第17話 ボク、悪いニンゲンじゃないヨ?


 結局、なし崩し的に協力する事になった。


 まあ、このままだと悲惨な事になりそうだし、もう、ゴブリンキャンプで見せられたような凄惨なものは見たくない。


 ぎりぎりの所までは協力するつもりだ。


(それにしても・・)


 町の方へ逃げてきた8人がここを出て行った後、こういう事があるんじゃ無いかと想定して準備をしていたらしい。

 女子の1人が土の魔法を使え、穴を掘ったり埋めたりという事ができるそうで、逃走用の地下通路まで準備してあった。


(・・凄いなぁ)


 同じ高校生かと疑いたくなるくらい頭が良い。


 廃村の中は、あちこちに落とし穴を造り、一気には押し寄せられないような工夫がしてあった。地下通路の出口は、ここから300メートルも離れているそうだ。


 俺は使っていない小屋の前に座っていた。

 そういう役割なのだ。サボっている訳じゃ無い。


 外で見張っている偵察役の位置は分かった。ひたひたと迫ってくる足音も聞こえている。もう、話し声すら耳で拾える距離だ。


(・・悪い奴等だな)


 それは会話の中身で確定していた。

 奴隷商に繋がりのある連中だ。何人かをこの場で陵辱レイプし、何人かは奴隷として売り払う。あれこれ言って興奮気味だが、だいたいそういう話をしていた。


「どうかな?」


 足音を忍ばせて近づいて来たのは、アズマというメガネの男子だった。


「女の子を犯して、売り払うらしいよ。だいぶ盛り上がってるね」


「・・他には?」


「そればっかり話してる」


「見張りは?」


「さっき交替した。10人が北側に回ったまま・・ちょこちょこ、土塁に登って覗いてる」


「いきなり来るだろうか?」


「どうだろう・・ぁ」


 俺は、手をあげて静かにするよう仕草で伝えつつ耳を澄ませた。


「来るみたいだ。1人が門の方に来て、そっちに注意が向いている間に、他の連中が土塁を越えて入ってくる・・らしい。動きそう」


「・・分かった。助かったよ」


 アズマが礼を言いながら戻って行った。



(さてね・・)


 こちらも準備はしているが、こういうのは思うようには進まないものだ。何か見落としていることは無いだろうか?


(そう言えば、あの8人が居ないな?)


 情報を与えたとしたら、町へ逃げた8人が一番怪しいが・・。


(もう奴隷にされてたりして?)


 ここの情報も、拷問とかされて無理矢理・・という事だって考えられる。

 流民局に行った時点で、流人の中に、とんでもない美形が混じっているという話は、すでにあちこちに伝わっているだろう。とんでもない美形の他にも、なかなかの美形と言って良い女子だらけだ。二条松って美人の国なのか?


 奴隷商人からしたら宝の山だろう。


(・・俺、殺せるかな)


 いざと言う時、俺に人が殺せるのだろうか?

 ゴブリンじゃないんだ。同じ人間を相手に、槍で刺したりできるのか不安しかない。

 

 今晩、上手く生き延びたとしても、この世界で生きていれば同じような事があるだろう。やらなければやられる。それは分かっている。頭では分かっているが・・。


(理屈じゃ無いからな・・・って悩んでる時間も無いね」


 土塁に沿って数人が歩き始めた。門扉がある方へと向かっている。

 南側と北側に別れた男達が土塁の近くに集結を始めていた。


(・・タランド?)


 奴隷商人の名前か、商号だろうか。男達の会話の中に混じったようだった。


 暗闇での捕獲になるので、無闇に武器を使うなとか、抵抗したら投網を使えとか・・念を押すようにして最終確認をやっている。

 

 結局、8人の日本人っぽい名前は会話の中に登場しなかった。


 どうやら時間切れだ。


 門扉の方で大声を張り上げて、一晩泊めてくれだの、場所を貸してくれだの怒鳴っている。対応しているのは、アズマというメガネの男子らしい。


(あいつは死なせちゃ駄目な奴だ)


