1章14話

「それで何か情報は得られましたか?」


 モルガンの問いに対して冒険者を尋問した商人は首を横に振った。予想していたことではあるが、まだ何かあるんだろうな。


 会議とはいえ、ミカを監視に回したのは間違いだったかな。椅子に座って考えるだけで癒しがない。


「何も教えてくれませんね。それどころか自分たちは捨て駒でしかないと言う始末ですし」

「それは合ってると思いますよ。明らかに弱すぎますから」


 デュークという存在はよく分からないが冒険者ギルドにも強い存在はいた。さすがにミカを越す存在はいなかったけど。


 モルガンは顎に手を当て思考に耽っている。ロイも同様に悩んでいるようだ。どちらにせよ、まだ戦いは始まったばかりだし攻める時ではないんだよな。


「結界石なら三週間ほど効き目があります。魔剣の使用者権限は解除出来ますし、絶対的に不利な状況ではないですね」

「……三週間……どれだけ金貨を積めば買えるのだろうか」


 俺の言葉にロイはそう呟いた。

 ポイントをたくさん使用したんだから当然の能力だ。冒険者を倒したことで経験値とポイントを得たし俺的にはプラスに近い。


 今回の戦いでレベルが20に到達した。これで戦闘職をセカンドジョブにつけられるから楽になるはずだ。何にするかは決めてあるし、やっぱり俺は篭って戦うしかないかな。


「……効き目はどの程度ですか?」

「SSSランクの龍の攻撃を一回防ぐ程度ですね。三週間でなくなるのも魔力が切れるからですし」

「それならば一週間ほどはここで状況を図ることにしましょう。冒険者ギルドにいるスパイたちももう少しで戻りそうなので」


 モルガンがそう言う。

 尋問をした商人はやはりか、と言うかのように縦に首を振り俺たちをジッと見つめてくる。視線が少し揺れてから口を開いた。


「やはりモルガン様はそちらの受付の方だったんですね」

「……何のことでしょうか?」


 すっとぼけるにしてももう遅い気がする。それでも立場上やらなければいけないんだろうな。商人って意外にめんどくさい。


「……もう隠しきれないかと。それにほとんどの商人たちは気づいていますしね」

「モルガン様、何を言っているのですか?」


 いや、もう遅い。

 本当に何を言ってもギルドマスターとされている人が自分は偽物だと言えば隠せないだろう。


「……もういいでしょう。それよりも早く続きをしましょう?」

「そうもいかないんですよ。リュウもそのうち知ります。ですが続きを行うことに対しては賛成ですね」

「頭が本当にお堅いんですから。……それでここを拠点に戦うことは理解出来ましたが、その後はどうしますか?」


 モルガンは悩んでいるがすぐに答えを導き出した。


「弓兵部隊とリュウの遠距離攻撃、それに私の投擲ならば数を減らせますよ」

「私もそう考えていました。特に私の武器であれば消費も少ないですから。食料品も多く残っているようなので、先に潰れるのはどちらになるでしょうね」


 俺からミカを奪おうとするんだ。それだけの覚悟はあるのだろう。悪いが何を言われようと許すつもりはない。


「リュウ、その顔はやめてください。嫌いじゃないですが、価値を確信するにはまだ早いですから」

「……確かにそうですね。慢心していました。あの冒険者たちは尖兵、これから本陣が来るのであれば蹴散らすだけです。手はまだありますから」


 俺は手で口を隠してからクスクスと笑った。久しぶりに愉快だ。この気持ちのままで元の世界を生きていられたら楽しめたのかもしれない。


 でもこの感情はこの世界でしか感じれないことだ。となれば転移して正解だったのかもしれないな。かけがえのない妹を失くしたけど、それ以上に大切な友人と仲間を得たのだから。


「私よりもリュウの方が指揮官には合っていますね。任せますよ、背中もこのギルドも」

「ここに来て彼の価値がわかってきましたよ。確かにリュウさんを捨てるということは商人ギルドにとって損害が大きいですね」

「ええ、ええ! 私の大切な親友なのですから、これぐらいしてもらわなくては困ります!」


 商人の手を取りモルガンは立ち上がった。その顔は喜色満面で裏表のないものだ。多分、紛うことなきモルガンの本音なのだろう。


 それに見合った行動をしなくてはいけないな。実績も何もかも出してよりモルガンに俺の勝ちを見出してもらうか。


 昨日の作戦のことでここまで任せられているのだろうけど本当に不思議に思う。信用されていてもここまで重要なことを任せてもらってもいいのかと。


 違うな、こうやって頼られることが嬉しいのか。誰かに頼られるなんて妹以外にされたことがないから、自分の価値を見出されていることに快感というか、とてつもない喜びを覚えているのだ。


 ミカのような仲間を求めて手に入れた信用ではなく、俺が頑張って手に入れた信用。初めて何かを自分で獲得した気がするな。


 だからこそ負けられない。

 傍若無人、暴君。そんな呼ばれ方で結構だ。生易しい、中途半端。それでも結構だ。商人たちを無意味に殺させるつもりはないし、だからといって俺の大切なミカを渡すつもりはない。


「作戦はこうです。まずは全員でここを拠点にガードを固めます。そしてもし、俺とミカを信用してくれるのであれば、お願いがあります。一週間後に―――」


 三人の表情が固まる。そこまでおかしなことか?


「……命の危険がありますよ?」

「ミカの強さはデューク以上です。それに俺も大抵の敵には負けませんから」

「それは私がいない時でもよかったのでは?」

「誰かが第三者として話を聞く必要性があります。モルガンやロイさんならば仲間だから無理やり、という勘ぐりを入れる方もいそうなので、そこはあなたに任せます」

「拠点を固めるだけでリュウはどうするのです?」

「もちろん、言葉通りのことですよ」


 三種三様な質問をされ俺を見つめてくる。

 俺は目を逸らさずに三人にその石を伝えることしか出来ない。昔、戦国時代の大坂夏の陣で真田幸村は最後に何をしようとしたか。


 士気が下がるのは籠城ではよくあることだ。ただでさえ、補給は少ないのだから。それに家族も匿っているのだから負けるかもしれない恐怖に襲われればおしまいだ。


「賭けませんか? 私、いや、俺とミカに。絶対に誰も殺させません。だから俺たちに任せてもらいたいです」


 そう言いすぐに頭を下げる。


「頭を上げてください。……モルガン様が認めた人を疑うつもりはありませんよ」

「私も親友のリュウが望むなら任せてもらいます。どちらにせよ、このままでは冒険者ギルドにいいようにされていましたからね。抗えるところで抗わなければ意味がありませんから」

「出来れば堅実なやり方がいいんですけどね。仕方ありません、数人の護衛を付けるので少人数で作戦敢行をお願いします」


 そうして俺の作戦が敢行されることが決まった。この一週間はなんとしても、圧倒的な力を見せつけながら商人ギルドを守らなくてはいけない。いや、最後まで圧倒的に勝ってみせる。


 そして次の朝が来た。

 予定作戦敢行まで残り六日。


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歴史好きな人ならどんな戦いを起こすかは分かるかも知れませんね。残り二話程度は冒険者ギルドとの対決が書かれると思いますので、よろしくお願いします。


次回投稿予定日は7月9日です。


フォローや評価お願いします。


※前話でモルガンの戦い方を書き足しました。一度、13話を読み返してもらえると内容が入りやすいと思います。

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