1章10話 お金集め? 奴隷を買うための前座です

 とりあえず宿に戻った。

 お金に関しては稼ぎづらくなったからどうにかして商いをして金を稼がないといけない。ライとの対立は少し早急すぎたか。


 いや、ミカを奪おうとしたんだ。遅かれ早かれこうなっていたのなら仕方のないことだろう。


 まず整理すると冒険者関係の仕事はあまり見込めないな。街を出るのも手としてはあるけどお金のない状態で出たらそれこそ意味がない。モルガンから借りるってのもなしだ。


 俺の奴隷を雇って楽に暮らす、なんてスローライフはまだまだだな。ポイントはまだ少し残っているから米なんて卸してみるか。もしくは、


「ポーションでも作るかな」

「いいと思うよ。オレたちが戦う時にも使えるし売る時にも高く売れる」


 ミカのお墨付きだ。薬草を取ったことで薬師のジョブを得てしまった。ジョブを変えずにポーション作成ができるようになってしまったのでやるにはやれるが、心が持つかな。でもこれしか稼ぐ方法はないよな。ならばやることは決まった。


「明日からミカには薬草をとってきてもらう係をやってもらっていいか? 俺はここに残ってポーションを作る」


 適材適所だ。ミカなら簡単に薬草を取ってこれるだろうし、何より冒険者ギルドからの妨害を跳ね除ける力を持っているからな。俺が外に出ればやられる可能性があるし。


「一緒に入れないのは悲しいけど、分かった。お金を稼げるまでの我慢だな」

「……面と向かってそういうことは言わないでくれ」


 童貞の俺には辛い。

 俺の目を見ながら可愛い顔してそんなことを言われたら本当に理性が持たなくなる。


「後、取れたらでいいから魔石とか石材もお願い」


 これは無理な前提だがステータスの高いミカなら可能性がある。魔石は高レベルの魔物の腹にあるからな。


 そんな時だった。ふと見ていたステータスの空間魔法がレベル2になっている。効果は異次元倉庫の収入量の増加と他物質へとそれを繋げる効果、つまりは接続だ。


 簡単な話、俺の背負っているリュックと異次元倉庫が繋がるということだ。都合が良すぎるし何かの作為を感じるがこれでより楽になるな。


「……空間魔法のレベルが上がった」

「良かったじゃねえか。それでどうしたんだ?」


 さすがに無数のスキルのレベルアップでの追加効果は覚えきれていないのか、何もわからなそうにミカが聞いてきた。小首を傾げてきた時には少し心臓が上がった気がする。


「接続だってさ。だからこれを持っていってほしい」

「リュックか。……なるほどな、オレが寂しくないようにってことだな!」


 コケてしまう。自信満々で惚気られるこちらに身にもなってみろ。


「どうした?」

「まあ、それもあるけどさ。これで俺の異次元倉庫と繋げられるんだ。倒したら倒した分だけこの中に入れればいい」


 手をポンと叩き「その手があったか」と笑うミカ。その笑顔が眩しく俺の口角も自然に上がってしまう。


「作ったポーションも入れるから怪我したら飲めよ。死なれたら俺も死ぬからな」

「……そんな失敗ありえないよ」


 言い過ぎではない。ミカが死んだら俺の一番信用できる、幸福でいられるオアシスがなくなってしまう。


「いや、一応だよ。まあ、俺がいる時以上に戦っていられるだろうから素材に関してはとても楽しみにしてる。強くなって俺を守ってくれ」

「……死なねえし死なせない。オレの大切なリュウは笑っているだけでいい」

「奇遇だね、俺もミカに対してそう思うよ。だから命懸けで、なんてことはしないで安全にやって欲しい」


 本当にそれだけの事だ。ミカを抱きしめて頭を撫でる。なんだかんだで俺は強引だな。少しでも隙を見せてくれた人たちに友人を迫ったり、働かせているくせして俺のために死ぬなって言っているし。


 それでもモルガンは信用できるしミカはそれ以上に信用している。二人が助けてくれることは俺が理解しているさ。嫌な人ばかりの地球で培った人を見る目はここでも発揮されている。


 今回のミカへの依頼は経験値の共有をしているのでポイントも増加していくだろうし、何より素材がたくさん手に入るので無休でポーションを作り続けられるし、俺にとってはいいことずくめだ。


