1章11話 嫌悪? 冒険者ギルドが絡んできました

「すごい匂いですね。良い香りと血の生臭さで気分が悪くなります」

「確かに。集中していたら気が付かないものですね」


 ミカと一緒にモルガンが来ていた。

 出会って一言目がこれなのか、と思ったがキチンと匂いを嗅げばそう言いたくなるのも分かる。モルガンが一緒にいる理由はよく分からないけどちょうど良かった。


「そうだ、これ飲んでみてください」

「ポーション、ですか? ……あんまり得意ではないのですよね」


 一応、フェイカーのギルドマスターがいるからか俺もモルガンも敬語だ。特に俺はフェイカーだと分かっているので敬語をなくすことができない。


 フェイカーの人が驚いた顔をしていたが、それは俺がギルドマスターにポーションを進めているからだろう。


「ああ、リュウ様は私の親友です。ロイが偽ギルドマスターだって知っているのですよ」

「そうだったのですか。どうも、私はロイといいます。モルガン商会の第二階に属していて、いわば役職で言えば三番目に偉いですね」


 とても若そうなところを見るとすごい事なのだろうな。だけど地球では小学生の社長などもいたのでそこまで驚けない。どちらかというと、なるほど、すごいですねって位だ。


「あなたはいつも……まあ、仕方ないです。一つだけ言わせてもらいますと私がリュウ様を雇うなら第一階、それも幹部長に任命しますよ」

「……そんなにすごい方だったんですね。今後ともご贔屓にお願いします」

「ええ、よろしくお願いします」


 手を差し出してきたので持っていた瓶をしまいこむ。いきなり消えて二人は驚いていたが握手をしたところでその表情を元に戻した。


「それでポーションですよね。あまり美味しくないのが普通なのですが、なぜ飲ませようと?」

「美味しくない? 私が飲んだら美味しかったですよ。だから売れるか聞きたくて飲んでもらいたかったのですけど」

「オレも飲んだけど回復量も多くて、それにシュワシュワと甘い飲み物にしか感じなかった。飲むのもいいと思うが?」


 ミカのひと押しのおかげかモルガンがポーションを手に取る。ロイが心配そうに見ていたが「構いません」と安心させていた。


 一口飲んでモルガンの目が全開になる。

 いや、開いていたのを見開く感じか。とても驚いてしまった。


「これは……美味しいですね」

「そんな訳が。……私も頂いてよろしいですか?」


 ロイから聞かれたのでもう一つ取り出して「どうぞ」と手渡す。飲み終わったモルガンは瓶の方に目がいっていたが、初めて飲むロイはとても驚いていた。


「こんなに美味しいものが!」

「そうですね。それにこの器も珍しい。中が透けて見えて、それでいて中身も。……これは文句なく冒険者に売れますね。こんな状態じゃなければ」

「確かに昨日のことで売りには行けないですもんね」


 モルガンは首を横に振ってふふふっと笑い始めた。ロイもそれを見て笑っている。


「本当に馬鹿な方ですね。ここまで才能のある方と対立したのですから」

「その通りです。ライという方は人を見る目がない、いえ、言うことの聞く玩具しかいらないのでしょう。こうなるのも当然です」


 ロイの言葉をモルガンが肯定する。

 そしてモルガンはただ一言、「対立した時は商人ギルド一丸となってリュウと戦いますよ」と言ってくれた。普通に嬉しいことだ。


「ありがとうございます。街からはいつか出るつもりですがそれまではハジメのギルドと商談をしようと思います」

「それで結構ですよ。私としてもハジメの街に残っているわけではないので」

「忙しいですよね。ただでさえ商会長の地位を得ているのですから」


 ロイが笑いながら俺に教えてくれる。


「休みはありますよ。それなのに休まないだけですから。……っと、時間になりました。お先に失礼します」


 早足で倉庫を去っていくロイ。

 それを見てモルガンが近づいてくる。


「彼が後任です。俺も早く旅をしたのですけどね」

「その時には一緒に来るか?」

「オレも歓迎するよ」


 モルガンがキョトンとした顔で俺たちを見る。そんなにおかしいことを言った覚えはないのだけれど。


「商会長だと知っていて俺を誘う、すごいですね。信用してくれている、そんなことがすごく伝わります。……考えておきますよ。旅行がてら、になりますけど」

「それでいいさ。それにモルガンが一緒なら楽しくなるな」

「食事の準備をしないといけないな。先に言っておくがオレは作れないぞ」


 ミカも乗り気だ。

 食事は俺が作れるから別にいいだろう。最悪、お金を貯めて料理のできる奴隷を買ってもいいし。月金貨一枚で雇う奴隷、それなら解放も早いし俺も楽できるしな。


 うん、考えれば考えるほどに楽しそうだ。


「食事も俺持ちでいい。最初は帝国首都、なんてのはどうだ?」

「いいですね。俺が宿をとるので任せてもらってもいいですよ。……まあ、考えがまとまってからですけど」


 最後の最後までブレずに旅行に行けたら、と行っていた。実際、付いてくる気満々だろうし隠さなくてもいいと思う。


 出ていった時にミカと笑ってしまったのは内緒だ。下級も全て回収してから俺たちは倉庫を後にした。


 ギルド全体が悪いわけではない。

 多分、統治するリーダーが最悪だからしたも染まっているのだと思う。それにしても対立が激化してきたな。俺の方にはモルガンが付いてくれるだろうし。


 まあ、ミカがいる時点で負けるわけがないのだけれど。ミカのレベルがかなり上がっていてステータスも二千を超えている。俺なんてまだ二百ほどなのに。


 そして宿に着き夕食を取った。昨日体を拭いたので今日はなしだ。着替えている時だが一緒にいるせいか、裸を見られてもなんとも思わなくなっている俺たちに気づいて俺が少し焦る。ミカはなんで驚いているの、と言った感じだ。


