1章9話 テンプレ? 商人としての覚悟(書き足ししました)

 そのギルドマスターは髭面で筋肉隆々の中年のおっさんだった。俺のことは興味もないとばかりにミカの近くへと歩いていく。


「君の能力の高さはそこのカミロから聞いた。何でもAランクを目指しているとか」

「そうだが何の用だ。オレにはリュウを守らなくてはいけない契約がある。リュウはこれから用事があるのだから、単刀直入に言ってくれ」


 スっと息を吸い込むおっさん。

 カミロと呼ばれた受付嬢も冷や汗をかいている。そんなに重要なことを言うのか。


「このギルドと専属契約をしてくれないか。その場合はそこの男との契約が無効化されると思うが」

「なら断る。カミロ、だったか。依頼報酬を貰いたい。リュウ、変に時間をとってしまった」


 おっさんがそれを聞いた瞬間に瞳を全開にした。とても気持ち悪いと思うのは俺だけだろうか。


「利点を聞いてからでも良くないか?」

「リュウと一緒にいる以上の利点はない」


「そいつよりもいい人と出会えるぞ」

「あなたにとってはそうかもしれないが、オレにとってはそうじゃない。契約以前にリュウとの約束もあるしな」


 約束、そんなものは知らない。した覚えもない。でもミカは毅然とした態度でおっさんの顔を見ていた。


「報酬も増えるぞ」

「報酬よりもリュウが一番だ。なんたってオレの主なんだからな」


 仲間から主に変わってるんですけど。

 まあ、ミカのこんな表情見たことがないな。本気で怒っているように見える。


「そんなひょろひょろとした奴のどこがいいかわからんが、契約をしておけばそんな奴より」

「オレの主を馬鹿にするな」


 抑揚のない声。普段のミカなら考えられない行動だった。


「リュウは仲間を求めてくれた。そこにオレがいた。偶然が重なって、降りづらい許可も降りたんだ。お前にそれを壊させる権利なんてねえ」


 ミカの声はギルドに響いていた。

 だんだんとおっさんの額に脂汗が流れ始める。俺には何もないがおっさんは至近距離で威圧を受けているのだろう。こんなことができるのはそのスキルくらいだ。


「それに専属契約ということはここから出れなくなるってことだ。オレはリュウが一番に行動したいことを共にする。他の街へも行きたいとなった時に付いていけないのは嫌だからな」


 専属契約というのはよく分からなかったが、ハジメの街で依頼をこなすしかなくなるがその分報酬が良くなるようだ。ミカの言葉を訳するとそうなのだろう。


 暗い空気がギルドに立ち込める。

 ミカの恐ろしいところはこれからもここに来なくてはいけないというのに、ここでどうなろうと構わないと言った考えであることだ。行動にそれが出てしまっている。


「ミカ、時間だ」

「そうか。……変な時間を使わせてごめん」

「構わないよ。あっ、カミロさん。報酬頂きますね」


 素材を売る気もない。こんなギルドマスターのギルドに売るくらいなら、多少値段が落ちてもモルガンの所に売る。


「絶対に後悔するぞ……このアマ」

「俺の女を馬鹿にするんじゃねえよ」


 俺の声と共におっさんが地に倒れた。

 うっうっ、と呻き声をあげ俺を睨んでいる。よく分かったな、俺がそうしたって。


 今まで使ってこなかった魔眼の麻痺の能力だ。雷魔法でも行えるがこれの怖い所は、一定値の魔力を使って自由に相手の体を麻痺させることができることだ。軽度、重度、想像の通りに相手を麻痺させられる。雷魔法なら一から制御してようやく麻痺効果を与えられるくらいだし、つまりめんどくさいのだ。


「元Bランクでもその程度なんだな。油断していたとか言うなよ。余計に弱く見えるから」


 俺だって切れているんだ。

 大切なおもちゃを取り上げられそうな子どものように、返ってくるかも分からない所に大切な存在を送りたくない。


 そうして俺は冒険者ギルドと対立を深めながら商人ギルドへと向かった。


 入口に入った瞬間に俺に視線が集中する。おかしな話だが商人の中では俺は期待のルーキーとして扱われているらしい。これはステータスの高さを駆使してひそひそ話を聞いただけだが、情報というのは実態のない分、適当な感じがするな。


 例えば俺の見た目は中年太りのジジイとか、髭をたくさん蓄えた若い人とか俺とは全然違う人ばかりだ。ただ一括して付き添いの女性は美しいと言われている。当人よりもキチンと伝わっているのに少しイラついた。


「おや、リュウではないですか」

「モルガン、少し用事があってきました。個室で話をできますか?」


 モルガンは何も言わずに奥の扉を開けてくれた。ちなみにモルガンと呼んでも誰も商会長やギルドマスターだとは思っていない。単純にフェイカーがいるらしく、それを隠れ蓑にしてギルドの調査をしているようだ。現に俺の目の前にはフェイカーである若い男の人がいるわけだしな。上手い具合にやっていると思う。


「それで、どのようなご要件で」

「まずはモルガンと冒険者ギルドの関係を知りたいです。それによっては話すらできないですから」


 言うなれば冒険者ギルドを敵に回すような発言をする。それにもう対立していると言っても過言ではない。商人ギルドに向かっている際にミカがもう行かないと言っていたくらいだ。


「今のギルドマスターになってからは特にないですね。今のギルドマスターのせいで乱暴に物事を進めようとする冒険者が増えたくらいですし」

「そうですね。俺はそのギルドマスターと対立しました」


 モルガンの目が丸くなる。

 そして俺の目を見てふふふっと笑みを浮かべた。ギルドマスターの名前を出さない所でも俺に敵じゃないと言っているようだ。さすがは豪商、小さなことで本題を見つけることができるとは。


