第5話 ラビット・パニック!
1人は寂しい。
前も後ろも、上も下も・・全部自分で見張らないといけない。
覚えている魔法は、すべて対価に金銭が必要だ。
その最初のお金が無い。
自分は、ただの高校生だ。
同じ年の男子に比べて、背は低いし、手足も胴も細いし・・。
挙げると悲しくなってくるが、とにかく身体は平均値に大きく劣る。というより、女子の平均と比べても怪しいレベルだ。
後ろ姿では、ほぼ確定的に女の子と間違われる。
横から見ても、発育の悪い女子だと思われる。
前から見ると、綺麗な女子だと勘違いされる。
こんな俺が、背丈より少し長いくらいの短槍一本で何ができるだろう?
魔物でも出て来たら・・いや、野良犬レベルでも、美味しく頂かれる絵しか浮かばないだろう? 間違い無く、喰われるだろう?
だから、陽がある内だけ、頑張って歩いて、陽が暮れそうになると、死に物狂いで樹に登る。落ちても落ちても登る。なんとか登って、高い位置にある横枝に辿り着いたら、ひたすら息を殺して大人しくしている。そのまま半分寝ているような、起きているような
とにかく冒険はしない。
賭け事は嫌いだ。
可能な限り、安全に、安全に・・。
幸い、先に移動している二条松高校の足取りは分かりやすい。ちょっと注意して見れば、地面が掘れていたり、下草が
(2日目か・・)
神様に
まあ、この世界に戻されてからも、智精霊を質問攻めにして丸2日間を費やしたので、相当先に行っているだろう。もしかしたら、もう町か村に到着しているのだろうか。
智精霊に教えて貰った事で、一番の
この世界には、レベルというものが存在しないという事だ。
様々なスキル、魔法を覚えたり、知識や経験を増やすことで強くなることは出来るが、レベル云々による身体能力の上昇補正などは無いのだ。
ただし、筋トレなどで力を付ければ、なかなか衰え無い。
つまり、努力はそれなりに
経験が力になるという点は、やはりこの世界はゲーム的な仕組みに支配されているのだろう。
(課金だらけだけどな・・)
魔物というのは見ないが、大型の獣は何頭か見かけた。
智精霊が言うには、この辺りは樹に登る蛇などはおらず、致死性の毒を持った生き物はいないそうだ。ただ、大型の山犬の群れが
(垂直跳びで、5メートルとか・・訳が分からないよね)
智精霊から聴いた山犬の情報だ。
勢いをつけて幹を駆け上がれば、10メートル上の枝にも届くのだとか。
そういう訳で、あちこちに
この世界にも月がある。
ということは、ここは地球のような惑星なのだろうか?
同じように、月が周回している?
星は夜空の隅から隅まで埋め尽くして輝いていたが、聞きかじっているような星座らしきものは見付けられない。
(季節ってあるのかなぁ?)
樹の幹に背を預けたまま、ぼんやりとそんな事を考えていた。
昼間は汗ばむくらいだが、夜になると少し肌寒いくらいの気温になる。
ぼんやりと
・・ササササササ・・・
微かだが確かな物音が聞こえてきた。
(なんだ?)
下草を蹴って勢いよく動く物音を聴いて、短槍を手に枝上で身を縮めた。
えらく速い。
右から左へ、左から後ろへ、また右へ・・。
何かの冗談かと思うくらいの高速で物音が木々の間を移動している。夜闇に沈んで見る事は出来ないが・・。
たぶん、大きくは無い。
(
小動物だろうか? 餌でも探している? それにしては、忙しく動いているような・・?
(あそこの、月明かりが当たってるところに出てくれば見えるのに・・)
少し離れているが、月の光が照らしている空き地がある。あの辺りへ出てくれれば姿を見る事ができるが・・。
周囲を駆け巡る音を聞きながら、落ち着かない思いで短槍を握りしめていると、
・・ドシッ・・
という衝撃がいきなり襲ってきた。
登っていた大きな樹が激しい震動で揺すられたのだ。
(ぅ・・あぁっ・・)
ひとたまりも無かった。ひと揺れで枝から飛ばされ、地面へと真っ逆さまに落ちていった。
(ヤバイ・・ヤバイッ!)
ギュッ・・キュキィィィィーーーーー
足下で甲高い叫びが上がるのと、
「べふっ・・」
俺の口から残念な苦鳴が漏れるのが同時だった。
20メートル近い枝上からの落下だ。落下の衝撃だけで骨折か、頭でも打てば死ぬかという高さだったが・・。
「いっ・・痛ぅ・・」
声を漏らしつつ、何とか起き上がろうと着いた左手に、ざわりと硬質な毛が触れた。どこか生暖かい体温らしき感じもある。
「ぅわっ・・」
思わず左手を持ち上げ、右手に握っていた短槍を支えに立ち上がろうとする。
その時、不意に周囲が青白い輝きに包まれた。
「ぶっ・・ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーー」
俺は物悲しい絶叫をあげながら身を
感電だ!
いや、それっぽい何かだ!
俺が立っている場所そのものが雷を放ったのだ。
バチバチと激しい音を鳴らした雷光だったが、光ったのはほんの数秒で、すぐに収まっていた。
「ぁ・・ぁぁ・・・ぅぁ」
開いたままの口端から
道着から白煙が立ちのぼる俺めがけて、足元から硬質の針のようなものが襲ってきた。
よろめいていたのが幸いしたのだろう。
鋭く伸ばされた針は体を突き刺したものの、そのわずかな衝撃だけで俺の華奢な体が吹っ飛んで深くは刺さらなかった。
凄まじい激痛に腹部を貫かれ、雷撃で
「・・は?」
目の前に、巨大な
体高だけで、俺の背丈の倍以上ありそうな巨大な白い兎が、真っ赤に光る眼で俺を
(
巨大な
ほぼ脱力した状態で座り込みながら、俺は荒々しく息を吐いている
「・・ちくしょう」
もうどうしようも無い。
俺はせり上がってきた血塊を吐き出した。
直後に、何かが爆発したかのような衝撃音をあげて、巨大な
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