第23話 英雄は、滝ドンッ!


 滝の上から人間が降ってきた。


 見渡すことが叶わない遙かな滝の高みから、手足を大きく開いたまま水面を抱くようにして激突したのである。

 降って来た人間は、瀑布の轟音すら切り裂く、痛々しい打音を残して沈んでいった。



 死んだ・・。



 誰もがそう認識した。


 滝上からの落下は、水面とはいえ、岩に激突したほどの衝撃だっただろう。それほどの高さがある。どう受け身をとったところで死は免れないだろうが、落ちてきた人間は大の字になって顔面から激突したのだ。


 日本で言えば初夏のような季候の中、二条松高校の女子生徒3人が気分転換で水浴びをしていたところだった。


 女子だけである。

 みんな下着姿で滝のしぶきを浴びたり、泳いだりしていた。


 男子高校生垂涎すいぜんの光景だが・・。

 仲間の男子と一部の女子は狩猟に出掛けて不在だ。


 まさかの乱入に、3人が騒然となって川辺に衣服を取りに走った。

 魔物の接近を怖れたのだ。



「索敵・・反応ないよ!」


 バタバタと制服を着ながら、探知の魔法を使った1人がみんなに報せた。


「うん、警報も鳴らなかったし・・」


 少なくとも、周囲の森から来た訳じゃない。


 やはり上だ。


 遙かな滝の上に居た人間が何かの弾みで落ちて来たという事だ。


「待って! 何か来るよ!」


 みんなに声を掛けながら、茶色い髪にウェーブを掛けた少女が長剣を抜いて手に持った。探知魔法を使っていた少女だ。


「数は?」


 2人が駆けつけて横一列に並んで剣を構えた。


「・・反応、3っ!」


「多いね・・囲まれたらまずい」


「滝を背にしよう! アイリ、マキ、魔力回復してる?」


「任せて!」


「大丈夫よ」


 呼ばれた2人が返事を返しながら膝丈くらいまで川へ入った。


「これ、山犬・・じゃないわ。あいつらだ。ヤマグチ達・・なんか隠蔽ハイドの魔法使ってる」


「・・こんな所まで」


「気持ち悪い」


 嫌悪も露わに身構えている少女達が睨み付けている先で、設置してあった警報マキビシが鳴り響いた。


 踏んだらしい男子の罵声が聞こえる。


「ノゼだ。あいつ、土系の魔法使えるよ、気をつけよう!」


「うん!」


 主力組が狩りに出かけている時を狙いすましたような襲来だった。

 かなり前に脱けた男子達・・8人が生き残ったと聴いていたが、廃村で1回、その後にも1回、襲撃してきている。


「やあ・・マキマキに、カミジョウちゃぁ~ん」


 どこか感情の抜け落ちたような声がして、剣を手にした少年が木陰から現れた。端正な顔立ちだが、ゾッとするような嗜虐しぎゃく的な笑みを浮かべている。


「クロちゃんを忘れちゃいかんよ?隠れ巨乳なのだからね」


 ニキビが酷い小太りの少年が横に並ぶ。


「おうっ! 良いじゃねぇか。3人とも上玉だぜ!」


 銅鑼声どらごえを張り上げて姿を見せたのは、背丈が2メートル近い巨漢だった。二の腕も胸回りも、凄まじい筋肉の隆起をしている。


「でしょう? 売るだけじゃ勿体無もったいないですよね?」


「おうよ。ここでっちまおう。向こうは向こうで楽しんでんだからよ」


「ボ、ボク・・クロちゃんだからね?」


 ニキビ顔が、興奮を抑えきれない顔で巨漢に言った。


「どいつだ?」


「端っこの背の小さい子・・」


「良いぜぇ、俺は真ん中の勝ち気なつらしたやつを頂く」


 巨漢がウェーブの掛かった茶色い髪の少女を棒で指した。


「じゃあ、僕はマキマキを犯れるんだね。あぁ・・楽しみだなぁ」


「ヤマグチ・・オオタ君はどうしたの?」


「あぁ? あいつなら死んだよ? 泣きながらゴブリンにボコられてたぜ?」


「・・このっ!」


 クロと呼ばれた小柄な少女が手の平を、ヤマグチという少年に向けた。瞬間、色鮮やかなグリーンの光が三日月のような形になって放たれた。

 しかし、地面から突き上がった土壁ウォールに当たって虚しく霧散して消えてしまった。


「駄目じゃない・・クロちゃんの相手はボクだよ? クロちゃんの全部がボクのものなんだからね?」


 ニキビの少年が次の魔法を準備しながらうそぶく。


「やるじゃねぇか」


 笑いながら、巨漢が前に出てくる。その正面に、カミジョウという少女が剣を構えた。


「へへっ・・ちっとばかしサマになってんなぁ?」


 巨漢が薄ら笑いを浮かべたまま、手にした棒を振り下ろした。右に避けて前に出ようとした少女を、下から上に振り下ろされたはずの棒が跳ね上がって襲った。


「くっ・・」


 危うく剣の腹で受けつつ、押されてさがる。


「ほらっ、ほらっ・・どうした嬢ちゃん!」


