1章13話 開戦? 冒険者はならず者みたいです
「来るぞ! 前衛にミカさんを中心に心得のある者、構えるのだ!」
「弓職は三階にて撃ち込み準備! 魔法が撃てるのなら最小威力にして被害を軽微に!」
そんな大声が商人ギルドに響き渡っていた。ミカは先に前に出ており俺は上階に構えている。悪いが前衛での戦いはあまり活躍できそうだったからな。
その分、俺がやるのは冒険者からの攻撃をいかに少なくするか、だ。その中には周りのことを考えて、ということも含まれているので圧倒的に商人ギルドが不利。
いや、冒険者自体が汚いと言えばいいのか。人を守る、そんなことのために戦うという認識だったのだがそれは改めなければいけないようだ。
「来ましたね。……みんなピリピリしてますよ。本当にリュウなら守れるのですよね?」
「大丈夫、のはずです」
実は明日、明後日で戦いになるとは思っていなかった。それこそモルガンの部下の能力が高かったからこそ、このように対処の準備ができているわけでなければもう踏み込まれている。
ロイに聞かれて名言はできない。
だがロイはそれを聞いてうんうんと頭を縦に振る。
「可能性があるなら十分です。あの人がリュウを認めたなら、私も認めます。まあ、実際は私がモルガン様ではないことに薄々気づいている人も多いようですけど。だからこそあの人が話をした時に戦うことを認めた人が多いのですよ」
「そうですね。今、前線で構えている人は冒険者になれなかった人たちですし。そんな中でいち受付のモルガンさんに拾われた人は多いですから」
ロイの言葉に中年のおっさんが賛同する。
商人だからか見た目は太っているのに汚い感覚を覚えない。それだけ身の回りに気を配っているのだろう。
「あの人が認める人はそれだけの価値があるのですよ。そしてリュウはみんなに行動で示しました。次は私たちの番です」
ロイの言葉が室内に響いてすぐだった。
「来たぞ!」
「構えてください! なるべく殺さないことを心がけてください!」
目の前に百ほどの冒険者が商人ギルドの前の街道から走ってきていた。一番前の六人の人たちは片手に炎や氷を纏った武器を装備している。それだけで辺りを気にして戦う気などないことは理解できた。
「ついに来ましたね……」
「そうですね……って、え?」
いつの間にか後ろに来ていたモルガンに驚いてしまう。気配は何もなかった。俺が弱いだけといえばそれまでだがステータスはかなり上がっているはずだ。ステータスで人を測ることができないことを身を持って体験した。
「あなた達はなぜそのようなことをするのですか?」
「おっと、問答かぁ? 俺らには関係がないな。ランクが上がれば貰える金も増える。ただそれだけだぁ」
「ミカ、てめぇがマスターの言う通りにしていれば、てめぇらの主も商人ギルドもこんなことにならなかったのになぁ」
「オレはリュウが前と言えば前を向く。白なら白だ。ギルドよりもリュウの方を大切にするのは当たり前じゃないか」
「だ、そうですよ?」
「……ミカ……頼むから恥じらいというものを覚えてくれ……」
どんな公開処刑だ。
商人たちの黄色い声が聞こえる。冷やかしなら下にいてもらいたい。切実にそう思う。
その後も話し合いが続いているのだが、傍から見ても分かる。一触即発、この問答に意味はない。それならば先に俺はやらなければいけないことがある。
「……まさか! それは!」
「自腹なのでどんなことをしてもいいですよね。やるからには圧倒的にやりますよ。芋プレイでドン勝しましょう」
笑えてしまう。前衛に出したのはモルガンが話をすればもしかしたら、という希望があったからだ。だが見ればそんなことが不可能だと悟れる。
モルガンは俺が手に持つ物の価値が分かっているみたいだな。すごく高かった。スキルの方で欲しかったけど買えなかったので仕方ないのだけど。だから値段の分の働きをしてくれよ。
「下げてもいいですよ」
俺の声がモルガンに届いた瞬間だった。
魔力の動きと共に炎を纏う片手剣を持つ冒険者が剣を振り上げる。その進行方向は商人ギルドではない。民家だ。
「……最初っから場所に関係なく戦うつもりだったのか」
救えないな。
「周りを見ながらぁ、気を配りながらなんて戦えないよなぁ」
炎の当たった場所は煙が沸き立ちそれを見ながらあいつらは汚い笑みを浮かべていた。腹黒いといえば商人、とか思っていたがこの笑顔を見る感じ一概にそうとは言えないようだ。
「普通なら、全焼していたかもね」
「はっ?」
ミカの言葉に心底不思議そうな表情を浮かべる冒険者たち。ステータスもスキルも大したことがないからか、どんなことが起こっているのかも分からないようだ。
「皆さん、下がってください! ミカ、ここまで来い!」
「準備は整いました。リュウの言うことに従ってください!」
全員の撤退は完了したようだ。ミカが一人で殿を務めてミカの撤退は弓兵の攻撃で何とかしている。
