第9話 デー…ト?
一章の初めの方は、特に問題もなくさくさくと進んだ。案内役の妖精の後について、簡単なクエストをクリアしていく。ストーリーを読む方が時間がかかってるんじゃないかと思うくらい(
途中、謎解きが分からなかったところも、ランスがヒントを出してくれたおかげで先に進むことができた。ずっとついて来てもらうのはちょっと申し訳なかったけど、『気にすんなよ』と言ってくれたので甘えている。
問題は、やっぱりボスだった。『どれくらい手伝ってほしい?』と聞かれて、せっかくだからなるべく自分でやろうと思ったんだけど……。
「あっ」
わたしは小さく声をあげた。モンスターのうちの一匹が、部屋の外に逃げていってしまったのだ。
画面が真っ赤になって、失敗の表示が出る。また最初からやり直しだ。
『ちゃんと全部の扉見とけよ』
ランスが呆れたように(そう聞こえちゃう……)言った。わたしはがっくりと肩を落とした。
部屋には四つの扉があって、モンスターは何匹かの集団を作って出ていこうとする。それを逃がさないように攻撃して倒せばいいんだけど、これが(わたしにとっては)難しい。モンスターを上手くクリックできないのだ。
扉一つは、ランスに見てもらってるんだけどなあ……。思っていたよりも自分がもっと下手だったということが分かって、ちょっとショック。ヒーラーは大変だとは言っても、もう一年以上このゲームやってるのに。
『次行くぞ』
ぶっきらぼうにランスが言う。もしかして、わたしが全然できるようにならないから、怒ってるのかなあ……。
『すみません、やっぱりもっと手伝ってもらってもいいですか?』
わたしは思い切って言った。もうちょっと頑張りたかったけど、これ以上待たせたくない。
するとランスは、少し考えたあとに言った。
『お前がそうしたいならいいが、俺のことは気にすんなよ?』
う、見透かされてる。
『でも、さっきから失敗ばっかりだし』
『だから気にすんなって。さっきも言ったが、お前とだったら何やってても楽しいから』
その言葉に、わたしは完全に固まってしまった。さっきも言ったって、それだいぶニュアンスが違う……。
『じゃあ、今のままでお願いします』
わたしは何とかそう打ち込むと、熱くなった頬に手を当てた。
◇
「やった!」
思わず大きな声を出してしまって、慌てて自分の口を閉じた。真理と
画面には、イベントムービーが流れている。十回以上の挑戦の末、ようやくボスを倒したのだ。わたしは感極まった表情で、画面を眺めていた。
『おつ』
『ありがとうございます』
ムービーが終わり、ランスの
『このまま無人島行くか?』
『行きます!』
わたしはすぐに宣言した。さすがにちょっと疲れてきたけど、あともう少し。早く新しい服をルビアに着せてあげたい。
街に戻ると、早速港に向かった。さっきのボスを倒すと、システムで用意された船(設定上は、漁師さんの船)に乗せてもらえるようになる。これを使うことで、船を持っていなくても無人島に行けるのだ。
船は定期的にしか出ないんだけど、運よく出発間際を捕まえることができた。二人で乗り込むと、すぐに動き出した。
甲板の上には、たくさんのキャラがたむろしていた。みんなイベント目当てだろう。小さな船なので、ぎゅうぎゅう詰めになっている。
『こいつらまとめて叩いたら一気に経験値入りそうだな』
『やめてくださいよ!?』
恐ろしいことを言うランスに、わたしは慌てて釘を刺した。そんなことをしたら、すぐに捕まって監獄送りだ。『ジョークだって』なんて言ってるけど……。
『あの船すげえな』
と、ランス。それを聞いて、わたしは海に視線を向けた。
今乗っている漁船の何倍もある大きな船が、すぐそばを通り過ぎていった。巨大な帆をいっぱいに広げて、すいすいと進んでいく。
よくよく見てみると、海にはたくさんの船が浮かんでいた。大きなものから、小さなものまで。シンプルな外観のものもあれば、豪華に装飾されたものもある。あのかぼちゃ馬車を海に浮かべたような船は、魔法で動いてるのかな?
「ふあ……」
欠伸を漏らしながら、
港……というか、小さな船着き場はもういっぱいになっていた。みんな、岸に適当に船をとめている。あ、島に乗り移ろうとして落ちてる人が……。
『こっちだ』
船を降りて、ランスの案内でイベント会場に向かう。
坂を登った先には、カラフルに飾り付けられた広場があった。七色に輝く(魔法の?)カボチャランプが吊るされた屋台が、たくさん並んでいる。空には、小さな花火があがっている。あの的当てみたいなの、楽しそう。
うきうきしながら広場に足を踏み入れたその時、ボイスチャットの呼び出し音が鳴った。反射的にOKすると、
「やっっと仕事終わった……」
疲れ切った真理の言葉が、耳に飛び込んでくる。わたしはくすりと笑って言った。
「おかえり」
「んー? なんか機嫌いいね。あっ、またデートしてる」
「……デートじゃないって」
反論するまでに、少し間が空いてしまった。ゲームの画面には、シンリーがログインしたという表示が出ていた。
『どした?』
『あ、ごめんなさい』
ランスに声をかけられ、慌てて付いていく。ヘッドホンからは、真理の声が続けて聞こえてきていた。
「イベント手伝ってあげようかと思って来たんだけど、必要なかったみたいねえ」
「う、ごめん」
「いいっていいって。茜が幸せそうでよかったわー」
「なによ、それ」
またしても頬が熱くなる。真理が目の前にいなくてよかった。それから、もちろんランスも。
『前提クエあんのか』
服の交換所に着いたところで、ランスが言った。わたしは目を丸くする。
『え? 服ですか?』
『そう』
言われて確認すると、確かに前提クエストがあるみたいだった。つまり、そのクエストをクリアしてからじゃないと、服を交換できないってことだ。
「そんなあ……」
「どしたの?」
「イベント服、前提クエあった」
「え、書いてたじゃん」
「え、うそ」
開催場所に気を取られて、ちゃんと確認していなかった。内容を読んでみると、難しくはないみたいだけど……う、これたぶん結構時間かかる。
『すみません、今日はもう寝ます』
わたしはギブアップ宣言を出した。眠いし、ボス戦で頑張りすぎて目も痛くなってきたし……。
『おやすみ』
『おやすみなさい。今日は本当にありがとうございました』
ルビアにぺこりとお辞儀させると、わたしはログアウトした。
「ごめん、わたし先に寝るね」
「了解。あとはあたしに任せて」
「なにを?」
「いいからいいから」
真理の態度に何か不穏なものを感じながらも、急に押し寄せてきた眠気と戦いながら、わたしはパソコンの電源を切った。
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