1章16話 ミカと

 俺達は地下室に来ていた。

 そこにはある程度の広さを誇る空間といくつかの刃先が潰された武器が置かれている。ここが修練場と言っていたが、それにしては少し暗くはないだろうか。


「それで? 誰と誰が戦うんだ?」

「ん、関係ない。ボクはリュウと戦いたいだけ」

「まずは俺とミカで戦うだけだ。その後にでも俺とミカ対そちらのパーティーでもいいだろう?」

「それで構わない。俺達だって常識はあるし強い敵と戦うことは嫌いじゃないからな。さすがに待つさ」


 リーダーらしく振る舞うロイドだが先にあんなにも可哀想な姿を見ているから何とも言えない。マーチだってミシェルだって興味がなさそうだし。


 多分、これが普通のことなのだろう。

 なんだかんだいってリーダーとしての能力はあるようだ。……そうだよな、才能がなければAランクなんて大層な地位には付けないはずだ。


「俺達はステータスこそAランクの最底辺だがそうなれた理由はいくつかある。それの一つを見せてやるよ」

「分かった。とりあえずミカ、一回戦ってみるぞ」

「手加減はいるか?」

「もちろん。自分の力量は理解しているからな。ただ出来る限りでいいから力を出してもいい」


 床を蹴りひとっ飛びで広い空間の真ん中に到着する。後はミカだが同様に俺の前まで来た。


 さて、手加減はすれど圧倒的格上。

 どうやって倒すor戦うかな。戦闘が好きなわけではないが楽しみだ。


 一つだけ言うと俺とミカのステータス差は十倍ほどはある。俺が五百ほどだがミカに至っては五千ちょっと。自信を失うレベルで差が開いている。


 それでもやらなければいけないだろ?

 自分の存在すら分からない籠に閉じ込められていた生物は外に出て何をするだろうか。搾取? 破壊? 違う。何かと戦い自分の地位を力で測るのだ。


 相手がミカという圧倒的格上なだけであって俺がどこまで強いか分からないかもしない。でも、もし一太刀でも入れられたら才能はあるということ。


 ぶっちゃけた話、戦うのは嫌いだが強くなるのはとても嬉しい。今までの凡人以下だった自分が変わるラストチャンスのように感じられるからな。


 だからこそ、圧倒的格上であり命の危険性がないこの模擬戦が俺にとっては大切なんだ。せめてミカに一太刀でも傷をつけられたなら及第点じゃないだろうか。


 俺は俺と、そして仲間によって生きていく。他力本願大いに結構。出来もしないことをつらつらと並べるくらいなら弱さを見せた方がマシだ。


「分かっているよな?」

「……リュウ、早く銃を構えな。こう見えても楽しみなんだよ……」

「っつ……ああ、俺もだ!」


 戦いの火蓋をM2の射出で知らせる。

 最初に驚いたことだがミカは最初の弾丸を見てから躱した。これは拳銃ならまだしも自動小銃、いや狙撃銃のスペックを超えるとかチート以上の何者でもない。


 となればダメージを与えるにはどうすればいいか。……至近距離の一発しかないよなぁ。自爆覚悟の特攻しかダメージを与えられないとかどんな苦行だよ。


 内心毒づきながら距離を詰める。

 無理だ、ある程度の距離まで近づけば魔法の連打が飛んでくる。裏を返せばM2の火力ならダメージを与えられるっていうことだよな?

 そうでもなければスレスレでも躱し続ければいいだけなんだから。


 少しだけ光が見えた気がする。

 だが依然問題は山積みだ。まず距離の問題、次いで撃ち続けた時のMPの心配。魔力量が多いとはいえ限りがあるしミカほど多いわけではない。……ジリ貧かな。


 確かに手加減してくれているのは分かる。

 ミカのスペック、弾丸を躱したのなどを含めれば一瞬で距離を詰めれば俺は負けるからな。


 負け戦、傷すらつけられない。

 でもなぜだろう。


「ふふふ……楽しいんだね? リュウ!」

「ああ! なんかミカの愛を受け止めている気がする! それがすごく嬉しい!」

「……リュウ君も戦闘狂……案外ロイドと似たもの同士かな……」


 侵害な! 俺はただミカと一緒の時間が嬉しいだけで戦いが楽しいわけではない! ミカの魔法一つをとっても言葉には似合わないほどの繊細さを兼ね備えていて、それが俺の体を傷つけて血へと浸透するんだぞ? これほどに嬉しいことがあるか!


