第25話 浩太、頑張る!


(これ、きっついなぁ・・)


 俺は木陰から見えた光景を前にたじろいでいた。

 見た目の割に、くそ度胸があるとか、肝が灰色だとか・・言われ放題だった俺だけど、目の前のこれは・・ちょっとくる。


 樹の横枝に縄を掛け、手を上に縛られた女子達が吊されていた。

 全員が真っ裸である。首に銀色のリボンのような紐を結ばれ、生まれたまんまの全裸で、爪先がぎりぎり届く高さに吊り下げられていた。

 それぞれ身長に合わせて縄の長さを変えているところなど芸が細かいというか、こうした作業を何度もやって手慣れているのだろう。



(ホンゴウと・・知らない女の子が4人)


 あの美人さんが裸にかれて吊されているのだ。完全に女子校生を逸脱いつだつした迫力のある肢体だった。裸身がまるで輝いているかのように見える。

 こんな時だというのに、俺の男子がムクムクと高まる気配を見せて騒ぎ出してしまった。


 下卑げびた表情の男達が6人、近くで焚き火を囲みながら女子の裸をめるように見回して品評を口にしていた。焚き火の炎が陰影を揺らがせて、少女達の裸体をどこか淫靡いんびに見せてしまう。


(まさか、もう・・?)


 おかされてしまったのだろうか。いや、恐らく、そうなのだろう。


 そう思いながらも、俺は少女達の太股回りを眺め、ちらちらとその内側へと視線を走らせる。どの子もきつく太股を閉じて、顔をそむけていたが・・。


 しだいに頬が紅潮して、ぼうっと頭の芯が溶けるような錯覚を覚えて、俺は断腸の思いで視線を切った。


 これは駄目だ。

 

 健全ピュアな高校男児には強烈過ぎる。


(とにかく・・なんとか助けないと)


 そう思いながらも、ついつい無防備にさらされた乳房に眼を奪われ息を呑む。


(い、いや・・駄目だっ!)


 鋭く首を振った時、


(ぇ・・ぁ・・ぉぃっ!)


 木々の間から、黒い修道服のような衣服の女を先頭に、見るからに危なそうな病的な眼をした痩せ男、首から下が緑色の鱗に覆われた肌をした巨漢が近付いてきた。


 弾かれたように、焚き火の6人が立ち上がって、3人を出迎える。


(アズマ・・)


 せ男の手に、アズマが引きられていた。鱗肌の巨漢は両手に一人ずつ引き摺っている。片方は、長身の美男子だ。3人とも、唇を少し切った程度だ。傷を負わさないように配慮をして捕まえられたらしい。


「1人、死なせたわ」


 女が腹立たしげに言って、吊されている少女達を眺める。


ってないだろうね?」


「へいっ! まあ、あちこち触らせて貰いましたがね」


 焚き火の男達がゲラゲラと笑い声を立てる。


「ふん・・高値が付きそうじゃないか」


 女が満足そうに言って、端に吊された少女の前に立ってあごを掴むようして顔を確かめ、強引に眼を開き、さらに口を開けさせて歯並びを見る。それから、目立った傷が無いか裸体を調べていった。


 最後に、


「ほら・・股を開かせな!」


 焚き火の男達に向かって顎をしゃくる。


「へいっ、待ってました!」


 2人の男が大急ぎで駆け寄って、左右から一本ずつ足首と膝を掴む。少女がきつく太股を閉じて頑張っているが、むしろそれを楽しむようにして、男達が少女の脚を持ち上げ、じわじわと左右へ拡げていった。


「そのまま持ってな」


 大きく左右に脚を拡げられた状態で少女が泪を流しながら首を振っている。その前に女が身を屈めて指を伸ばした。


 そこまでが、俺の限界だった。


 連れの3人には離れて待っていて貰い、俺1人で偵察して戻る約束になっていた。ただ、緊急の時にはその限りでは無いとも・・伝えてある。



(これは・・緊急でしょう)



「ふん、確かにまだ新しそうだ」


 女の声が聞こえた時には、頭に血を昇らせた俺が、短槍を手に木立の間を駆け抜けて襲いかかっていた。


 雷兎の蹴脚・・


 ウロコ肌の巨漢の背中めがけて跳び蹴りをかまし、その反動で跳び上がりながら、せ男の頭を右から左へ蹴りつける。咄嗟とっさの動きで、痩せ男が腕をかざして受け止めた。しかし、鈍い破砕音と共に、腕がへし折れていた。


 着地するなり、地を蹴って女めがけて走る。


「・・ちっ!」


 振り向きざまに女が手を振ってきた。

 ほんの一瞬、女の体が淡く光る様子が見て取れる。


 俺の体が真横へ跳んでいた。

 素早く口に毒消しの木の実を含み、身を沈めながら短槍で近くの男の足を打ち払う。まあ、俺の腕力じゃ、ちょっと痛いくらいだ。


 それでも・・。


「ってぇーー、この野郎っ!」


 男が足を抱えて大げさに声をあげた。

 これで、隠れている3人に何かが起きたことが伝わる。できれば、そのまま隠れていて欲しいけど、どうするかは3人の自由だ。


「せいっ!」


 鱗肌の巨漢が拳を振り下ろしてきた。入り身で身を寄せつつ回避して、短剣で狙ってきた痩せ男めがけて短槍を繰り出す。


「どきなっ!」


 女の声に、鱗肌の巨漢と痩せ男がそれぞれ跳んで回避した。そこに、何かの魔法を打ち込もうとして・・。


「・・いない!?」


 女が眼を剥いて視線を左右する。


 何しろ、俺もせ男と一緒にんで回避していたのだから。


「このっ・・」


 痩せ男が振り向きざまに短剣を振ってくる。その顔に、俺は針を投げつけていた。拾いものの毒針だ。当たるだけでも・・と思ったが、偶然にも一本が痩せ男の目に浅く刺さって傷を入れたらしい。


