第6話 新しいメンバー

 わたしとランスは馬車に揺られて、この辺りで一番大きな街へと向かっていた。

 揺られて、とは言っても、実際は全然揺れてない。何故って、このゲームの『馬車』は、宙に浮かんですいーっと進むものだからだ。馬が引いてるわけじゃなくって、魔法の力で動いている(という設定)。


 じゃあなんで馬車って呼ばれてるかと言うと、馬車から馬と車輪を取ったような見た目だからだ。それも、童話に出てくるようなかわいいやつ。今乗っているのは、『かぼちゃの馬車』みたいな外見だ。


 特に会話も無いまま、街まで着いた。自分の家がある街と違い、道を歩いているキャラもかなり多い。みんな、どこかの誰かが操作してるんだなーと思うと、ちょっと不思議な気分。

 街の雰囲気もかなり違って、白と茶色がメインで落ち着いている。実際にヨーロッパとかにありそう、かな? 海外行ったこと無いから、想像だけど……。


『置いてくぞ』


 ランスに声をかけられ、わたしははっとした。慌ててルビアを動かして、後を追う。置いていかれたって迷子になったりはしないけど、『あいつまたぼーっとしてたぞ』なんてみんなに告げ口されたくない。


 しばらく歩くと、登山部の集合場所……街の外れにある、小さな喫茶店に着いた。少し高い場所にぽつんと建っていて、窓から街を見下ろせるところが密かに好み。

 ユーザーのお店ではなく初めからあった店で、わたしたち以外に人がいることはあまり無い。一応コーヒーと紅茶が買えるんだけど、飲んでも特に意味は無い。


 でも今日は、登山部のメンバー以外に、一人の女性キャラが席に座っていた。シンリーと似たちびっこキャラだ。ゼンさんの隣にいるから知り合いなんだろうけど……誰だろう?

 ちびっこキャラなのは同じだけど、外見の印象は全く違った。シンリーがロリータファッションなのに対して、妙に露出度の高い服を着ている。あんまりキャラと合ってない気がするけど……好みかなあ。


『みんな、集まってくれてありがとう』


 ゼンさんが、登山部専用のチャットに発言した。あれ、あの人には聞こえなくていいのかな。と思っていたら、


『今日から白灰登山部に入ったミオさんだ』

『よろしくおねがいしまーす』


 ミオさんの発言が、同じチャットに流れる。いつの間にかチームに入っていたらしい。メッセージが流れたはずだけど、全く気づかなかった。


『よろ』

『ルビアです、よろしくお願いします』


 ランスとわたしがあいさつする。わたしはルビアにお辞儀させた。


 チームに新しい人が入ってくるなんて、久しぶりだ。前はランスが来た時だから、半年ぶり? その時はもうちょっと人がいたんだけど、今の四人以外はゲーム自体を辞めてしまった。


『ジョブはセージで回復メイン、メルオン歴は半年ぐらいでーす』


 ミオさんが自己紹介する。

 賢者セージ回復術師ヒーラー魔術師ウィザードの間ぐらいのジョブで、回復魔法も攻撃魔法も両方使える。その代わり、威力はそんなに高くない。

 メルオンっていうのは……メルヘンオンラインの略称だったかな?


『半年て俺と同じじゃん』

『えー! そうなんですか? 奇遇ですね!』


 ランスの言葉に、ミオさんは両手を上げて喜びを表現した。


『ミオはテレビCM見て始めたんですよー。ランスさんもですか?』

『そう』

『やっぱりー!』


 なんて騒いでいる。

 そのあとも、当時やっていた初心者向けのイベントだとか、その頃はみんなあのダンジョンでレベルを上げてただとか、共通の話題で盛り上がっていた。二人が話し込むのを、わたしは何となく面白くない気分で眺めていた。


 ふと、シンリーがずっと黙ってるということに気づいた。真理ボイチャの方もだ。もしかして、寝落ちしてる?


「真理?」

「ん」

「あ、ううん。寝てるのかと思って」

「起きてるよ」


 ぼそりと低い声で真理が言う。なんだか不機嫌なような……。


『じゃあ、そういうことで。これからよろしく』


 というゼンさんの言葉で、とりあえず解散になった。

 まだお喋りしていたランスとミオさんを置いて、わたしはその場を離れた。





 その日から、ミオさんはランスに積極的にアプローチし始めた。

 アプローチなんて言っていいかは分からないけど……少なくとも、わたしにはそう見えた。いつもべったり引っ付いてるし(このゲームでは、誰がどこにいるのか、調べれば分かってしまう)。

 ランスの方は、ミオさんのことをどう思ってるんだろう。よく一緒に遊んでるみたいだし、悪く思ってはないんだろうな、きっと。


 ランスにあまり誘われなくなって、わたしは前より一人で遊ぶことが多くなった。少し寂しい気もしたけど、元々一人で黙々とやる方だ。いろんな場所を周って、採れた果物や薬草なんかを溜めこんでいった。

 それから、真理のためにイベント用のアイテムも集めた。真理はそろそろ集めようと思っていたみたいだけど、急に仕事が忙しくなって、ゲームをしている場合じゃなくなったらしい。ほとんどログインしてないし、お昼もあんまり会えていない。


 そして、十月最後の金曜日。待ちに待ったハロウィンイベントがやってきた。

 でもその内容を見て、わたしは愕然とすることになった。

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