「……それなら! 受け止めてみてよ! 少しだけ力を出してあげるからさ!」

「来いよ!」


 一瞬だった。

 辺りが凍り俺を包囲する氷が現れる。それだけならまだいい。その思考こそが俺にとっては致命的だった。


 氷が矢を形成し始める。

 四方八方全てを囲まれ躱すことなど不可能だろう。だから、考えろ。この愛を受け止める方法を。


 ……あるじゃないか。不適切とか言われそうな気はすれど躱す方法なんていくらでも。


 そうして俺は地面へと銃弾を撃ち続けた。

 窪みが出来てすぐにそこへ体を隠し上に向かって銃口を構える。考えたら負けだ。多少の怪我もこの際は仕方ない。


 やるからにはミカを驚かせるやり方で。

 体から力が抜けていく。何度か感じたことのある倦怠感。やると決めたからにはなんでもやるさ。


「ぎゃあああ!」


 俺の悲鳴。

 ほら、来いよ。近づいた瞬間に……


「……そう来ると思っていた。だからオレも全部を受け止めた上で倒してあげるよ!」


 さすがにバレていたか。

 でも、これ以上のチャンスとか作れる気がしないんだよ!


「炸裂弾!」

「チッ!」


 避けるなんて悲しいなぁ。

 だけどさ、それで? 躱しきれると?


「! 風圧!」

「分かっていた! ここだ!」


 後ろ向きに流した風の圧力。

 例えどんなに戦いに長けている者でも後ろに気を向けないで行うなど不可能だ。だからそこを突かせてもらう!


 風の圧力に阻まれた魔力弾の残骸が煙となる。すぐに煙が掻き消えていく。


「……やるな! やっぱりリュウだよ!」

「もう少し……スマートに戦いたかったんだけどな。……それでも及第点は取れただろ?」


 俺はミカの首筋に当てた銃口を下ろす。

 それと同時にミカの手刀が俺の心臓付近から離れていった。相討ち、そんな結果が今はとても嬉しい。


「……お、おお! すごいな! ミカとの能力差が激しいのにそれをものともせずに相討ちまで持っていくなんて!」

「さすがは親友ですね」

「……これはロイドとは違って有望株かも。ミシェルはいい人を見つけましたね」

「……ここまでとは思っていなかった。ボクでも力不足。……修練が必要」


 観客四人の割には大きな拍手に少しだけ顔を赤めながら俺とミカは握手をした。さて、MP消費は……うん、全然大丈夫だ。


「それじゃあ、ロイドさん達も準備をしてください。体が冷める前に戦っておきたいので」


 なぜ、そこまで驚いた表情を浮かべるのか。当たり前だろ、今回は準備運動と本番が逆になっただけで、これからが準備運動に入るのだから。体の熱が冷えきってからでは吸収出来ることも出来ない。


「おう! 少し待ってろ!」

「……モルガン、武器を二つ投げてください」


 片手剣が二つ、クルクルと回転しながら飛んでくる。俺もミカも失敗することなく受け取りロイド達が前に立つのを待った。



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遅くなりましたが書けたので投稿させてもらいます。次回の話の中身は完成しているのですが、書ききれたら投稿するので少し待っていて貰えると幸いです。


次回はロイドパーティとの対決、文字数が短ければ時間経過を書く予定です。


後、ブローニングM2の説明が足りなかったので1章13話を少し書き足しました。


フォローや評価、よろしくお願いします。

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