第3話 神様の呼び出し


 何も見えない。何も感じられない。


 ひたすら真っ白な世界・・。


『まず、びよう』



 頭の中に男の声が響いてきた。



「・・はぁ?」



 真っ白で何も見えない状態で、詫びを入れられても困るのだが・・。



『死告天使を詐称する悪戯いたずら者により、おまえは巻き添えになって死亡した』



「・・困ってるんだけど?」



 責任を取れと言いたい。



『取り返しはつかない。故にびよう』



「いや・・詫びられてもね。俺、もう生き返れないんでしょ?」



『おまえの生は、こちらの世界に移動した。元の世界では死亡している』



「はぁぁ・・俺、罰が当たるようなこと、何かしたかなぁ?」



 もう泣き出したい。



『死告天使・・・死神による誤った選定を受けたのだ。あちらの神が定めたことでは無い』



「そうですか・・それで、今度は何です? まさか、ここに来たのも間違いだって話ですか?」



『うむ。誤った・・というより、彼の地の死神めが証拠を隠滅いんめつするために投棄した。言うなれば不法投棄だな』



「・・ゴミ扱いかよ」



 さすがに、カチンと来る。



『故に、おまえには命を与えよう』



「は?」



『在るはずだった彼の地での命だ』



「・・どういうこと?」



 訳が分からない。



『おまえは、2つの命を持つことになる』



「いや、だから・・それって」



『1度なら、死んでも生き返るということだ』



「生き返る・・でも、1回だけかぁ」


 その場でもう一度殺されたら終わりじゃないか。



『有料になるが、日に1度ずつ、命が1つ付与される』



「・・まさかの課金方式!?」



『それと、指南役として智精霊を授けよう。今から3日を過ぎて後は有料になるが、相談すれば的確な助言を貰えるだろう』



「・・どうも」



 どこまで課金してくる気なんだ。智精霊とか言っても、要するにチュートリアルだろう? 導入説明まで有料とか・・。



『それと、彼の地の神より、びとして称号を授かっておる』



「そりゃ、どうも・・」



 称号ね・・。



『港上山高校の英雄という称号らしい』



「わぁ~い、とっても嬉しいでぇ~す」



 どんだけ、ローカル!? それ、誰が分かるんだ? と言うより、何の意味があるんだ?



『あまり心がもっておらぬな?』



「いいえ、何も無いより良いです」



『あとは、初期の装備品だが・・』



「あのぉ~?」



 装備と聴いて、漠然ばくぜんと抱いていた不安を思い出した。



『なんだ?』



「この世界って、どういった感じなんです? 戦争ばっかりやってる戦国の世とか?」



『魔獣、妖鬼が大量繁殖して人間が住み辛くなっているが・・まあ、おおむね良い世界である』



「・・それ、人間からしたら地獄なんじゃ?」



 日本に帰りたいっ! 魔獣とか妖鬼とか意味が分からんっ! 非力な高校生にどうしろって言うんだっ!



『心配せずとも、人間という生き物は存外しぶとい。ちゃんとしたたかに生きておる』



「ふうん・・」



 魔物に丸かじりされる絵しか浮かばない。



『とは言え・・徒手空拳では魔獣の腹に入って終わりだからな。それなりに良い武器を・・』



「あのぅ?」



『なんだ?』



「命が2つあっても、魔物に食べられたら・・」



『まあ、魔物の腹がふくれるだけだな』



「・・はは」



 1粒で2度美味しい、お得な獲物になれるらしい。



『剣を使った事はあるか?』



「ありません」



 普通の高校生は、剣とか持っていませんから。



『槍を使った事はあるか?』



「ありません」



 普通の高校生は、槍とか持っていませんから。



『弓を使った事はあるか?』



「ありません」



 弓道部に入れば良かった・・。



『おまえ、本当に男か?』



「ちょっ・・俺は男ですよ! なんなら、脱いで見せましょうか?」



 くっ・・真っ白で、自分が何を着ているのかすら見えない・・。



『しかし、剣や槍も使った事が無いとは・・』



「銃とか無いんですか?」



 当たらないまでも、音で威嚇いかくできそうだが・・。



『無い』



「手榴弾とか?」



 映画とか見てると、魔物相手には便利そうだが・・。



『この世界に、火薬は存在せんぞ』



「マジかぁ・・」



『似たような事をする魔法はあるが・・おまえは魔法の素質が無いからな』



「えっ? いや、そこは何とかならないんですか? 神様なんでしょう?」



 ひそかに期待していた魔法が使えないとか、嘘だろっ!?



『規則で禁じられておる。神であっても、いや神だからこそ、規則を破るわけにはいかん』



「・・・で、俺は何ができるんです?」



 エサか? エサになれって言うのか?



『う~む・・困ったの』



「なんか、絶望しか無いんですが・・」



 もう、生き返らせるとか止めて死なせて欲しい。喰われて死ぬとか、苦痛が増えるだけじゃないか・・。



『ふむ・・模写もしゃ技というのはどうだ?』



「なんです、それ?」



 なかなか面白そうなのがきた。某ゲームで、ちょっとワクワクしたやつだ。



『その身に受けた攻撃やら効果やらを、己の技として模写コピーし、使えるようになるというものだ』



「おおっ! なんか、凄そうですね!」



 身に受けた攻撃・・というところが痛そうだが・・。



『まあ、模写もしゃの確率は低いから注意が必要だが・・それと、技として使用可能なのは3つまでだ』



 苦労と我慢の果てに、たった3つしか覚えられないとか、とんだゴミ技じゃないか。



「・・微妙になってきましたね。他の覚えた技は忘れちゃうんですか?」



『日に1度、午前零時に有料で付け替えることが出来る』



「・・ははは」



『あとは、丈夫な短槍と革の胴鎧と鉢巻きを持たせてやろう』



「感謝します」



『他の者達は先へ行っておる。おまえも追って行くが良かろう。1人ではすぐに死ぬからの』



 そう言う声が聞こえたかと思うと同時に、意識が暗転ブラックアウトしていた。


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