう、限界突破して見ちゃったけども・・裸見て興奮したし、なんていうか劣情?みたいな・・ムラムラしてたし・・でも、助けたじゃん。ちゃんと、頑張ったじゃん)
結構、命懸けだったからね? 余裕ナッシングだったんだからね?
(あぁ~~ぁ・・・つまんねぇの)
もうちょっと、マシな連中かと思ってたのに、がっかりだ。
「はぁ・・」
小さく息を吐いて、俺は改めて周囲を見回した。
鱗肌の巨漢、痩せ男、女魔法使いの死骸はそのまま残っていた。焚き火の男達もみんな死体となっている。
樹の横枝には、そこに吊されていた少女達の名残のように、切られた縄がぶら下がって揺れていた。
「はいっ、切り替え、切り替え」
自分を
金銭の類はもちろん、毒物などを所持していれば貰っておきたい。
(あるし・・)
痩せ男が金属のケースを所持していて、中には金色をした針が並んでいた。どう見ても、まともな品じゃない。隠し武器は、禍々しい黒色をした短剣、投げナイフが数本・・。
鱗肌の巨漢は、ほぼ何も所持品無し。
(・・というか、シャツやタイツじゃなかったんだ)
かぶり物とか刺青でも無く、本当に
女魔法使いは、剣に巻き付いた蛇を象った首飾り、黒衣の隠しには金貨と銀貨を入れた小袋、どこかの鍵、後は指の指輪と・・。
(まさかね・・?)
一応、念のため、黒衣を盛り上げる豊かな胸の隙間へ手を突っ込んでみる。まあ、谷間に溜まっていた汗で手が濡れただけで何も得るものは無かった。
(こいつらは、下っ端だろうけど・・)
男達の持ち物も調べる。
(まあ、こんなところかな)
納得したところで、この場を後にした。
(結城浩太は男でゴザル!)
こんな事くらいで、ぐだぐだ言いませんよ?
綺麗な女の子と仲良くなれそうかもって思ってたけど?期待してましたけど?
未練なんかないし?
泣いたりしないしっ!
命のスペアのありがたさが身に
(しかし、矢か・・)
弩の矢を受けたことで危うく死にかけた。漫画とかでイメージしていたより、弓矢というのは脅威だ。実際に狙われてみると、回避し難く、微かな矢羽根の音は聞こえづらかった。
何か対策を考えないと、いつか矢を射られて死んでしまいそうだ。
(鎧かな? 動きが遅くなるのは嫌だけど・・)
魔法は使えないし、矢を見つけて避けるのも限界がある。
素早く動ける間は良いけど、何かで動きが鈍ったら・・。避ける間が無いほど矢が降り注いだら・・。矢より早い飛び道具とかあったら・・。
(死ぬよねぇ・・)
よく今まで生き残ってきたものだ。
しかし、これからどうすれば・・?
町へ行っても、まともな店では買い物できない。宿にも泊まれない。
森の中には、アズマ達が居る。
なんでか知らないけど、仲良くはなれそうにない。俺の方は友好的なつもりなんだけど・・。
(本当に、悪い人間じゃ無いんだけどなぁ・・)
ああ、駄目だ。
危ない、危ない。
うっかり、眼から汗がこぼれ落ちるところだった。
(結城浩太は男でゴザル!)
雑念を振り払うように首を振って、俺はフンッ・・と鼻を鳴らした。
まったく、何をくよくよしてるんだ。
ちょっと綺麗な、いや、かなり綺麗な女の子達に裏切られただけじゃないか。
良い感じに言葉を交わせたっぽかたっし?
向こうも嫌ってる感じがしなかったし?
同じ日本人だし・・。
高校生だし・・。
16歳だし・・。
(へへっ・・俺としたことが)
なんだか、目の前がよく見えねぇぜ!
なんだよ? 雨でも降ってんのかぁ?
前をキッ・・と見据えて、唇を引き結び、大股にずんずんと歩いていく。
極めて高確率で女子と間違われる綺麗な細面に、ぱっちりと開いた、やや目尻下がりの大きな瞳から、だだ漏れに大粒の泪が流れ続けていた。
「・・ちくしょぉぉぉぉぉーーーーー!」
俺は腹の底から振り絞って声の限り叫んでいた。
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