戦争へ行こう。

赤キトーカ

第1話

もう、とっくに、一年以上、たってたんだな…


「戦争に行こう」


わたしのおばあちゃんは、とても昔のことを知っていて、すごいです。

日本では昔、戦争がありました。第二次世界大戦、第一次世界大戦。

それらについて、自由研究として、わかる限りのことを調べてくると皆に約束したので、おばあちゃんからたくさん教えてもらおうと思います。


「結弦、よく来たね、さあ、お上がりなさい」

おばあちゃんはもう90歳を超えている。それでもしっかりしているし、身体が動かない、というようなこともない。それはとても嬉しいし、ありがたいことだと思う。


俺は、おばあちゃんが持って来てくれたカルピスを飲みながら、さっそく話を切り出した。


「それで、戦争のことなんだけど」

「そだね。私たちはあまりお前たちに戦争の話ってしてこなかった。きっと話してもわかってもらえないだろうし、あまり戦争の話ばかりしても楽しくもないし昔のことばっかり言っても飽きるだろうと思ってたから。だから、こうして聞きに来てくれるのは、嬉しいことだよ」


「うん」


ズズー。おかわり。


おばあちゃんは隣の福岡で体験した話をしてくれた。

「東京は火の海とか、絨毯爆撃っていってね、それこそ、戦闘機が落とす爆弾が絨毯びっしりすきまなく埋まるくらいの間隔で爆弾を落としたんだよ」

「へぇ、あまりピンとこないや。飛行機同士ぶつからなかったのかな」

「うーん、飛行機一機一機がそのくらいの爆弾を落とせていたのね。

でもわたしは直接見たわけじゃないから、福岡の話をしてあげよう」

「うん」

ズズー。おかわり。

「1945年、戦争も終わりに近づいていた時期、日本にはアメリカの戦闘機が来て、攻撃していたの。ソカイとか、防空壕とか、クウシュウ警報とか、聞いたことあるだろう?」

「ある!はだしのゲンで読んだ」

「そうかい。それで、ある日わたしが乗っていた電車が標的にされて、空襲を受けてしまったのね。西鉄筑紫駅列車銃撃事件、という、ひどい事件だった」


「どんなふうなの?」

「一言で言うなら、血の海、だね。ただ乗っていただけでアメリカの銃撃を受けたんだから、みんな、逃げようもなかった。70人近くが死んだんじゃなかったかねえ。200人くらい乗っていて」

「走っている電車を、上から撃ちまくったの?」

「そうだよ」

「ひどいな……。逃げる場所も、抵抗もできないのに」

「でも、それが当たり前の時代だったんだよ。だから、結弦たちは、今の時代に生きていられることをありがたいと思わないといけないね」


おばあちゃんは、「ひどく残酷な表現」だけど、頭がもげた人がいたとか、手足が吹き飛んだとか、とにかく、戦争だけは絶対にあってはいけない。こんな悲惨なことは私たちだけで十分だ、ということを話して聞かせてくれた。


僕、俺は率直に思ったことを聞いてみたくなった。

「おばあちゃん」

「パパは、仕事に行くのがつらくて、電車に飛び込んで死んじゃった」

「あ……、うん」

「エイギョウ、っていうのかな。ママが話してたのを聞いただけだからわからないけど、ケイヤクを取らないと叩かれたり、殴られたりしてたんだって」

「そう……だよね。悲しかったよね」

「電車の中って、ほんと、はしづめ、じゃないや、スシヅメっていうんだよね。乗り切れないくらい人が乗っているのに無理矢理押し込んで発車したりするよね。一度…見たことがあるんだ」

「……」

「あんな中に乗ってたらおかしくなっちゃうと思う。パパがよく言ってた。足が浮くって」


ズズー。おかわり。

「おばあちゃん。パパみたいなことになる人は、珍しくないんでしょう?」

「そう、、だね、悲しいことだね」

「ヒサンなこと?」

「そう、、だね」


「嫌で嫌で仕方がなくて、自分から電車に轢かれに行くって、きっとヒサンなことだと思う。

あんなはしづめじゃない、すしづめ電車に乗らなきゃいけないなんて、僕が見た電車では目には見えなかったけど、見えない血でいっぱいだったんじゃないかな」

「パパは実際、それで死んじゃっだだし」と結弦は付け加えた。


「戦争って、たくさんの悲しい想いを引きずって生きていかなければいけないんだよね」

「そう。それに間違いはないよ」

「でも僕もママもパパがばらばらになって死んだことをずっと引きずってる。これもヒサン、な、体験、だよね」

「そうだね」

おばあちゃんもカルピスをズズー。

「ねえ、おばあちゃん」

「うん、、」

「ヒサンな体験は、僕たちの世代が語り継いでいかなければいけないんだね」

おばあちゃんは何も言わず、カルピスをすすった。


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戦争へ行こう。 赤キトーカ @akaitohma

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