1章17話 作戦

「……さて、やりましょうか」


 程なくしてロイドが大剣を、マーチさんが杖を、ミシェルが短剣を二つ装備して戻ってきた。刃は潰れているので攻撃したとしても打撃系の威力だ。


 ぶっちゃけて言えば三人ともステータスは俺よりも高い。ただ俺の場合はチートで何とかするだけだ。武器としてM2は使えないからな。


「遅くなって悪かったな」

「遅くないな。やるなら早くやろう」

「ああ……確かに、な!」


 初手でロイドが走り出してきた。

 速度は俺よりも早い。普通に受け止めれば簡単に飛ばされそうだ。ロイドの能力をステータス化した時の場合、全てが千を超え物理系統は千五百を超える。普通ならば飛ばされて終わりだな。普通ならーー。


「なっ!」

「雷舞! 一緒に踊ろうぜ!」


 瞬間的な速度を上昇させる。俺が走った道に微かな雷が残り進んだ道は分かれど、ロイドが俺に剣を当てることは出来ない。躱す時と攻撃を加える時だけ速度を上げているからな。ステータスが上がっているわけじゃないから数値化した場合、どうなっているのかは分からない。


 ただ今だけロイドを超えている。


「させませんよ!」

「無詠唱はさすがだ」


 マーチさんが水の玉を飛ばしたようだがミカが手で受け止めて破壊していた。一切のダメージがないようでマーチさんもあからさまに驚いている。


 マーチさんのステータスはほとんどが八百ほど、魔法系が千二百で高いな。それを無傷で涼しげに破壊したんだ。驚かない方がおかしい。


「ボクが」

「出来るわけないだろ!」

「グェ」


 ミッシェルが走り出して俺たちの元へ来ようとしたが首根っこを掴まれて投げられていた。ミカの考えは俺対ロイド、ミカ対マーチさんとミシェルの二つに分けるようだ。


 さて、俺は俺の仕事を成功させるだけだ。


「商人をナメるなよ?」

「俺は職業で相手をなめねえよ! 本気でこいや!」


 その言葉通り俺の一撃はロイドに受け流された。俺も少し驚いていたために背中への一撃を掠めたが回転して剣を弾いた。普通なら弾くことは出来ない。雷舞様々だな。


「雷波!」

「ちっ!」


 雷が地面を伝いロイドの速度が明らかに落ちる。麻痺が効いている。それに間違いはないんだろうが……弱いな。


「魔眼か!」

「悪いな! 本気でやるんだ!」


 目の色でも変わったのかロイドがそう叫ぶ。叫んだ割には嬉々とした声音だ。ニコニコしていて少し気持ち悪い。


 速度が落ちているので先よりも攻撃は当たりやすくなった。とは言っても剣と剣がぶつかり合うだけで怪我を負わせているわけじゃない。それでも少しずつ勝敗が分かれ始めているが。


「雷撃!」

「スマッシュ!」


 欠ける、一撃で俺の剣が欠けた。

 いや、半分に折られたと言った方が正しいのかもしれない。欠けたように見えたのは粉々に上の方が砕けたからだ。


 それを見てロイドはフッと笑った。


「おい、まだ勝負はついていないぞ」

「なっ!」


 クリーンヒット、何も剣が金属でできているわけではない。少なくとも俺ならそれ以外で作成が出来る。


「……雷かよ! おもしれぇ!」

「俺も初めてやったぞ!」


 俺もロイドも笑う。

 分かっているはずだ。ロイドが俺と少し似た性格だって。だから何をしたいのか、相手が何をしようとしているのか。任せるぞ、俺はロイドと本気で戦いたい!


「雷撃!」

「スマッシュ!」


 俺の背後にロイドがいる。

 俺へのダメージは……切られたか。でも倒れるほどじゃない。その時に雷で作り上げた刃が氷が溶けていくように、サーと消えていく。俺は大丈夫でも俺の刃は限界だったみたいだ。


「ふっはっ! やるじゃ……ねえか……」


 剣が折れた音とロイドが倒れた音、両者が混ざり合って耳へと届く。まぁ、俺もこれで限界だけど。ミカとの連戦でロイドを倒せたのは本当に運がいい。それだけだ。


「倒したのか。さすがだ!」

「……苦戦はしたけどね」

「十分だよ」


 ミカが俺の回復をした後にロイドに回復を施していた。魔力に関してはポーションを取り出して喉に流し込んだ。これで三人とも認めてくれるはずだ。それだけの価値がある。この三人を仲間に引き込むことはそれだけの意味がある。