 ベットに入った時だ。着信音が鳴り響く。

 俺と通話ができるのはモルガンだけなので何かな、と不思議がりながら電話に出た。


「冒険者ギルドが喧嘩をふっかけてきたようです」


 開口一番がそれだった。

 深く聞こうか、と口を開いた時にモルガンが続ける。


「俺たちがいないことをいいことに若い冒険者に暴れさせたようです。早くリュウの情報を出せ、と。これにより私がやらずとも商人と冒険者の関係は最悪な状態になりました。腕に自信のある商人は攻めようと言っていますし」

「そうか。すまないな、巻き込んでしまって」

「いえいえ、遅かれ早かれこうなっていましたから。喧嘩を売ってきたことを後悔させますよ。それでリュウの方にもですが商人ギルドの方にも攻めてきそうな勢いです。なのでポーション作成の場所を提供するので明日の早朝にギルドに来て欲しいです」

「わかった。ミカへの依頼も辞めておく」


 モルガンが「お願いします」と言って切ってきた。多分、準備を始めたのだろう。


 それにしてもまだ異世界に来て一週間も経っていないのにこんな事になるとはな。俺は巻き込まれ体質なのだろうか。いや、ギルドマスターが身勝手すぎるだけか。モルガンのようなら友好関係を築けただろうし。


 ハジメの街から出てから分かるようになるだろう。どちらにせよ、ライを許すつもりはない。


「ごめん、ぎゅっとしてくれないか」


 少しだけ震える心を沈めるためにミカにハグしてもらう。うん、気持ちがいい。こんなにいい子をあいつらに渡すわけがないだろ。


 そのままベットに倒れ込み毛布を被った。

 手を出しはしないが抱きついたままで俺たちは眠りにつく。


 目が覚めた時にはもう日が昇っていた。

 いつも通り朝に弱いミカを起こし朝食も取らずに宿屋を後にする。ミカは歩きながら眠っているのか、時々グウっと声を上げその度に俺に起こされている。


 それでもさすがはミカ。俺と同じくあることに気づいたようだ。


「誰か尾けている」

「そうだね。多分、冒険者だろうけど」


 よくある尾行術なんてものを持ち合わせていない冒険者が俺たちをつけているのだ。間違いはないだろう。何回か遠回りして、それでも俺たちの後ろにいるのだから。お粗末過ぎる。


「三人だけど……あまりステータスは高くないね。一人は俺がやるからミカは二人倒して」

「オレが三人やるぞ?」

「どうせ、戦いになるなら腕鳴らししておきたい。だから、一人は貰うね」


 そんな怖い会話をしているとは思っていないのか、路地裏に回った瞬間に俺たちとの距離を詰め始める。


 だが行き止まりに俺たちはいない。

 走る速度が遅すぎるし俺たちを見失って袋小路に行くとか普通は考えないでしょ。本当に冒険者は馬鹿なんだな、と再認識した。


「何してるのかな? 俺たちを尾けるってことはなにか理由があるんだよね?」


 一応は会話を試みているけど、うっわ、スキル制だと称号欄がないからってやりすぎだわ。強姦、強盗、殺人などなど、地球なら一発で終身刑ものだな。


「うるせえよ」


 ナイフを投げてきたけど、遅いね。

 人差し指と中指でナイフを挟んで投げ返す。上手い具合に足にあたって出血を起こし始めた。


 残り二人はミカに遊ばれているようだ。

 剣道の練習のように剣の腹で叩くだけ。殺すつもりはないようだ。


「ちっ、くしょぉ」

「いやいや、睨んでいるけどさ、悪いのは君自身でしょ? だって知らない人が尾けてくるとか普通じゃないし、君たち冒険者とは色んな軋轢があるしね」


 それに軋轢に関しては俺も商人ギルドも悪くない。一番悪いのはライという冒険者ギルドマスターで、恩恵を受けたいがために言うことを聞き非人道的なことをする冒険者でしょ。


「それにしてもさ。君には少しだけ痛い目にあってもらいたいんだ。冒険者ギルドというのは俺を舐めすぎているって自覚を持った方がいいと思うよ」

「はっ、弱った俺にしか攻撃できないくせしてな。てめえは知能のねえ魔物と変わらねえよ」

「いやいや、君を弱らせたのは俺の投げ返したナイフだよ。それにしても脆いね。ナイフ一本でここまで動けなくなるなんて」


 馬鹿だな、弱いな。

 そんなことを思って一つの結論に至った。


「ああ、神経毒でも塗っていたのか。俺を冒険者ギルドに運んで初手で商人ギルドに買ってしまおうって。……それならデューク? だったかを連れてこないと可能性はないのに」


 いやデュークでも無理だ。

 ミカの返り討ちにあっておしまいだしな。冒険者は毒のせいか、話すこともままならなくなってきているようだ。これ以上の問答は無意味かな。


 俺は冒険者の頭に手を置き雷魔法を一回だけ撃った。それだけで冒険者の意識を刈り取りそして、


「じゃあね」


 俺たちは三人を残して商人ギルドへと向かうのだった。


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冒険者ギルドVS商人ギルドですね。

一応、1章はこのイベントで終わるので2章から、スローライフや奴隷などが現れてきます。


評価やフォローよろしくお願いします。


次回更新予定日は8月22日の朝8時です。

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