第14話 廃村砦


 ゴブリン集落付近の樹上で、なお2日粘り、戻って来るゴブリンが居ないことを確かめてから、俺は廃村を探して森の奥へと分け入った。


 ゴブリンが俺を怖れている理由を確かめようと考えたのと、近くにゴブリンが居るなら少しでも減らしておこうと思ったのだ。


 結局、20頭ほどの山犬の群れがうろうろ嗅ぎ回りに来ただけで、ゴブリンは姿を現さなかった。ここにあるのは、テントだけだ。巣のような感じじゃ無い。


(もっと奥に住んでいるのかも・・)


 時々立ち止まって物音を探り探り、薄暗い森の中を慎重に歩く。


(・・あそこか?)


 ゴブリンのキャンプ地から5キロくらい歩いただろうか。そろそろ樹に登って休憩を入れようかと考えていたら、行く手の木々の合間に人の背丈くらいの土塁が見えてきた。


 高さ2メートルほどの土塁どるいだ。おまけに、草や低木が生えていて、登ろうと思えば簡単に登れる状態だった。周囲に物音がしない事を確かめて、手早く土塁をい上がってみる。


(・・明かりだ)


 不意に灯った光を眼にして、反射的に身を縮めて頭を低くした。

 ちょうど、土塁の上に生えた低木の枝葉に隠れることができる位置だった。


(2人・・)


 背の高い男子と、俺と同じくらいの背丈の・・女子?

 少し遠くて分からないが、そんな感じがした。

 手に剣を持っているのが見て取れる。


 明かりは、2人の頭上に丸く灯っていた。


(・・なに、あれ?)


 眼が点である。

 なんか、当然のように光る玉を浮かべて歩いているけど・・?

 まさかの魔法ですか?

 あれ、魔法ですよね?

 お金払うやつじゃない、ちゃんとした魔法ですよね?


(なんでだぁ・・?)


 どうして、俺には魔法の才能が無いんだ?こんなに体ちっちゃいし、魔法くらい使えないと厳しいでしょ? どうなってんの? 神様、不公平過ぎるでしょ?


 握っている草の根をみりみり・・と千切りながら、俺は食い入るように魔法の光玉ライトを見つめていた。


(・・いいなぁ)


 もう、がっかりである。心底がっかりである。


 猿のように樹に登ったり、獣みたいに声をあげて槍を振り回したり・・そんなのやりたくないんだっ! そうじゃないんだっ! もっとこう・・遠い所から、ば~んと火の玉ファイヤーボールでも飛ばして敵を丸焼きにするような、そういうのがやりたいんだっ!


(はぁ・・町に帰ろっかなぁ)


 俺は、ずるずると土塁の壁をずり落ちて行った。


 これ、絶対、俺の言う事とか聴いて貰えないでしょ?


 むしろ、同情とかされちゃうよね?


 哀れんで仲間に入れてあげよう・・とか言われちゃう感じ?


 いや、俺は好きで1人なんだからっ!


 寂しくなんか無いしっ!


 羨ましくも無い!


(ちくしょう・・)


 魔法が使いたかったよぉ・・。


 ああいうのがやりたかったよぉ・・。


(あ~あぁ・・)


 こんなにもがっかりしたのは、気になっていた女の子に、女子だと勘違いされた時以来だ。


(ふん・・もう良いよっ! 俺だって、お金払えば洗濯だって出来るんだ! ちゃんと魔法が使えるんだよっ!)


 頬をふくらませながら、俺はトボトボと歩いて土塁どるいを後にした。そうでなくてもで肩なのに、いよいよ肩のラインが落ちている。


(これでいっか)


 手近な樹を見つけると、するすると上まで登っていった。

 この距離なら、何かあれば直ぐに駆けつけられるし、廃村全体の動きも何となく把握できる。横枝の付け根に腰を下ろして幹に背を預けると、みたらし団子を取りだした。1本1セリカの、至福の楽しみである。

 悲しい事があった時には、これに限る。


(魔法かぁ・・どんなのが使えるのかなぁ?)


 やっぱり、ファイヤーボールとか出来ちゃうんだろうか? 治癒魔法とか?