 少し休憩後に六人でテーブルを囲んで席に座った。俺の両隣はモルガンとミカだ。ミシェルはマーチさんに襟を掴まれていた。ロイドは若干、白目を向いている。


「それでは明明後日、デュークが動き始めるんですね」

「ええ、そうです。ギルドマスターに操られるだけの人形が攻めてきます」

「酷い言い様ですね」

「笑いながら言っても意味が無いですよ」


 俺は笑っていた。マーチさんのタレコミが俺にはありがたすぎて、そして馬鹿みたいに想像通りで笑っているんだ。もしかしたらあの馬鹿ギルドマスターに操られているデュークが面白すぎたのかもしれない。


「まさかこんなに早いとは思いませんでしたね。模擬戦をしてよかったかもしれません」

「そうですね、この調子なら明日に行かなくてはいけないでしょうし」

「俺は大丈夫だぞ。今回の戦いで十分に背中は任せられる」

「私達も同様です。ミカさんがいるのならば防衛戦は難しくないでしょう」


 最初はロイドを連れていくつもりはなかった。というか、俺一人でやるつもりだったけどそういうわけにはいかないらしいからな。昨日の夜にミカから指摘が入った。


「これならロイドとリュウに頼んでも良さそうですね」

「任せて」

「少しだけ不安がありましたけどこれなら全然任せます」

「……やるよ、モルガンも力を見せて欲しい」

「ええ、暴れましょうか」


 俺たちは決めていたんだ。少しだけ不安要素があってもこの三人ならできる。ギルドはミカが守ってくれるさ。さすがに今日はこれ以上何もしない。


 でもね、モルガンも切れているんだ。俺やミカと同じくらいに。


「それでは明後日の夜にでも」

「ええ、私に任せてください」


 明後日の夜、俺達は突撃する。

 あの真田幸村は最後の最後に何をしたのか。簡単だ、突撃をした。敵本陣へと。俺は三人で、主戦力であるミカを本陣に残したままで攻める予定だ。




 ◇◇◇




 朝焼けが照りつける中でたくさんの人達を侍らす男がいた。顔は端正で表情は少し曇り気。若干、やらなければいけないことに対して不満があるように見える。


「わざわざ女一人のために僕を出させないで欲しいのだがね」

「それでもデューク様の力が必要なのです。相手は簡単に人を倒す存在が多数です。リュウと呼ばれる商人やミカと呼ばれる女。デューク様なしでは戦えないんです」

「簡単に倒されたくらいだからね。僕が動かなければいけないのは仕方ないよ」


 とは言いつつも表情は晴れない。

 女のために戦うこと、自分が惚れた女を奪うために命令を下したことだけがデュークの心を不満で満たしているわけじゃない。


 自分の力を理解していて動かせること。そこにも怒りはあった。少なくとも小さくないプライドがデュークにはあったからだ。それでもそれだけが理由ではない。


「何で僕がライの言うことを……」


 どんな命令でも聞かなければいけない。

 そんな契約を結んでしまったのだ。個人契約という力を持って、給料が増えるという甘い罠に引っかかりデュークはライの配下となっていた。


 そもそもデュークの前にも有能な存在はライが引き抜いていた。個人契約で上手く使われ無理難題をふっかけられた。それで死んだ人も少なくない。いや、今、ライの直属の部下となっているのはデュークただ一人だ。


 すなわち社畜以上の働きで過労死した人が多いのだ。その話も酒に酔ったライから聞いているためにため息は大きい。デュークが名前を売っているのは人脈を広げ契約を解くためだった。女に対してもそれのための足がかりでしか考えていなかった。


 そうして彼らは着いてしまった。

 魔王城とも呼べる最悪な天使がいるギルドへと。


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すいません、遅くなりました。

少しの間、スランプ解消のために他の作品よりも書く時が多くなるかもしれないです。テンプレの方は書くと思いますがゲームの方は不定期になるかもしれないです。時々、投稿していけたらな、と思っています。この作品自体がノリで書いているので書き直しをする前提で書いていく予定です。


早く旅に行かせたいですね。

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