1章8話 テンプレ? ギルドの勧告
群れはもう動いていない。
逃げることを諦めたのか、もしくは迎撃しなければいけないと悟ったのか。もし知能があるなら後者だろう。本陣をバレないようにしたいだろうからな。
どちらにせよ、魔物の数が少し異常なのは理解している。俺の意見は通らなさそうだからモルガンあたりに話をしておくのも必要か。
「ミカ、横から来る!」
「わかっ、た!」
大きな狼の爪が槍と鍔迫り合いになる。緑じみた森に隠れやすそうな狼。そいつとミカは今、力比べをしていた。結果はミカの勝ちだ。
「グッ、ルゥ!」
「まだ若いな!」
楽しそうに戦うミカ。
俺は地図を見直しその場を離れた。
俺たちの元にフォレストウルフが向かってきているのが見えた。速度の問題かウルフとドックは別行動だ。作戦通りウルフはミカに任せる。
ウルフの後ろ数十メートルでようやく一体目のフォレストドックを見つける。イヌと付く割には大きく狼に近い見た目をしていた。ただしフォレストウルフほどの威圧感はなく俺を見て少し怯えた様子を見せた。
「バウ!」
仲間に知らせるために吠えたのだろう。だが肝心のウルフはミカと激戦中だ。今の間にも一体数を減らしている。
「悪いな、俺も生きなきゃいけないんだ」
地球のように学力中心とか、人柄が良くなければ生きれない世界ではない。俺はミカと一緒にこの世界で順応するつもりだ。フォレストドックはそのための段階でしかない。
これが異常事態なのは俺でもわかる。
戻ってもミカは無理やり働かせられるだろう。冒険者とはそういうものだ。街の危機なら何も言わずに手助けをする。商人ギルドとは違うな。
「雷球!」
「バウッ……」
フォレストドックの腹に雷の球が激突する。ダメージはそれなりだろう。商人は魔力方面、つまりは知識方面で強化がされるからな。
剣に関してはからっきしだ。攻撃値はあまり上がらない。それでも商人になったのは色々と理由がある。こんな相手と戦う予定はなかったんだけどな。
「甘く見ていたよ」
剣を振り上げフォレストドックの腹を掻っ切る。そこでようやく剣術を獲得した。これがあればいくらでも派生ができるんだ。さすがに商人だったためにスキル獲得までに時間がかかったけどな。
「雷付与……魔力の消費がひどいな」
初めてにしては上出来のはずだ。
手に持つ剣はバリバリと稲妻を放ち咆哮を聞いて助けに来たフォレストドックに向かう。自動追尾なんて付けた覚えもないし、勝手に動くようにしたわけでもない。まるで意思があるようだ。
残り二十三体、生憎と倒せる気がしないな。多勢に無勢過ぎる数の差だ。やるしかないのだけれど。
「雷波」
イメージは雷の波だ。広く浅くをイメージしてできる限り体力を減らしたいのだが、あまり効果はないな。仕方ない。
商人による恩恵が少なすぎる。もう少し後でも良かったかもしれない。
そんな弱音を飲み込んで剣を振り続けた。良かったのは俺の魔力量が少し多いことか。初級の雷魔法ではあまり消費が少ない。それに相手の攻撃を躱していけば長期戦も無理ではないし。よく二十三体もの相手を躱し続けられているとは思うが。
「雷竜」
雷魔法レベル5なら竜の頭を出す程度か。いや、俺の魔力の低さが原因かもしれない。どちらにせよ、何もできないよりはマシだ。
「咆哮!」
「グアァァァァ」
一声上げるだけでフォレストドックの体がチリチリに焼けていく。それでも決定打に欠けている。心臓を貫くにはまだ何か。いや、そうか。
「雷槍!」
消費できる限りの魔力を使って数十の雷の槍を作り出す。イメージはミカが貰った槍だ。もちろん、貫通力もそれなりにした。これで倒せないなら俺は役不足だ。
一体目のフォレストドックが倒れた。運良く一撃で心臓を貫いたようだ。二発目、三発目と撃ち込んでいき、残り二十本をきる頃にはフォレストドックの数は八となっていた。ここまでやれば十分だと思うが最後までやりきってみせる。
「これで最後だ!」
槍が飛んできたのを躱したフォレストドックの後ろへ回る。ここまで少なくなれば近接でも大丈夫だ。
ステータスをちらっと見てからフォレストドックの首を飛ばす。レベルは13を越えていた。20になればセカンドジョブを付けられる。もう少し近接にも強くなるはずだ。
危なげのなくフォレストドックを全滅させた。雷槍が残っていたので案外楽に倒せた。もちろん、収納しておく。
フォレストドック一体を倒す事にポイントが二十も入ったので五百近くのポイントが今あるのだ。それに素材も使えるからある程度高く売れるだろうしな。
ちなみにだが俺が得た雷魔法だが本来は火と風の複合魔法だ。つまり二つの魔法レベルのカンストが獲得条件になってくる。