(ああぁぁぁ・・・良いなぁ~~)


 甘辛いタレをたっぷりつけた団子を頬張りつつ、ちらと廃村の方を見る。


 また明かりが灯ったようだった。

 今度は別の明かりだ。


(なるほど・・)


 土塁から離れた中央辺りの廃屋を利用しているようだ。見回りだろうか、先ほどの男女が連れ立って戻って来るのが見える。


(2人きりで・・・見回りだよね?)


 ちらと疑念が湧くが、俺は軽く頭を振った。

 どうも感情が負に振れてしまう。俺のいけない所だ。


(2本目いっとこう)


 甘味が足りないからネガティブに走るのだ。


 取りあえず何事も無さそうだし、今は人の事より自分の事だ。

 そう言えば、査定魔法というのを使っていないが・・。


「鑑精霊、カモン」


 そっと呼び掛けると、片眼鏡を掛けたチョビ髭のおじさんが出た。どうしてだか、医者が着る白衣のようなものを身に纏って、白い手袋を着けている。



『お呼びですかな、ご主人様』



「う・・うん、ちょっと俺を査定して欲しいんだけど・・出来る?」



『ご主人様を査定するような不敬な真似はできません』



「そうなんだ・・ちなみに、査定って、1回いくらなの?」



『500セリスで御座います』



「ぉぅ・・なかなか」



『如何致しましょうか?』



「俺の査定じゃなくて、俺の今の能力を査定できない? 時々査定して、能力の伸びを感じたいんだけど」



『なるほど、そういうことで御座いましたら、協力させて頂きましょう』



「やった!」



『代金は口座からの引き落としになります。残高が不足している場合は査定が失敗に終わりますのでご注意下さい』



「オッケー」



『では・・』



 鑑精霊が、チョビ髭をいじりながら、俺の方をじっと見つめた。



(むむ・・)



 緊張の沈黙・・。



『終わりました。査定結果はこちらになります』



 チョビ髭が手を振ると、ポンッ・・と可愛らしい音が鳴って巻物が出現した。



「おおぉぅ・・」



 戸惑いつつも巻物を受け取って、くるくると開いてみる。



 ・・ふむ?



 ・模写技  :プライスレス


 ・雷兎の耳 :プライスレス


 ・雷兎の俊足:プライスレス


 ・雷兎の怒り:プライスレス



 なんじゃこりゃ?



「ねぇ・・プライスレスしか書いてなんだけど?」



『もう1度、査定をなさいますか?』



「へっ? また500セリスかかるの?」



『はい』



「えぇぇ・・なんか詐欺っぽい」



『いずれも売却不可なために、プライスレスとの表示になっております。どのような戦闘技能をお持ちなのかは分かるのでは?』



「・・ふむぅ、お勧めは?」



『模写技をお勧めします』



「その心は?」



『模写技にて覚えた技をご覧になりたいのでは・・と』



「・・素晴らしい。それでお願いします」



『畏まりました』



 鑑精霊が、チョビ髭をいじりながら、俺の方をじっと見つめた。

 髭では無く、その鼻の上の片眼鏡をいじるべきでは・・?



『終わりました。査定結果はこちらになります』



 チョビ髭が手を振って、巻物を取りだした。



(どれどれ・・)



 ・・ふむ?



 ・雷轟  :プライスレス


 ・一角尖 :プライスレス


 ・尖毛針 :プライスレス



「何これ?」



『ご主人様が模写なさった技で御座います。では、私めはこの辺で。またのお声掛けをお待ちしております』



 チョビ髭がお辞儀をしながら消えていった。



(くっ・・なんか、調子よく1000セリスも貢がされた)


 舌打ちしそうになったが・・。


(いや、待てよ? 神様が確か・・模写技は受けた技を覚えるって・・ということは?)


 雷兎って、一番最初に襲われた、あの巨大な白兎じゃないの?


(これって、つまり・・全部、あの兎がやってたやつ?)


 雷兎の怒りというのは分からないけど、雷轟らいごうって感電させられたやつでしょ?一角尖いっかくせんは、角を光らせて突進して、お腹をブスッと・・。尖毛針せんもうしんは、獣毛が伸びて刺さった時のやつか?


(なんていうか・・・兎? 俺、兎シリーズしか覚えて無いじゃん?)


 熊と死闘した時のはどうなったの? あの眼とか喉とか灼かれた毒は?


(・・・あれ?)


 耳とか俊足とか・・どうやって覚えたの? 模写技では無かったような・・?


(何? どういうこと?)


 謎は深まるばかりだった。


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