「つっ・・うっ!?」


 痛みに顔を背けた痩せ男が、不意に動きを止めて恐怖に眼を見開く。


「て、てめぇ・・これ」


 何やら言いかける痩せ男の後ろに回り込んで襟足を短槍で貫き徹す。

 そのまま押して、迫って来た鱗肌の巨漢の方へと突き出した。


 直後に、


「う・・ぐっ」


 情けない声を漏らしたのは俺だ。


 焚き火を囲んでいた男の1人が放った矢が腰の辺りに刺さっていた。たたらを踏んで、よろめいた俺をめがけて、


「死んどきな」


 女が魔法を放った。薄い緑色の光が無数の玉となって押し包んでくる。


「・・くそっ」


 腰の矢を引き抜きながら、俺は必死に跳んで地面を転がった。


 魔法が地面を穿っているのだろう、太鼓を連続して叩くような音を背後に聴きつつ、飛び起きる。だが、腰に受けた傷のせいで動きが悪い。


 視界の端から、丸太のような足が襲ってきた。

 タイミングを狙われていたらしく、避ける間など無かった。


(あぁ~ぁ・・・)


 痛そうだなぁ・・。骨が折れるかなぁ・・。


 そんな覚悟を決めつつ、短槍を胸元に引きつけて衝撃に備えた。


 果たして、とてつもない衝撃が襲った。ほぼ一瞬にして、俺の体が宙へ吹っ飛んでいた。サッカーボールもびっくりな飛び方である。


 半分は自分で跳んだ。

 それでも、5メートル近い高さまでね上がったのは異常だ。


(嘘だろぉ・・)


 俺の相棒が・・短槍がひん曲がっていた。材質は知らないが、柄まで金属っぽい物で出来た丈夫な短槍が、ぐにゃりと曲がってしまっていた。


 空中を回転して飛びながら、曲がった短槍を収納して素手になる。

 手近な樹の枝を掴むなり、姿勢を変え、枝を蹴って跳んだ。


 すれすれを、無数の空気弾エアバレット擦過さっかして樹の枝葉を散らせ、太い幹に拳大のえぐれをちりばめる。


 あんなものを受けたら、小柄な俺とか一瞬で挽肉ミンチにされる。


 続けて飛来した空気弾を樹の裏に隠れてやり過ごし、俺は木々をうように走って鱗肌の巨漢をめがけて迫った。


 巨漢は油断なく身構えている。荒削りの彫像のような男臭い顔が、向かってくる俺を認めて笑みを浮かべていた。


 その時、


「ぎゃっ・・」


 どこかで男の悲鳴があがった。上条達が何かやったのかもしれない。

 反射的に、魔法使いの女も、鱗肌の巨漢も視線を向けている。

 その一瞬で、俺は間合いを詰めた。


 雷兎の蹴脚・・


(金的ぃーーーーっ!)


 禁断の荒技が、鱗肌の巨漢の股間を直撃した。立木を蹴り折る一撃だ。

 声に鳴らない叫びと共に、鱗肌の巨漢が身を折った。

 巨漢の頭が、俺の目線に来た。


(雷兎の破城角ーーーーっ!)


 渾身こんしんの頭突きを叩き込んだ。今度は手応え・・いや頭応え十分だ。頭蓋骨を砕いた感触がある。

 衝撃で太い首がへし折られ、頭部が半分砕けた巨漢が、よたよたと後退って尻餅をつく。


 すかさず駆け寄った俺が、


(雷兎の破城角っ!)


 もう一発、凶悪な頭突きを見舞った。


「ヤンゼンッ!」


 女魔法使いが信じられないといった形相で声をあげた。


 女魔法使いの後方では、焚き火の周囲に居た男達が、上条、黒川、槙野の3人によって斬り伏せられ、虫の息で地面に倒れ伏している。


「・・くっ、くそぉっ!」


 女魔法使いが、枝に吊されている裸の少女達に向けて魔法を放とうとした。

 だが、その行動は予想の範囲内だ。


「・・とうっ!」


 駆け寄った俺が、両足を揃えて女の頭部めがけてドロップキックを放った。ズシッ・・と重い感触を感じたのも一瞬、女の体が頭から吹き飛んで、少女達が吊されている樹の幹に叩きつけられて激しい音を鳴らした。


 昏倒して崩れ伏す女めがけて、上条が、黒川が、そして槙野が剣を手に駆け寄って、それぞれが剣を突き立てていった。


(へへっ・・やるじゃん)


 必死な形相の3人の姿に眼を細めながら、俺は地面に倒れていた。


 さすがに限界です。

 腰とか痛いし・・なんか血が流れちゃってて・・。


(あ~あ・・これ死んじゃうのかなぁ・・)


 朦朧もうろうとした意識の中で、そんな事を思いながら、俺はゆっくりと意識を手放していった。


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