1章12話 始まり? 戦いの火蓋は切り落とされそうです
「待っていました。それではこちらへどうぞ」
商人ギルドに入って早々、俺たちはロイに奥へ案内される。よく分からないがこれから何かするみたいだ。
壇上にロイが立ちその横につくように指示されて、その反対をモルガンと知らないパーティのような人たちが並んでいる。
「えー、まずはおはようございます。皆様良く眠れたでしょうか」
商人特有の長い前置きが続き商人も少し眉間に皺を寄せ始めてきた。でも必要なことなのだろう。そうなのだ、と俺はただ話を聞き続けて三分、ようやく本題に入り始める。
「昨日、私とロイが商人ギルドを留守にしている間に冒険者を送り込んできました。今までも税率のことで私たちと張り合ってきていましたが、今回のことはこちらの新入りの事で戦いを挑んできたようです」
今、フェイカーであるロイがモルガンとして壇上にいるのだ。となれば本物のモルガンはロイとしていることになるのだろう。
それに昔から小競り合いをしていたようでその延長線上でもあることが良くわかる。
「今のギルドマスター、ライになって十年を過ぎましたが今までのような交代を行っていません。普通ならば五年周期で行うのにです。そして義勇金を募って冒険者の充実を図ると宣言しておきながら、そのお金のほとんどはライの懐に入ったようです」
「それでその少年とライの小競り合いになんで俺たちが巻き込まれる?」
「……そこからは私が話をしましょう」
何も言えなくなったロイの前に手を出しモルガンが前に出た。
「まずは私が彼と公式に商談をしたのが三日前です。その時に彼の才能を感じました。何を商人ギルドに売ったかは秘密とさせて頂きますが、商人にとっては喉から手が出るほどに欲しいものだと公言しておきましょう」
「それで、どのような結果に?」
「ええ、昨日のことです。私はリュウ様に付けないというモルガン様に会ってみることを推奨しました。彼はポーション作成などにも心得があったようですから。そして作成したポーションは画期的なものだったのです」
商人の頭にはハテナマークが現れる。
確かに画期的なものだったのです、では分かるわけがないよな。
すうっと息を吸いこんでにこやかにモルガンは言った。
「味のある美味しいポーション。皆様ならばいくらで売れると思いますか? それに下級といえども並以上が確定しているのですよ?」
ああ、並んでいたポーションの瓶を見ていたのか。確かに劣はないし瓶も価値があるんだろうな。
商人たちが色めき立つ。
美味しいポーションなんて見たこともないのだろう。少なくともそんなのが売れたら薬師ギルドは潰れることになってしまう。誰だって不味いものを胃に通したくはないよな。
「……それが本当なら少年を守るつもりなのは分かるが」
「これからもたらす利益はどれ程でしょうね。それにいつもギルドマスターの立場を傘に物資を安くかすめ取られる、そんな関係に飽き飽きしていませんか?」
まるで悪魔の囁きだ。相手が望んで力を貸すように仕向ける。それが出来てこそ豪商か。
「それに彼との商談での取引はポーションではありませんからね。いくつもの才能と取引する顔を広さを持ち合わせているでしょう」
「……今回商人ギルドは何をしてくれるんだ?」
冒険者ならばランクアップ等だろうが商人にとってはさほど意味をなさない。今の個々での商談を生業としているのなら大きな店を構えるためのランクなどは関係ないからな。
「冒険者との関係改善です。モルガン様の部下数名と冒険者ギルドにとって喉から手が出るほど欲しいミカ様もいます。それにモルガン様も戦うようなのでそう簡単には負けませんよ」
その言葉が合言葉となってたくさんの商人が落ちていく。商人といえども戦いに長けている人はいくらかいる。それはモルガンという戦闘もできて人との関係も良好に築ける、そんな商人に憧れている人が多いからかもしれない。
そして戦いの準備が始まった。
俺が通されたのは屋根裏だ。他の商人たちは地下に家族を連れ武器の手入れをしている。ただし近接は少ないようで弓などを持つ人が多いな。
俺は全員に三本、ポーションが行き渡るように制作を始めた。もちろん、これはギルド持ちなので後々通常のポーションの定価の金額をもらう手はずになっている。商人には利があるし、俺にもお金が入ってくるから特に不利益はない。
余り気味だった魔力をほとんど使っていたため魔力回復ポーションを飲み干す。ポーション作成が終わったので職員に渡した。全部体力回復ポーションの良だ。
この後はモルガンとロイ、ミカとで会議を行うことになっている。モルガン直属の部下はスパイとして冒険者ギルドにいるため、明日帰ってくるまでは話もできない。早めに会って手合わせ願いたかったな。ランクの高い冒険者から話を聞けるチャンスは少ないし。
ギルドマスターの部屋に向かい中へ入る。
俺が一番最後だったが、中核が俺とモルガン、ミカのために何も言われない。ポーションのような消耗品は確実に使うからかもしれない。
「来たようですね。それでは話を始めましょう」
席に座ってすぐに会議が始まった。
「部下の話では主力となるデュークは依頼から帰ってきていないようです。となれば攻撃をすると言っても本気で来ることはないでしょう」
「それなら今の内に力を貯めておきましょう」
「確かにその通りですね。領主から来た手紙にはライから『商人ギルドに喧嘩を売られたので攻撃を仕掛けさせてもらう』との旨が書かれていました。場所を選ぶ気配はなさそうですね」
「そんな! 住民のことを考えられもしないのですか?」
モルガンの言葉にロイが声を荒らげる。直属の部下とはいえ、ライの行動にとても腹が立っているようだ。
「それなら一番いいのは篭城戦ですね」
「確かにな。オレたちがやるべき事なのは住民にどれだけ被害を与えずに冒険者ギルドを倒すことだ。篭城戦なら一番やりやすい」
ゲームでもよくやっていた。
相手との力の差があれば拠点から出ない方が負けることは薄いからな。それに遠距離から攻撃できれば俺たちへの被害は少ないし、いくらでも民家への飛び火を防ぐ方法を取れる。
「根回しをしておくべきですね。例えばですけど……」
「……確かにそれなら簡単に返り討ちにできそうですけど」
難しいだろうな。一瞬でも判断をミスればそれだけで瓦解する。ただ住民を仲間につけて守りながら戦うにはこれしかない。
俺たちの会議は夜中になるまで続いた。お灸を据えるなんて生易しいことをするつもりはない。ライはやり過ぎたのだ。
「周囲を考えられない人が上に立つべきではないですよ。自分勝手は自分の中だけでやっていてほしいものです」
モルガンの言葉。
そうだ、協調性のない者が上司になるだけで会社なんて簡単に業績ダウンに追い詰められる。才能がないのにのさばるなんて無意味だ。たかだか税を上げて、力を使って利益を上げることなどもう不可能だ。
「私は被害を受けていなかったので行動ができませんでしたが、商人たちからの話でもっと余罪はあるでしょうね。脅迫やゆすり、その他もろもろです」
そんな奴が上に立つ資格があるか。
周りを気にせずに敵を倒すことだけを考える。被害が出ても構わないとやっている。
俺は貸し出されたベットの中でミカと一緒に眠る。明日からの戦いを勝利に収めるために。
そして、その時が来た。
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次回更新予定日は8月26日です。
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