 アズマが、この集団の要になっている。


 とんでもない美人は、女子がホンゴウ、男子はサイジョウ。外に迎えに来た時にアズマと一緒だった長身の女子はオオイシという名前だった。バレーでもバスケでも無く、ソフトボールをやっていたそうだ。


 もう1人、マキノという女の子を紹介された。生まれ付き身体が弱く、長く走ったり出来ないらしい。これから逃げるにあたって、そういう子が居ることを覚えておいて欲しいという事だった。俺より10センチほど背が高いのが問題だが、まあ、かなり綺麗な子なので覚えておくことにした。

 女の子の顔と名前を覚えるのは得意だから。


 ぼんやりと座っていた俺だったが、遠くから聴こえてきた声を耳にして思いっきり顔をしかめた。


(あぁ・・来ちゃったよ)


 どういうつもりか、西側の土塁の向こうから、いつぞやの8人が近づいて来ていた。

 町へ逃げてきた8人の高校生達・・。

 8人の会話に意識を向けながら、俺は小屋から降りて、打ち合わせの集合場所へと走った。


 暗闇に怒号や罵声が響き始めた。


 土塁を越えた連中が内壕うちぼりに落ちたのだろう。深さは2メートルほど。水は張って無いが、底には尖らせた木の杭が並べられている。斥候役が外から観察しただけでは、土塁内側ギリギリの空壕は見えなかっただろう。2メートルの土塁を越え、深さ2メートルのほりに落ちたのだ。さぞや痛かった事だろう。


 だが、直ぐに内壕の存在を報せる声が飛び交い、無闇に飛び降りず、松明に火を着けて投げ入れ、壕を飛び越える者が現れ始める。


(残念でしたぁ)


 不意打ちが出来なかった時点で失敗確定なのだ。女達を生かして捕えたいので、外から矢を射ることが出来ない。廃村に侵入しようと土塁を越えてみれば棘杭付きの空壕に落ち、運良く軽傷だった者が壕を這い上がってみたものの、目当ての女達は影も形も無い。

 ちょっと哀れになる。


 集合場所には、アズマが1人で待っていた。


「何かあったのか?」


 俺の顔を見るなり、アズマが訊いてきた。


「あの8人が来た」


「・・それで?」


「ホンゴウ、マキノ、イチカワ、オオイシ、タムラ、アイカワを捕まえて・・色々やりたいらしい。奴隷商にここを売ったの、あいつらだ」


 聴こえたままを伝えた。


「・・そうか。やはりな」


 アズマが俯くようにして頷いた。本当に同じ高校男子かと疑いたくなるくらいに、理知的で冷静沈着・・門扉に来た柄の悪い大男を相手に言葉を交わした様子も堂々として怯んだ感じがしなかった。サイジョウほどじゃないが端正な顔立ちだし、女の子にもてるだろう。



「さてと・・俺は、ここまでなんだろ?」


 俺は、アズマの眼鏡の奥にある瞳を見つめた。一瞬、鳶色の瞳が少し動揺したようだったが、すぐに平静な瞳に戻った。


「・・気づいていたのか」


 アズマが両手を俺に見せるようにして言った。

 俺も馬鹿じゃないからね?



「俺が連中のスパイじゃないかって疑われているだろうし・・ぶっちゃけ、俺もそっちが怖いからな」


 短槍を個人倉庫へ収納し、両手を挙げながら静かに後ろへ下がる。


「魔法か・・いいなぁ」


 俺は俯き加減に呟いた。


 今度は、さすがのアズマも驚いたように眼を見開いていた。


「そうか・・呪文が聴こえるのか」


「まあな」


 俺の耳に、どこかで呪文を唱えている声が聴こえていた。女の子の声だった。ホンゴウという女の子の声だ。


「アズマ・・大変だろうけど頑張れよ」


 俺は、にっ・・と歯を見せつつ拳を握って見せた。


「・・おまえ・・」


 わずかだか、アズマの声が震えたようだった。


「酷い世界だけど、ほら・・死ぬまで生きてみようぜ!」


「ユウキ・・」


「ボク、悪いニンゲンじゃないヨ?」


 両手を拡げて笑って見せた俺の真下から火炎が噴き上がった。


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