第3話
「レイナさんのほかに立候補や推薦はありますか」
議長がそういった時だった。
「沙織さんを推薦します」
おもむろにアキナが発言した。
とっさのことに沙織は戸惑ったが、周りを見回すと、アキナも含め色は黄色だった。黄色は確か喜びや賛成を表す色。
(なんで?レイナは…?)
沙織は言葉が出ないまま、どうすることもできなかった。
「学級委員は沙織さんに決定しました」
レイナにはその言葉がうまく飲み込めなかった。拍手の音は聞こえず、別の世界のように感じた。
取り憑かれたように眼鏡をかけてみると、そこには黄色い景色が広がっていた。
レイナは元々立候補するような性格ではなかったし、もっと言えば昔は自己中心的で、みんなから冷ややかな視線を送られる事も多かった。しかしそんな時に出会ったのがあの眼鏡だ。眼鏡を使って相手に合わせるようになるにつれ、みんなの態度も変わってきたのだった。
「レイナ、あの、もう帰る?」
ためらいがちにそう声をかけてきたのは沙織だった。灰色だった。戸惑っているのだろう。しかしレイナにはもうそんなことはどうでもよかった。今まで周囲には気を遣ってきたが、その努力も無駄だったのだ。
悔しい気持ちと絶望感から、レイナは何も言わずその場を立ち去り、トイレに向かった。
トイレで一人泣きそうになっていた時だった。聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「学級委員、小林先生が沙織を推薦してみたらって言ってくれたけど、正解だったね」
「最近私は沙織の方が好き」
それから学校を飛び出してきた事は覚えているが、どこをどう歩いたのか全く記憶にない。気づけばあの眼鏡屋の前に立っていた。
「いらっしゃいませ。あ、以前こちらでお買い求め下さいましたよね。あれね、私がこの人だ! と思った人以外は薦めないんですよ。そうだ。前よりも色のバリエーションが増えて、しかもその色が指している未来の出来事が一瞬覗けるメガネ、ご用意できますよ」
店員は、レイナの心を見透かしているかのように口元にうっすらと笑いを浮かべて近づいてきた。
そう言われてからの記憶は殆どない。我に返るとレイナはその眼鏡を購入していた。
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