第21話 どらごん・・。
人生には色々な初めてがある。
俺は生まれて初めて、龍の顔面に頭突きをした。そして頭が砕けた。ゴツンと当たってから、卵の殻が割れるように頭蓋骨が陥没し、眼から耳から色々と噴き出して死んだ。その瞬間の触れた感触まで覚えている。
(なのに・・あれぇ?)
俺は死んでいなかった。
何事も無かったかのように眼を覚ましたのだ。
「まさかの夢オチ?」
そんなはずは無い・・と、痛む首筋に手をやりつつ周囲を見回すと、そのまま硬直した。息も止めた。眼と口が開いた。
龍が見ていた。
洞窟の外から、片眼を入口に寄せて覗き込んでいた。
『良く耐え、良くぞ
唐突に、頭の中に渋い男の声が響き渡った。
「・・龍?」
『褒美に、蘇生をしてやったのだ』
「ああ・・はい、どうも」
『まさか、我が雷に耐性がある者がおるとはな・・・永き我が生においても
どうやら会話が一方通行だ。俺の声は届いていないか、無視されてしまっている。
『ふむ・・魔法の才は無いのだな。哀れなことだ』
「いや、それ・・たぶん、神様の手違いかも」
『だが、面白い・・少女のフェロモンとは』
「・・えっち」
どうやら、この巨大な龍は、俺の能力を鑑定か何かで覗き見ているようだ。
『おぬしは
「存じ上げません。これも、きっと手違い」
『
「いや、だから手違いだって・・ねぇ、聴いて?」
『運動・合気道とは我の知らぬ技能だ』
「こっちには無いかもね」
会話の成立を諦めて、勝手に受け答えをすることに決めた。
『・・
「個人情報の保護を要求します」
『雷兎・・あれを仕留めたのか』
「仕留めたっていうか・・偶然っぽいけど」
『うむ。小さき身で、お主の戦歴は賞賛に値する』
「龍さんに比べたら、みんな小さいでしょ」
俺は、そっぽを向いて頬を
『特性に、雷兎めの魔法が無いのは才無き故か』
龍の言葉に、俺は崩れ落ちた。
「死人に鞭打つのはやめて・・」
『雷兎めの魔法技を模したものを与えてやろう』
「え・・何かくれるの?」
ぱっと顔を輝かせる。
『お主が所蔵しておる雷兎めの尖角を出すが良い』
「角・・」
いつか売ろうと思っていたのだが・・。
「・・・はい」
俺は巨大兎の角を個人倉庫から取り出して両手で持った。俺の身長より長い
『そのまま握っておれ』
「じゃ・・」
俺は右手に握った。
『お主には魔法才が無い。故に別の対価を差し出さねばならぬ』
「お金は無いです」
お金は大切です。無駄遣いはしたくありません。
『雷兎の怒りは力を倍加させる良技なれど、か弱き身では十全には扱えぬ。故に、雷兎の怒りを対価に差し出すが良い』
「オッケーです」
『よし。では新たに、雷兎の
龍が、何やら満足げな感じで語っている。
「え・・と?」
『礼には及ばぬ。お主の勇戦を讃えての褒美だ。では堅固に暮らすが良い。小なる戦士よ』
「あ、あの・・」
『さらばだっ!』
大音声が頭の中に響き渡り、
「ぐっ・・」
俺は思わず頭を抱えて蹲った。次の瞬間、あれだけの巨大な龍の姿が消え去っていた。
思わず洞窟の入口まで走り出て龍の姿を探すが、樹々が乱立した森の中にはもちろん、見上げた空の何処にも飛影らしきものは見当たらなかった。
「なんなの、いったい・・」
俺は呆然と呟いた。
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