ミカが嬉しそうな顔をしながらこちらに向かってくる。……そんなに一緒にいたいのか。よく分からないけど。
「来たぞ!」
「分かったから大きい声は出さないでくれ」
ギルド前ではまだ矢が放たれ続けているが大したダメージは与えられていない。そして煙が晴れ始めた。
「なっ……」
「どこへもダメージはない、ですよ?」
俺が買ったのは数種類あるが、一番高かったものはこの結界石だ。スキル、結界はポイントが足りなくて買えなかったし、石は一つで三百はポイントを使う。一つじゃ効果も薄いからそれなりの数は必要になってしまうから痛い出費だ。
大きな音のせいか、民家から人がたくさん外を眺め始めた。目は見開かれ冒険者たちを凝視している。この戦いは非公式だし準備もさせていないことから奇襲とさして変わらない。民衆が知る由もないだろう。
モルガンが俺を押し退けて窓から体を出す。屋根に立ち一言聞いた。
「お前達に……高い金を出してまで誰かを守るという……そんな気概があるか?」
「あっ? 聞こえねえよ、若造!」
「自己犠牲すらできないのか! お前らは!」
その時に見てしまった。
モルガンの本気を、一瞬にして地に伏せ始めた冒険者たちを。ナイフを数回投擲しただけなのに冒険者の体を貫通して後衛の冒険者たちの体に突き刺さる。それを躱しながら行っているのだ。
貫通したのにも関わらず冒険者は死なずにただ倒れるだけだ。それは多分、致死的なダメージを与える攻撃ではないのだろう。
モルガンは持つ者が少ない固有スキルを持っている。貫通、全ての攻撃を防御無視でダメージを与えられるのだ。それと名前からして魔吸当たりが一番可能性がありそうだ。
魔力がなくなれば人は倒れてしまう。もちろん、それを耐えて戦える人もいるらしいがこんな場所で低いランクの冒険者がそんな根性あるか?
そう考えれば数を減らせるのだろうけど、相手の一番厄介なところは数だ。いくらステータスで上回っていても数には勝てないだろう。
「……手助けをする!」
俺はスナイパーライフルを取り出して構える。ブローニングM2重機関銃だ。元の世界で調べたことだが狙撃として最高の力を持つ銃としても知られている。
そして異世界ならではなのか、このM2の玉は魔力から作られる。それでいて見た目は持ち運びの出来るAK47のような自動小銃に近い。少し驚いたが構えるとトランスフォームするかのごとく脚を出し元の姿を取り戻したので間違いはないはずだ。
これは圧倒的アドバンテージなのではないだろうか。そもそも威力も俺の攻撃から換算されるのだが、悪いがあいつらのステータスに比べれば俺のステータスはかなり高い。それに狙撃銃特有の持ち運びの不自由さを軽減させているので地球だったら開発するまでにいくらかかることやら。
元に戻すことも可能のようで自動小銃に戻してから構える。大丈夫だ、殺さずとも敵を倒せる。俺は大天使を仲間にした存在。
だから、俺なら出来る!
「グアッ!」
「まずは、一人!」
「助かります! 雑魚は先に潰すので魔剣持ちを行動不能にしてください!」
俺は「了解」と答えて魔剣持ちと思われる冒険者の手を撃ち続けた。魔法を纏った武器を持つ人たちがそれに属するのだろう。後で貰えないか交渉してみるか。
きちんとスキル、狙撃を手に入れておいたので一発も外さずに冒険者を四肢を撃ち抜き倒れ込ませる。ドン勝は食えそうだけど芋はモルガンが出てしまったから失敗だな。こんな状況が少し楽しい。
「芋、はもう無理だからミカは倒れた冒険者を中に運んで。できれば魔剣は回収してくれ」
ミカに魔剣持ちを任せて俺はモルガンの死角を狙う敵を潰していく。
何十分戦っただろうか。いや、敵は弱かった。だが数も数だ。それに援軍も来たために時間がかかってしまったが制圧を完了した。弓があまり効かなかったことも長引いた原因だな。負傷を考えて前衛商人は誰も出さなかったし。
回収する際には下っ端の下っ端、つまりは魔剣持ちの六人以外はそのままにしている。何十人も置いておけないし知っている情報も薄そうだ。
商人の仕事は縄で縛り警備をすることだ。少しだけ血の気の多い商人たちに「もう少し戦わせてくれよ」とねだられたが、やはりいい人たちで「力不足ならやれることをするよ」と笑いかけてくれた。モルガンの下にはいい人が集まるのに、ライには集まらないのはなぜだろうか。
そんな疑問と共に初戦が終了した。
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プロット作成がここまでしかかけていないので次回投稿予定日は9月2日です。早めに出せれば投稿しようと思います。
ちなみに作者的にはM2よりもワルサーの方が好きです。拳銃に分類されますけど(笑)
フォローや評価よろしくお願いします。
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