第2話 浩太の憂鬱
俺の名前は、
16歳、男。
東京にある港上山高校の2年生になったばかり。
他校の制服集団の中に、場違いな道着姿で現れた某少年である。
(・・ちくしょう)
俺は今、猛烈に怒っていた。
理由は、携帯の画面に映し出された文字だ。
******
やあ、迷子ちゃん元気かな?
いやぁ、なんか酔っててさ。気付いたら君を異世界流しの刑にしちゃってた。
てへっ!メンゴメンゴ?
ボク? みんなのアイドル死告天使ちゃんだよ?
お手紙届いた?
そこがどこだか知らないから、ボクには説明できないんだ。
酔ってたからね?
仕方無いよね?
君を女の子と間違えて襲いかかった男が凶悪犯でね。女の子を襲って酷いことをいっぱいやってたんだ。それで首を刈り取りに行ったんだけど、前日にこっそり呑んでた神酒が残ってたんだねぇ。うっかり手元が狂っちゃって、君の首をスパァッ・・て斬っちゃってさ。
いや、
神様に怒られちゃうからね。お
それで証拠隠滅のために、君をポイッと違う神様の世界へ飛ばしちゃいました。
ああ、そっちの神様には何も言って無いので怒られるかも?
でも仕方無いっしょ?死ぬより良いよね?
教会とか、神殿とかに行って、君からちゃんと伝えておいてよ。
最後に、君の行く末に幸があることを祈ってるね。祈るのタダだし。
追伸:
******
(・・ちくしょう)
確かに早朝練習に出かけて、更衣室から体育館裏の道場へ向かう途中で、『剣道少女来たぁーー』とか絶叫しながら襲ってきたおっさんが居た。ちなみに、白い道着に黒い袴という格好だが、部活は "剣道" では無く "合気道" である。なによりも、少女では無く、少年だ。気色悪いおっさんは2重に過ちを犯した。
「それで・・そう、投げ落として肩を抜いたところで・・あぁ、首を何かに」
ぶつぶつと呟きながら情景を思い起こし、そっと自分の首を
間違った?
酔って手元が狂った?
そんなので首を刈られた?
いや、死告天使って何だよ?
俺は体育座りをして
信じた訳じゃ無い。
信じた訳じゃ無いのだけども・・。
何というか、今まさに信じられない状況下にあるわけで・・。
・・ポ~~ン・・・
不意に、携帯が音を鳴らした。そこら中で同じ音が鳴っている。
画面を見ると、
***
素体の適性化が完了しました。
移住手続きが完了しました。
個体識別紋章が付与されました。
選択項目に応じたボーナスが支給されます。
移住者特典が支給されます。
旅人アイテムが支給されます。
***
このように表示されていた。
それぞれ、『適性化』『移住』『識別紋章』『ボーナス』『移住者特典』『旅人グッズ』が緑色の太字になっている。
属性選択と同じように、文字をタップすると押している間だけ説明文がポップ表示された。
「なんだこれ? ゲームかよ!」
そこかしこで声があがる。
不安や困惑の声があがる中、わずかに喜びを含んだ声があったのは気のせいだろうか?
(ゲームだな)
断定して良いだろう。
明らかに、これは何かのゲームか・・それを
<適 性 化> :大小便の排泄行為が省略可能となります。
:移動停止時に、生命力・体力・傷病・状態異常が回復します。
<移 住> :もう元の世界には帰れません。
<識別紋章> :個々人を特定する聖紋(改変不可)です。
:司法神の眼による行為の評価が行われます。
:狩猟神の眼による行為の評価が行われます。
:農耕神の眼による行為の評価が行われます。
:工匠神の眼による行為の評価が行われます。
:天秤神の眼による行為の評価が行われます。
<ボーナス> :属性選択・少女に起因するボーナスです。
:趣味選択・釣りに起因するボーナスです。
:特技選択・利き酒に起因するボーナスです。
:運動選択・合気道に起因するボーナスです。
:好物選択・みたらし団子に起因するボーナスです。
<移住者特典>:個人口座・生きている間は他人が関与できません。
:個人倉庫・大きさ不問、99個まで入ります。
:劣化抑制・なかなか衰えません。
:習得促進・覚えが早いです。
:鸚鵡返し・行動の中には省略化&自動実行できるものがあります。
:隷属回避・奴隷化されません。
:清潔魔法・洗精霊が金銭を対価に、洗髪、洗身、歯磨き、洗濯をする。
:換金魔法・商精霊が金銭を対価に、対象を査定、換金する。
:査定魔法・鑑精霊が金銭を対価に、対象の価値を査定する。
:旅路魔法・道精霊が金銭を対価に、過去に訪れた地点の方向を示す。
:保安魔法・警精霊が金銭を対価に、12時間の不可侵領域を展開する。
:連絡魔法・話精霊が金銭を対価に、対象者に最大1分間の伝言を行う。
<旅人グッズ>:着火棒・園芸スコップ・五徳ナイフ・真鍮の水筒、真鍮のマグカップ
:醤油・塩・胡椒・砂糖
:鉄鍋(深底)、鉄鍋(浅底)、鉄鍋(小)
(・・まるっきり、ゲームだな)
何をどうすれば良いのか、すでに知識として刷り込まれたようだ。
個人倉庫というのは、インベントリとか、アイテムボックスとか呼ばれている特殊な収納空間だった。中には、旅人グッズが収納されている。
(旅人グッズで纏めて1個なのか・・)
全部で50個だから、着火棒やスコップなどで、個々に数えられるとすぐに一杯になる。その辺は良心的になっているらしい。
(あぁ・・なるほど)
醤油は、駅弁などに付いている魚の形をしたやつだった。塩や胡椒は、小さな四角い紙の包装、砂糖も喫茶店にあるスティック状のものだ。まとまった量は与えない・・という事らしい。
(魔法は・・お金が無いとどうしようもないな)
なんとも世知辛い仕様のゲームだった。
(ボーナス・・ね)
これは、まだ良く分からない。
ボーナスという言葉の響きからして悪いものでは無いだろう。
最初の"属性"という選択肢は、異性の嗜好を訊かれたとして・・。
他の選択肢は、何となくだが、俺の実体験が反映されているような感じがした。例えば、"運動"で選べる選択肢には、空手や柔道などは無く、野球やサッカー、合気道など経験した事があるものしか表示されなかった。
因みに、特技で選んだ利き酒は、実家が古い酒屋で、養父が日本酒党だったことに起因する。全くの不可抗力なのだ。ただ、特技らしい特技が他に思い付かなかったので選んだ。魚釣りについても、養父の影響だ。寝てても起きてても、休みになると引き摺られるようにして釣りに連れて行かれていた。
好物については、嘘偽り無く、俺の大好物である。俺は、みたらし団子を愛している。
(・・で?)
これらの選択肢で、いったい何が得られたのか?
ちらと他の学生達を見回すが、みんな自分の確認で忙しそうだ。冷めた様子の者も3割くらい居るが・・。
(すべてが夢でした・・なら、それで良いし)
万が一、これが現実の事になるのなら、よく理解しておかないと・・。
手にした携帯の画面の文字を流し読みながら見落としが無いか確認していると、
(げっ!?)
いきなり、画面中央に、目玉のような物が浮き彫りになって、きょろきょろと周りを見てから、俺を見付けて動きを止めた。
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