 そうして俺のポーションを作り続けるだけの毎日が始まった。


 朝起きてすぐに朝食を取りミカに送られて倉庫に向かう。最初は解体からだ。フォレストドックとウルフを一体ずつ解体してからポイントでポーションキッドを買う。


 作成のフラスコなどは買えば高価だがポイントで買う分には安い。これが文明の違いだろう。


 薬草を手で握って「ポーション作成」と唱える。するといくつかの玉ができて、これを煮えて沸騰しているお湯の中に入れた。


 だんだんと溶けていき緑色のドロドロの何かが完成していく。これがポーションだ。とても不味そうで、悪いけど飲みたくない。




 下級体力回復ポーション(並)

 怪我などを治す。付与効果により随時体力が回復していく。

 製作者 リュウ




 最初で並の評価はすごいと自画自賛する。

 劣、並、良、特の評価水準がある中での下から二番目だ。効果もいいし高く売れる。ただし下級だからあまり良い効果を得られないけど。お金のない人には売れるだろうから、まあ良しとしよう。


 小さな瓶三本に詰めて、また作り始めた。この間にもポイントが増え続けているのでこの生活がいつまで続くのか、少し不安に思った。


 奴隷の相場は金額十枚からだ。ミカのこともあるから男を買うつもりはない。独占欲からなのか、他の男からのいやらしい視線は俺が嫌だからな。


 それと防具も買ってやりたいから金貨三十枚は欲しいな。俺が仲間や主として見なされているなら従者に装備も買えない糞野郎だと思われてそうだ。案外ライ辺りが俺に攻撃するために流しそうなものだが。


 黙々とポーションを作成していくと四十本目でようやく良ができた。ただ効果欄の所にあまり良い効果が並んでいないところを見るとまだまだだと思う。


 それでも良は良だ。上から二番目なのは伊達じゃなく並よりも高く売れる。一回だけなら大ダメージを受けても回復できそうだ。


 良は異次元倉庫に入れておいた。並は売り専だ。取っておいて一気に売るか、小売で少しずつかだな。少しずつにする時は薬師ギルドの圧力がかかってきた時くらいか。もしくは俺をスカウトに来るかもしれないな。


 俺は笑いながら作り続けた。ミカを思えば辛くはなかったし、素材は随時収納されていくしで全然楽しくやり続けられた。


 途中から薬草の質も良くなって中級体力回復ポーションを作れるようになったのでくら替えする。特はまだまだ時間がかかりそうだし、より高く難しい中級を作る方が練度も上がるし利点も大きい。


「っと……さすがに作りすぎたかな」


 足がふらついた。魔力枯渇が近くなると起こる症状だ。ステータスの魔力値も上がっているし以外に修練よりもいいステータス稼ぎかもしれない。何気にレベルも上がっているしな。


 ちなみにレベルアップはポーション作りのおかげではない。ミカが頑張ってくれているだけだ。その頑張りに見合うだけの仕事はしたい。


 魔力草があるのを確認して、次は魔力回復ポーションを作り始める。魔力を消費するのは薬草と魔力草を玉にする時だけだから、一回でも作ることに成功すればもう魔力枯渇の心配はいらない。


「本当はポーションなんて飲みたくないけど」


 我慢だ。ミカのために。

 できあがった下級魔力回復ポーションをポイントで買ったコップに注いで一気に飲み干す。


「……意外にうまい、な」


 何というか少し刺激的な、そうコーラのような味がする。ドロドロなのはシェイクとかだと思えば普通に飲める。


 俺のせいなのかな。俺の魔力で作ったからそんな味になったとか。刺激的な理由はよくわからないけど、確かにこれなら普通に飲めるな。


「……ん? 板かな」


 異次元倉庫を漁っていると木の板のようなゴツゴツした何かが入っていたので取り出す。木彫りで「美味しかったよ。ありがとう」と書かれており少しだけ頬が赤くなった実感がある。


 そうしてミカが来る夕暮れ時までポーションを作り続けた。


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書けたので投稿します。

次回投稿予定日は8月20日の朝8時です。


もう少しでイベントなのでお楽しみに。


評価やフォローよろしくお願いします。

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