 巨漢の棒がしなりながら様々に角度を変えて少女の手元を襲う。


「シズカっ!」


 援護しようと、横に居た少女が魔法を唱え始める。

 しかし、今度はヤマグチという少年が駆け寄るなり手を伸ばして少女ののどつかもうとする。


「マキっ、さがって・・そいつは」


「おいおい、よそ見して良いのかい?」


 巨漢が嘆息混じりに言うなり、鋭く棒を動かしてカミジョウという少女の手から剣をはじき飛ばした。


「あ・・」


 弾け飛んだ剣を眼で追い、どうしようかと迷ったところへ、


「おら・・よっと」


 巨漢が踏み込みざまに拳を鳩尾みぞおちへ突き入れた。声も無く身を折って少女が崩れ落ちる。


「シズカっ!」


 悲痛な叫びをあげて他の2人が駆けつけようとするが・・。


「駄目だよ、クロちゃぁ~ん? よそ見したら・・」


 走りかけたクロという少女の足元が大きく陥没して、少女が足を取られ剣を投げ出すようにして転ぶ。その腰を地面から持ち上がった土の腕が抱きついて拘束した。


「わはは、良い魔法じゃねぇか!」


 巨漢が大笑いしながら、気絶させた少女が着ている制服の襟首を掴むなり、力任せに引き裂いた。真っ白な肌理きめの細やかな肌に巨漢が眼を細め、泳いでいた時に身につけていた濡れた下着へと手を伸ばすと引きちぎった。


「や、やめてぇっ!」


 最後に残った少女が涙を浮かべながら魔法を唱える。


 しかし、


「無駄なんだよ。知ってるよ。マキマキの魔法はさ? 回復系しか無いんだろう?」


 ヤマグチという少年が薄く笑いながら、軽くフェイントを入れて距離を詰めると、マキという少女の喉首を掴んだ。そのままねじ伏せるようにして力任せに押さえ込む。

 何とか立っていようとする少女だったが喉を掴まれたまま足を払われて宙へ浮かび、背中から地面に叩きつけられていた。


「さあ、クロちゃぁ~ん、脱ぎ脱ぎしようねぇ~」


 ニキビの少年が、うつぶせのまま地面に固定されて身動き取れない少女の足元へ近付いていった。


「ボクはねぇ・・服を破くような乱暴な事は嫌いなんだ。パンツだけ脱がせてあげるからね? さあ、クロちゃんはどんなのを履いてるのかなぁ?」


「やめろぉっ!やめてぇ!」


 クロという少女が何とか身をよじろうと暴れる。


「良いねぇ・・綺麗な太股だねぇ・・あ、分かってるよ。胸が苦しいんでしょ? ちゃんと後で撫でてあげるからね? ほぉ~ら・・濡れたパンツを脱ぎ脱ぎしましょぉ~」


「いやぁぁぁぁーーー」


 悲痛な声をあげる少女のすぐ隣で、ヤマグチという少年が首を掴んだまま少女を仰向けに押さえ込んでシャツの前を引きちぎっていた。


「ははは、思う存分ったら交換しようぜ?」


 巨漢が笑いながら剣帯を外し、ズボンを下ろして猛った男根を引っ張り出すと、気絶したまま俯せに倒れているカミジョウという少女の尻を掴んで抱えるなり、一気に突き入れようとした。


 寸前で、


死罪ギルティ


 俺が蘇生した。ぎりぎりで申し訳無い。死んでいました。


 何が起こっているのか、訳が分からないままに、短槍を突き出して巨漢の逸物イチモツを根元から突き切る。実に不愉快だ。


「あ・・ぎぃぃぃぃぃ」


 大量に血を噴き上げながら巨漢が股間を押さえて身を折った。その首を槍で貫き徹しつつね跳ばす。


「え・・ガルミルド?」


 クロという少女の足元にしゃがみ込んでいたニキビの少年が、ぎょっと眼を見開いて振り向く。その胸を俺の短槍が2度、3度と連続して貫き、返した石突きでニキビ面を粉砕していた。


「・・てめぇ、あの時の・・」


 ヤマグチという少年が剣を拾いながら立ち上がった。しかし、すぐに身を屈めて、倒れて意識を朦朧もうろうとさせている少女を後ろから抱えるようにして立ち上がらせる。

 楯にしようとしたのだろう。


「遅いんだよ」


 俺の声に、ヤマグチが恐怖に引きった顔を後ろへねじ曲げた。

 直後に、足を上に、頭を下に、ヤマグチという少年が宙で回転して地面に投げ落とされていた。


「ぐぅっ・・」


 地面に叩きつけられて苦鳴を漏らす。


「天誅っ!」


 短槍がヤマグチの股間を貫き徹した。


「ぃぎゃぁぁぁぁぁぁーーーー」


 清流の流れる音に、似つかわしくない悲鳴が響き渡った。


「辞世の句を詠め、介錯してやる」


 俺は、股間を押さえて悶絶する少年を見下ろした。


「く・・そ・・女みたいな顔・・」


 言いかけた少年の頭が粉々に爆散した。俺の無慈悲な蹴りによる最期だった。


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