第4話 チュートリアル


 意識を取り戻したのは、見覚えのある遺跡っぽい場所だった。

 神様が言ったとおり、二条松高校の皆さんは1人も残っていない。お菓子の包みや、空のペットボトルがててあるだけだった。


 スーツケースを引っ張って行ったらしく、下草をつぶして進んだ跡が森の奥へと続いている。


(夜だし・・朝になってからにしよう)


 神様に何時間呼び出されていたのか知らないが、辺りはすっかりと夜のとばりに包まれていた。すでに下草が湿り気を帯びている。


「チュート・・じゃなくて、智精霊カモン!」


 俺は智精霊を呼んで、あれこれ訊いておくことにした。何しろ、3日後からは有料になるのだ。今の内である。


 とりあえずの、半ば冗談のような掛け声だったのだが、


『はい、ご主人』


 陽気な声がして、ポンッ・・と宙空で小さく煙玉が鳴った。


 現れたのは、手の平サイズの小さな人形の俺・・いや、ちょっとデフォルメされた俺の姿をした人形? どうして、黒い燕尾服えんびふく姿なのだろうか?



「ええと・・まあ、いいや。色々教えてよ」



『お任せを』



 宙に浮かんだまま、燕尾服のお尻が見えそうなほどに深々とお辞儀をして見せる。



「まずはボーナスについての詳細を説明して」



『畏まりました。それでは、手元に携帯を御用意下さい』



「携帯?」



 スポーツバッグに押し込んでいた携帯を取りだした。

 画面は真っ暗なままだが・・?



『はい、まずはお選び頂きました属性・少女についてですが・・』



 智精霊の説明と共に、携帯の画面に文字が表示された。



「すまん! 意味が分からないっ!」



 俺は両手で顔を覆い、唸るように言った。



『では、再度繰り返し・・』



「いやっ、すまん・・理解はしてる! じゃなくて・・信じたくないんだ!」



 俺は錯乱さくらん気味に叫んでいた。



(落ち着け・・とにかく、落ち着け・・少女って・・少女フェロモンって何だ?)



 いや、なんで男の俺が少女フェロモン? なのか? 男なのに、メスなのか?



『少年少女にしか効果がありませんが・・身を護るために、護身術の習得をお勧めします』



「・・はははは」



 なに? 俺、貞操ヤバイの? いや、実際、結構危なかったりしたけど・・。

 だから、部活で合気道とか選んだんだし・・。



『フェロモンについては、ON・OFFが行えます』



「おおっ! それ、早く言ってよ!」



『選択可能なフェロモンは4種類。性フェロモン、道標フェロモン、集合フェロモン、警報フェロモンになります。それぞれの効果は・・』



 智精霊が詳しく説明してくれた。



「・・なるほど、まあ・・・OFF出来るなら問題無い」



『趣味・釣りについてですが、釣りの技能に優れ、どのような集団からでも対象の獲物のみを釣り出すことが可能となります』



「ん・・?」



 なんか、思っていたのと違う?

 魚釣りじゃないの?

 獲物? 釣り?



『特技・利き酒についてですが、液体の色、味、香りを精密に鑑定できます』



「まあ・・な」



『運動・合気道についてですが、入身の極み、転換の極み、円転の真理、脱力の極みを会得しています』



「マジか・・」



 御免なさい。先達の皆さん・・申し訳無い。部活でやってただけの俺がこんな・・。



『好物・みたらし団子についてですが、いつでも何処でも有料で、みたらし団子を取り出すことができます』



「うおぉぉぉーーーー すげぇぇぇぇぇーーー」



 俺、ここで生きて行けるかもっ!



「いや、待てよ? それ、一本いくら?」



『1セリカになります』



「1セリカ・・ええと、こっちのお金だよね? 国によって違うの? ああ、お金の単位についても説明お願いします」



『1セリカというのは、流通している貨幣の最低単位になります。材質は、銅の含有量が6割以上、重量が3グラム以上の物を指します。歪な形状の物が多いですが・・画面をご覧下さい』



 智精霊が手元へ移動してきて、画面を突いた。



「おお・・これかぁ」



『実際の大きさになります』



「なるほど・・」



 小指の先くらいの長方形をした粒だ。銅とは言うが、なんか黒ずんで汚れた色をしていた。



『10セリカは、銅貨とも呼ばれます。こちらも銅の含有量が6割以上、重量は10グラムになります』



 画面に表示されたのは、円形で真ん中に正方形の穴が空いたコインだった。何かの花が刻印されているようだ。大きさは、十円玉くらいだ。



『次が、50セリカ・・』



 智精霊が順番に貨幣について説明してくれた。


 50セリカからは銀が含まれるようになり、100セリカは銀粒、500セリカは銀貨と呼ばれることが多いらしい。

 千、五千、万・・と実に馴染みのある刻み方で通貨が変化する。

 ちなみに、千セリカからは金が含まれる金粒。五千セリカが半金貨、一万セリカは金貨、その上もあるらしいが、一般的な取り引きでは登場しないらしい。



「まあ・・なんとなく分かった」



 価値はまだ把握できないが、みたらし団子が安価で食べられるというのは良いことだ。



「有料になって、おまえを呼び出すといくらかかるんだ?」



『一万セリカ頂きます』



「今日は寝ません。沢山くことあるからね」



『・・はい、ご主人』



 心なしか、智精霊の顔が曇ったようだ。



「じゃあ、次は・・」



 俺は、心ゆくまで質問し続けたのであった。


 有言実行である。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る