第24話 自己紹介から始めましょう。


「俺は、結城浩太。港上山高校2年、16歳、男。ここ大事ね? 極めてまれに、女の子と間違う人がいるからね? 疑うんなら脱ぐからね?」


 俺は3人の少女達を前に自己紹介をした。


 無視スルーされるかな・・と思ったが、


「二条松高校2年、みんな同い年・・私は上条静香」


「槙野真紀です」


「黒川真子よ」


 いくぶん硬い表情だが名乗ってくれた。まだ声の震えが収まっていない。たった今、ひどい思いをしたところだ、仕方がないだろう。



「あ・・これ?」


 3人の視線を感じて、おでこの小角を触る。


「技を覚える代償に、なんか生えちゃった。触ってみる?」


「ぇ・・う、うん」


 座っている3人に向かってお辞儀をするように頭を下げる。

 3人が遠慮がちに恐る恐る真珠色の角に触れた。


「角のある大きな兎が居て、そいつを倒した褒美みたいなものらしい」


 言いつつ、物音に気付いて振り返った。

 つられて3人も顔を向けたが、清流の流れと立木があるばかりだ。


「みんな動ける?」


 くと、3人が頷いた。

 みんな汚れたり裂かれたりした衣服を着替え、黒い短パンに、白いTシャツ、上から黒いジャージの上着を羽織っている。学校の体操服らしい。


「こっちから、足音が近づいて来てる。1人だけ・・こいつ、前に村に来た奴だな」


 ひたひたと忍ばせる足音、小幅で規則正しいリズムを刻む足の動きに覚えがあった。


「何か聞こえるの?」


「俺、ウサギみたいに耳が良いんだ」


 答えながら、ひとまず何処かに隠れようと、少し離れた樹々を指さす。3人が無言で頷いて付いて来た。

 樹の裏側に身を寄せて息を殺していると、姿を見せないまま清流の反対岸に足音が近づいて来て止まった。


 しばらく動きを止め、ゆったりとした間を置いて、木陰から影が滑り出るように小柄な男が川岸に姿を現した。

 濃い茶色の服に身を包み、顔の目元だけを覗かせている。後ろ腰に挿した短刀へ手を伸ばしながら、そろそろと歩いて血が飛び散った川辺を確かめ、それから死体の方へ近づいていった。


 ノゼ、ヤマグチ、ガルミルドの死骸はそのままにしてある。持ち物は貰ったけど・・。


 死骸の傷を確認をして、男は周囲をゆっくりと見回した。その視線が、俺達が隠れている樹の辺りを往き来した。気付かれたらしい。


(他には居ないな)


 1人だけだと判断して、俺は短槍を手に木陰を飛び出した。


 こいつは危険な奴だ。

 放ってはおけない。


 川面を駆け抜けるように一直線に男を狙う。男がわずかに眼を細め、袖口から何かを取り出して指に握った。


(やば・・)


 咄嗟とっさの判断で顔を腕でかばいつつ、取り出した木ノ実を口に入れた。

 直後に鋭い痛みが二の腕、肩口に突き刺さる。小さな針のようだった。ヒヤリと背筋を悪寒が震わせる。そう感じた瞬間に、口の中の木ノ実を噛み砕いて嚥下えんかした。


 わずかに動きを乱したが、ほぼ変わらない速さで男へ迫る。


 腰を落とした男が短刀を抜いて構えた。



 ギイィィィーーンン・・



 金属音が鳴って短槍の穂先と短刀がぶつかり合った。


 俺が真横へ跳ぶ。男が滑るように後退る。


 互いに武器を構えてにらみ合った。


(やっぱ、ヤバい奴だ)


 腕と肩に刺さっていた針を抜いて収納する。裁縫に使う針くらいの大きさだが、強い毒が塗られていた。毒消しの木ノ実をかじらなければ殺されていただろう。


(だけど・・)


 交錯した際に俺の短槍が男の親指を骨まで傷つけていた。毒の効き目に自信があったのか、まともに短刀で槍を受ける形になって受け損なったのだ。

 短刀を取り落とさなかったのは凄いけど・・。


(念のため・・)


 もう1つ木ノ実を口に入れ、俺は地を蹴って前に出た。と見せて、真横へ跳ぶ。さらに跳ぶ。男を円の中心にして疾る。いきなりの事で、男の動きがわずかに遅れた。

 俺は、走りながら、強く、弱く、短槍を突き出してから飛び退って距離を取った。


(・・おっと!)


 手傷を増やした男が懐から小さなつつを取り出したのが見えた。

 瞬間、俺は全速で距離を詰めて、男の手首ごと筒をね飛ばした。


 苦鳴もらさず、怒りに眼を血走らせて、男が無事な左手に短刀を持ち替えた。



「名前ある?」


 俺は声を掛けた。



(一角尖・・)



 こっそり発動させながら・・。



・・2・・3・・・



「ディギンだ・・お前は?」


 男がかすれ声で答えた。



 4・・



 直後、俺の理不尽な頭突きが男を圧壊させていた。

 加減をしてこれだ。

 ウサギは強いんだ。



「俺は、コウタ・・だけど、聞こえないよね」


 男だったものを見ながら小声で呟いて、俺は深呼吸をして緊張していた手足をゆっくりと解した。


「大丈夫?」


 少女達が駆けつけて来た。死体の方を見ないようにしているが、顔は血の気を失って青ざめている。


「なんか・・もう、チビりそう」


 俺は汗のにじんだ顔を道着の袖で拭いながら溜息をついた。


(ぁ・・)


 そこで、殺人をやった事に気がついた。いや、だいぶ今更だが・・。少女達が見ている前でやらかしたのは、まずかったかも知れない。

 無闇に怖がられたり、嫌悪されたりすると、この後が面倒になる。


「あぁ・・その・・放っておいたら、危ない感じだったから、つい・・」


 言い訳めいたことを言ってみる。


「ううん、私もそう思った。なんか、怖い感じだったね」


 黒川という子が頷いて見せる。


「うん、怖かった」


 上条と槙野も青ざめた顔を見合わせて頷き合っていた。


 どうやら、ゆるされたかな?


 なら、


「アズマ達を捜した方が良いと思うんだけど・・なんかヤバくない?」


 俺は3人の顔を見回した。針を投げ、毒を使ってくる相手だ。不意を突かれたら危ないんじゃなかろうか。


「確かに・・」


 上条という子がうつむく。


「でも、アズ君達なら大丈夫だよ。すっごく強いもん」


 黒川が声を励まし、


「ここも危ないから・・どうせ動くなら捜した方が良いかも」


 槙野が言った。


「広域探知を使ってみるわ。なんか、魔法って逆探知されるから使わないように言われてたんだけど・・」


 そう言って、上条が両手を前に突き出して呪文を呟き始めた。



(・・魔法良いなぁ)


 カッコイイよね? 呟いている内容は日本語じゃないから意味わからんけど、あれを真似たら魔法が使えたりしないかな?


「ぉ・・」


 地面に淡く輝く幾何学模様が浮かび、大きく広がっていった。


 使用の瞬間、上条の体が同じ色の光に包まれた。他の2人が当たり前な顔をして見守っているから、そういうものらしい。


(いちいち光るんじゃ、案外、使い所に困るかもな)


 夜なら居場所が相手にバレるし、狙われ易くなりそうだ。


 いや、ひがんで短所を探してるんじゃ無いよ? 本当だよ?


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