1-6
★
歩く度に、雪の上に僕の足跡と、赤黒いものが滴る。真っ直ぐ歩くことも出来ない。それでも、ようやく一段落した。これで、次の追っ手がくるまでは持つだろう。
「おにーちゃん、だいじょうぶ?なおす?」
そう細い枯れた声で言うのは、隣を歩いている妹だ。妹も一身に返り血を浴び、手は赤黒く染まり、傷口から漏れ出た鮮血が足跡になっている。
「……ううん、お兄ちゃんはだいじょうぶだよ。傷が癒えるまで、どこかで休めれば……」
妖獣は妖獣の傷をなおせるが、同時に自分の体力も使う。今の妹に、そんなことさせられない。
しかし吹雪の中、見えるのは白の世界だけだ。洞窟も何も見当たらない。僕はただ、妹の小さな手を握り、歩くことしかできなかった。索敵も、なにもかもできなくなり、ただ頭の中では、兄が現れて助けてくれるのではないか、とか、都合の良いことばかりが浮かんでくる。……そんなこと、きっとないのに。
「……ちゃん、おにーちゃん!」
妹の声でハッとすると、まだ遠くだが、また追っ手が来ているのがわかる。この状態ではまともに戦うことも出来ないだろう。体に冷たいものが流れていく。僕が戦えなければ、まだ未熟な妹では……。
足音のカウントダウンが迫ってくる。……僕にはそれが、死のカウントダウンに聞こえていた。
★
「はーい五連勝!調子いいわね!さっすがあたし!」
「さすがっすミヅキさん!」
「さすがですねミヅキさん」
「さすがだねミヅキちゃん」
「さすがぁだねミヅキちゃん」
「やるじゃねーのミヅキ様」
騒がしいゲームセンターの一角の、さらに騒がしくしている七人組。オンラインガンシューティングFPSゲームをしている赤茶髪の元気のいい少女、黄緑の髪の少年、水色の髪の背の高い女性、紫色のグラデーションがかった髪の少年、銀髪の背の高い青年、にこにこしているオーバーサイズの服を着た青年、それを後ろから見守っているような、優しそうな黒髪の少年。
彼らがいくら騒がしくても、周りは注意するどころか、気に留めることすらない。彼らのことは街のみんなが知っている。"良い不良"で噂の不良チーム、"レンゴウカイ"だ。レンゴウカイはビルの壁にらくがきしたり学校をサボったりはするものの、困っている人を全力で助けたり、悪い不良グループを潰しに行ったりとこの街の治安維持に貢献しており、そういったところから"良い不良"と呼ばれて親しまれている。人数も多く、各地区に別れているグループで、ここでは"レンゴウカイ西"が仕切っている。
レンゴウカイ西のリーダーを務めているのはヤハラミヅキ。その隣にいるのが、人呼んでキミドリ、ムラサキ、ミズイロ、
サザンカ、シロガネ。そして後ろから見守っているのは、本来は"レンゴウカイ東"のリーダーで、ミヅキの幼馴染のクロバカイトだ。カイトはミヅキの保護者役で、いつでもどこでもミヅキに連れ回されている。が、不満なく、それを自分の役目だと思っているようだ。
「てかミヅキちゃん、あっちでDDRしようよ。ボク最近やってなくて下手くそになってるかもしんないけど!体動かしたいんだよね」
「ミズイロ、あんたピンヒールでいつもやってるくせに何言ってんのよ!じゃあ行くかー!」
応、と盛り上がり一同が移動をする。その後ろからカイトもついてくる。四つの矢印をリズム通りに踏む音感ゲームに場所を変えても、一同は何も変わった様子がない。カイトはその様子を、なぜか安堵したような表情で見ている。
ああ、ミヅキがここにいる、と。
同時に周囲にも気を張っていたが、普段から喋ることの多くないカイトのこと、誰ひとりその様子には気づいていないようだった。
「あー楽しかった!ね、一日ゲーセン最高」
「それでいいのか?女子高生だろ。タピオカ……とか飲まなくていいのか?」
「タピオカ!?あんなんリア充の道楽じゃんムリムリ」
帰り道、ミヅキはカイトと二人で並んで歩いていた。集まっていた仲間は解散。学校をサボり、集まって騒いで、解散する。いつものサイクルだ。
女子高生、にしてはあまりにも荒んでいないかとカイトは思っているが、学校であまりうまくいってないことも知っているから、言わない。……ただ。
「おい、明日は学校行くぞ。お前単位足りてねえんだからな」
そう言われ、全身から嫌悪感を出したミヅキをみて、カイトは大きくため息を着く。
「絶対行くからな」
「……カイトずっと一緒にいてよ?」
「わかったわかった」
不安そうに念を押すミヅキに、カイトは空返事をするが、その実しっかりしなくてはと気を引きしめる。
ミヅキの家に帰宅して、カイトが夕飯を作って、食べる。その当たり前の日常を終え、ミヅキが眠るのを見届けてから、カイトはスマホを取り出し、ダイヤルした。表示されている名前は、八原北月。……それは、ミヅキの兄の名前だった。
「はい、キタさん。……今日は何もありませんでした。明日は学校に行きます。……ええ、分かっています。……やつらには、絶対にミヅキに触れさせませんから……」
その瞳は力強く、固い決意を秘めていた。
(俺がミヅキを守らないと)
すうすうと寝息を立てるミヅキの寝顔を遠目に見ながら、カイトは扉を閉める。そして、隣の自分の家へと帰っていった。
1-7へ続く
【一次創作】AGAIN ヤネウラ @yaneuramagic
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