通常属性は、火・風・土・水・光・闇・無。
上級属性は、炎・雷・木・氷・聖・呪。
合致しないものは、空間・精霊だ。
通常属性の複合や火から炎のように単体のスキルレベルカンストで獲得できるものもある。今回はすっ飛ばしてしまったが火などもの通常魔法はポイントなしで覚えるつもりだ。
地図で見たがミカが動いた様子はない。映るってことは死んでいないということだから、単純にフォレストウルフを全滅させたのだろう。
名前 リュウ
年齢 17
ジョブ 商人
レベル14
攻撃 125
防御 135
魔力 155
精神 165
幸運 200
固有スキル
魔眼1(麻痺、鑑定)ポイント1、ポイント売買1、ポイント増加1、地図1
スキル
剣術1、魔法剣術1、付与1
魔法
空間1(異次元倉庫)、雷5
ポイント 486
レベルが大幅に上がっているのに、最初程のステータスの上がり方ではない。緩やかに上がった感じだな。これは商人のせいか。非戦闘職だからステータスの上がりも微妙だ。
だけどこれでE〜Dの間くらいのステータスになった。これは大きな進歩だ。多分成長率を上げてくれたからこそ、ここまでのステータスの高さになっているのだろう。
「アフロディーテ、ありがとう」
「リュウ、どうしたのか?」
うおっと俺は体を仰け反らせた。
いきなり横から出てきたミカに驚いたからだがそれ以上に驚く理由があった。それはミカが倒したフォレストウルフを全て担いでいたからだ。驚いて俯いた時に大きな影を見てしまった。顔をあげればフォレストウルフを担ぐ血だらけのミカがいれば、驚かない人の方がいないだろう。
「……引いちゃったか?」
「いや……初見にはキツいだけだよ。もう慣れたから大丈夫」
ミカであることには変わりないし、ミカはいつも通り可愛い。それだけでいいじゃないか。
とりあえずミカの担いでいるフォレストウルフに触れ収納していく。大丈夫だよな、ミカを傷つけていないよな。
「あっ、ありがと」
「ああ、まあミカが無事でよかったよ。強いことが分かっててもミカがいないのは辛いからね」
いつも通りミカが笑ってくれている姿を見てつい言ってしまった。気づいてすぐにミカの顔を見る。ミカの表情が赤くなっていき嬉しそうにしていた。そこに嫌だという感情は一切ない。
「仲間として支えていくからね」
「そっ、そうだな。仲間としてな」
仲間と強く言っていた。
やっぱり女性って分からないな。好きなのか嫌いなのか分からない。好きなのだろうけどそれは人としてか、異性としてなのか。うーん、謎だ。
周囲に魔物がいないことを確認してから深部の検索をかけてみる。良かった、何かが異常に現れているということはない。つまりはフォレストドック討伐依頼はここまでだ。
犬や狼の繁殖率は低いと思っていたがそうでもないらしいな。現に数体から二十体ほどに増え、その中から八体が進化したのだから。
用事も終わったのでミカと手を繋いで街へ戻っていく。地図で敵意の少ない所を選んだので襲撃はされていない。帰り道でいくつかの薬草を手に入れられたのは儲けものだろう。俺の幸運が輝いている。
門兵とたわいもない話をして商人カードを見せる。これで俺たちの街へ入るための税金は免除だ。
「……うるさいな」
ギルドの中は賑わっていた。いつも以上に酒を飲む人が増え床に倒れている人も少なくない。俺たちはそれらを無視して人垣をかき分け受付嬢の所へ行く。
賑わっているからこそ受付に並ぶ人はいなく簡単に自分の番に回ってきた。商人ギルドにも行かないといけないから、こういうことはとても嬉しい。
「いらっしゃ、あっ、ミカさん」
「依頼達成の件だ。これが証明」
乱雑に俺が渡しておいたリュックからウルフの右耳を置いていく。俺が倒したことで波風を立てたくないし、ミカの力を感じれば俺に攻撃してくる人も少なくなる。そういう打算的な考えでミカに任せておいた。だが失敗だったようだ。
「お前が新入りのミカか」
嫌な予感しかしない言葉を聞いて俺の表情が固まった。そこにいた人のジョブはギルドマスターだったから。
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次回更新予定日は8月18日の10時です。
またもうそろそろでストックが切れそうなので不定期投稿になるとは思いますが、更新予定日は出しておくのでよろしくお願いします。
評価や応援、よろしくお願いします。
※改定しました。スタンピードの部分をまるまるカットしました。理由等は次話の説明をお読みください。
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