「どうして? と聞くのは野暮ですね。分かりきっていることですから。……ミカさんのことですね」


 商人としての勘なのか、もしくは情報を得ているのか。どちらかは分からないがどちらとも持っていなければ豪商なんて大層なもの、務まらないだろう。


「そうです。ミカは冒険者ギルドに属しているので引き抜きに来たのでしょう。言っていたかは覚えていませんが、俺とミカは個人契約をしています。これがどういう意味か分かりますよね」

「両者の合意の上で一緒にいるということですね。そしてそれをねじ曲げられるのは神様程度でしょう。できたとしても非人道的すぎますし。ライは少しやり過ぎていますね」


 嘘八百を並べていく。

 でもこれぐらいの嘘ならバレない。本当のことが含まれている嘘ほどバレにくいものはない。モルガンならばいくらかは見抜いているだろうけど、全てを見抜くなんてことは不可能だ。


 それにここぞとばかりに名前を出してきたか。悪口というか、批評をしている時にその人の名前を出す。そうすれば人の共感は得られやすい。……聞いているだけでモルガンの商人としての才能を感じさせられる。


「そうですね。そのライが知らなくても俺の仲間を無理やり、連れていこうとしていたんですよね」

「そうだな、オレはリュウといると何回も言ったしな」

「また厄介なことしていますね。あのギルドマスターは本当に使えないようだ」


 モルガンが頭に手を乗せ天を仰いだ。

 その表情はおちゃらけている感じがして少しだけ面白く感じてしまう。だがモルガンの心がどす黒く濁っているのは俺の目で見ても歴然としている。


「使えない」という言葉を口にした時にモルガンの瞳から彩色が消え、何か思い返しているかのように視線をどこかにズラした。


「宿に来るかもしれないですね」

「安心してくれ。魔女と言われたメアリーの宿だ。メアリーに喧嘩を売るほど馬鹿ではないと思いますから」


 モルガンは愉快げに「確かに」と手を叩いた。数秒叩いていた後に表情を変え顎をつく。


「それでどのようなご要件ですか」

「話をしたかっただけです。あのギルドマスターは周囲にも好かれているのか知りたかったので。それにこれも買い取って欲しかったのですけど」


 フォレストドックが十四体とフォレストウルフが三体だ。それを見せて聞いておく。定価よりは安くても、いくらか高くは売れるだろう。それはこいつらが割とハジメの近くでは食物連鎖の頂点に立っているからだ。最下位はゴブリンである。


「場所を提供してくれれば解体もしておきます。このリュックサックの中なら鮮度も落ちないので美味しいウルフ肉が食べれますよ」

「いいですよ。そうですね、フォレストウルフの一体はそのままでいいです。私も手がなまってきているのでちょうどいいリハビリです」


 モルガンの顔から笑みがこぼれている。俺よりも少し年上の大学生らしい純粋な笑顔。俺はそれがなんとも儚げで黒く濁っていないことに驚いた。モルガンも色々なことを体験していようとも挫けなかったのだろう。そして今の商会長の座とギルドマスター、果てはステータスの向上の両立ができたのだ。才能だけでできることではないはず。


 俺よりも、今のミカよりも強いモルガンに尊敬している。そして強く友人でいたいという感情も。例え仕事柄の親友であってもそれで構わない。


「ありがとな。愚痴を聞いてくれて。今度は美味しい話を持ってくるよ」


 モルガンの驚いたような目。俺はモルガンに商人らしい話し方をしていたから当然のことだ。そしてモルガンの口元に小さな花が咲いたように思える。これに儚さなんてものはない。


「構わないですよ。いつでも通話? で話してもらいたいです。俺はリュウの親友なのですから。一目見てリュウが化けることは分かっていましたよ。ただいきなりのギルドとの交渉は驚きましたけど」

「……だよな。今度は常識の範囲内で動くよ」


 私ではなく俺。それがモルガン本来の二人称だったのだろう。それを押し殺していた理由はなんだ。俺と変わらないはずだ。周囲の環境のせいだ。ただ俺の場合はもう一つ、動かなかった自分のせいでもあるのだが。


 笑いながら俺たちを外の倉庫に案内してくれた。モルガンが言うにはこれから自由に使っていいとの事だ。ありがたく使わせてもらう。お金が貯まったら何か物品で返してあげよう、そう決心する。


「同年代くらいの友人はいませんでした。リュウ、あなたと仲良くなりたいと心から思っています」


 商人ギルドから出ていく時のモルガンの小声。聞こえないだろうと踏んでの言葉だろうが、ステータスのせいか聞こえてしまった。聞こえないふりをしながら俺は心から思う。


『こんなに強く仲良くなりたいと思っているのなら、例え表で仲良くなくても友だちだ』


 と。





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 以下、前話で言っていた削除の理由です。

※スタンピードの部分を全て削除させていただきました。二つ理由がありますが一つ目繁殖の異常性です。数体のドックがどうしてハジメの街と戦える程の数を誇るようになれたのか、という矛盾からなのと、単純に強引過ぎる話の流れだったので、自分が読んでいれば読みたくなくなるな、と感じたからです。


 誠に勝手ながらご理解と、できれば7話から読み直してもらえると更に楽しめると思います。これからも応援よろしくお願いします。


 次話の投稿予定日は8月20日の朝8時です。よろしくお願いします。気が向けば明日投稿するかもしれないです(笑)

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