第19話 ウサギは強かった!?


 俺は死ななかった。


 当然だ。


 命さえあれば、じっとしている事で傷が治るのだ。そういう体なのだ。


 その命にはスペアがあった。無いと思っていたスペアがあった。


 雷兎の雷轟をぶっ放しながら、たぶん死んだはずの俺だったが、きっちり生き返って眼を覚ます事が出来た。


 場所は、巨大フクロウの巣があった巨樹・・・が生えていた辺りだ。


 巨樹は縦半分に裂けて焼け焦げていた。

 回りに焼け焦げた雛鳥と、焼け焦げた親鳥が転がっていた。

 さらに、巻き込まれたらしい巨大な蛇まで死んでいた。



(なんか・・申し訳無い)



 死骸に手を合わせつつ、貴重な食糧なので個人倉庫に収納しておく。


 これで当面の肉類は確保できた。



(しかし、雷轟って凄いじゃん!)



 自分には当たらず、周囲に雷を撒き散らすとか、とんでもなく凶悪な技だった。その雷が、化け物みたいに大きなフクロウやら大蛇を即死させるのだ。



(これ、無敵なんじゃ?)



 抑えきれない歓喜に顔を緩めながら、俺は周囲を見回してから両足を踏ん張って身構えた。

 そのまま大きく息を吸い込み、



「雷轟ぉーーーーー」



 腹の底から声を振り絞った。


 何も起こらなかった。


「・・へ?」


 どういう事でしょう?


 期待が大きかったぶん、ちょっとへこむ。



「雷轟・・」



 こっそり唱えてみる。



「雷轟っ」



 ポーズをとってみる。


 しかし、まるっきり発動する気配が無い。バリバリ・・どころか、ピカリともしない。


「まさかのバッテリー切れ?」


 これがゲームならMP切れを疑うところだが・・。


(鑑精霊じゃ、微妙な査定だけだし・・)


 ここは、お金が掛かっても確かな答えを得た方が良いだろう。いざ使おうとした時に未発動でしたでは、命がいくつあっても足りない。



「智精霊、カモン!」


 俺は奮発して智精霊を呼んだ。


『はい、ご主人』


 陽気な声がして、ポンッ・・と宙空で小さく煙玉が鳴り、デフォルメされた俺の姿をした人形っぽい精霊が現れた。


「模写技の使用に条件はあるのか?連続使用が出来ないとか?何か対価を払わないといけないとか?」



『一万セリカになります』



「分かってるよ」



『代金は口座引き落としになります』



「知ってるよ」



『では、模写した技の使用には対価は必要ありません。ただし、使用回数は制限が御座います』



「ふむ・・」



『この先をお教えするためには、追加で五千セリカ頂きます』



「へっ? な、なに、その悪徳商法っ!?」



『代金は口座引き落としになります』



「ちょ・・ちょっと待って」



『お止めになりますか?お止めになった場合、次回同様の質問をお受けしても、また最初からになりますが?』



「・・つまり、もう知ってる情報から訊き返さないといけないの?」



『その通りです』



「・・・ちくしょう」



『如何なさいますか?』



「払うよ」



『宜しいのですね?』



「いいから教えてよ!」



『代金は口座引き落としになります』



「もう分かったよ!」



『では・・模写した技によって、個別に一日の使用上限回数が決まっております』



「雷轟は何回なの?」



『五千セリカになります』



「おおおぉぉぉいっ!」


 俺は声を張り上げた。



『お止めになりますか?』



「・・・いや、続けて」



『代金は口座引き落としになります』



「・・うん」



『では、雷轟の使用回数は1日1回です。使用した時刻に関わらず、午前零時に使用回数の補充が行われます』



「一角尖は?」


 ・

 ・

 ・

 ・


 俺は、順番に尖毛針まで訊いてみた。


 決してやけになった訳じゃない。

 お金を払ってでも訊いておいた方が良いと判断したからだ。



『またのご利用をお待ちしております』


 ぼったくり精霊がお辞儀をしながら消えていった。



(ちくしょう・・)


 足元見やがって・・。


 悔しさで拳を握りしめ唇を噛みしめる。しかし、この先のことを考えたら、調べておいた方が絶対に良い。


 俺は短槍を手に、近くの樹に向けて構えた。



(一角尖っ!)


 発動をイメージする。


 直後、全身が真っ白な光に包まれた。そのまま、なんだかお尻の辺りがムズムズするような浮かび上がるような感覚に包まれる。



 1・・2・・3・・4・・・



(ぅっ・・おぁっ!)


 約5秒後に、ほとんど叩きつけられるようにして狙っていた樹に正面衝突していた。


(いっ・・だあぁぁぁぁ・・)


 短槍を握っていた両手の手首から肘、肩にかけて、ボロボロに砕けていた。

 代わりに、短槍は太い樹の幹を貫いて抜けていた。


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