1章5話 商談? 商人でも強くないといけません

「今日はどのようなご用事で」

「商人ギルドに入りたいので来ました。もちろん、手土産として売れるであろう手土産もありますよ」


 ミカにも確認で聞いたが砂糖を買ったことは失敗ではないようだ。この世界では砂糖は嗜好品に属しており、貴族の楽しみでもあるので甘みの強い白砂糖は売れるだろう。


「了解しました。まずはこちらにお名前とスキルをお書き下さい。ない、もしくは書きたくなければ書かなくて結構です」

「……これでいいですか?」


 スキルは白紙で名前はリュウと書いておいた。首を縦に振ったのを見計らってか、奥から装置を持ってきた他の職員がいる。


 俺は装置を見たことがあった。冒険者登録の時に使ったカード制作の装置だ。そのまま装置に指を通しカードを作成してもらう。


「それでは商談のお話ですね。まずは奥へどうぞ。入りたてで売り込みとは初めてなので私で対応できるか不安ですね」


 イケメンの顔がくしゃりと柔らかくなる。こうして女子を落としてきたんだろうな。ミカ狙いか、もしくは天然か。よく分からないが危険視はしておこう。


 イケメンが奥へ行ったのを付いていく形で俺たちも進む。綺麗な内装だ。見た目で驚いたが内装は凝りに凝っている。


 窓や扉、その一つ一つが考えられて配置されているのだろう。そして道の途中の花瓶など。これは魔法が付与されているな。


「……防犯面も万全のようですね」

「よく分かりましたね。花瓶の力を知っていたのですか?」


 俺にはチートである魔眼があるからな。鑑定すれば効果なんて一発でわかる。花瓶の力は四方に並べることにより囲まれた場所に入った存在に幻覚を見せるものだ。進んでも終わりの見えない、そんな幻覚に襲われる。


「これくらい察知できなければ商人にはなれませんよ。それにギルドで売り込みをすることだって」

「確かにそうですね。いやー、いい人そうで良かったです。この花瓶の力を口外されるんじゃないかって」


 言外に言わないよな、と圧力をかけられた。商人は口が命だ。軽ければそれだけの信用しか得れない。知っているなら言わないよな、とこんな感じだな。


「当たり前です。これから頼りにするというのに」

「そうでしたね。すいません、人を疑わないと気が済まない質なんですよ」


 女子の腹黒さを浮かべさせるな。

 やっぱり商人には腹黒い人しかなれないのだろうか。


「そうでもなければギルドの幹部にはなれませんよね。わかりますよ」


 イケメンの表情が変わった。醸し出す雰囲気も穏やかなものから緊張感のあるものへと変わる。そりゃそうだ、それなりに自信があって受付に化けていたのだから。


「……バレバレですか。どこまで気づいていますか?」

「雰囲気が他の受付の人とは違ったのでカマをかけただけなのですけど。……正解だったんですね」


 とぼけておいてイケメンの顔を見てみる。

 イケメンは「失言したっ」と顔を隠しているが言わなくても分かっていたことだ。スキル構成が普通の受付の人とは違ったのだから。


「本部から送られたんですよ。お前がこの街のギルドマスターだって。本当は来たくなかったんですけどね」

「仕方ありませんよ。それが社畜です」

「シャチク、ですか。……嫌な響きですね」


 万国共通の言葉として社畜が流行ってしまいそうだ。面白そうだが文化の破壊などに繋がらないよな。


「っと、着きましたよ。まずは手前の椅子に座ってください」


 なるほど、商人ギルドの下っ端とはいえお客人として扱ってくれるのか。いや、ただ単にここまで来る時におかしな発言をし過ぎたのか。


 レディーファーストと言うことでミカを先に座らせてイケメンの座りそうな席の真ん前に座る。イケメンが着席した。


「それでは自己紹介を。私の名前はモルガンと言います。商人ギルド直轄のモルガン商会会長です。そしてこの街の商人ギルドマスターをしております」


 ギルドマスターはそのギルドのトップの人だ。つまり俺はど偉い人に商談を挑んでしまったということ。初めての相手にしてはレベルが高すぎたな。


「私はリュウ、田舎生まれの一攫千金を狙って出てきた者です」

「面白いですね。……あなたの故郷ではこのような良い目をしている人が多いのですか」


 良い目ということはモルガンのお眼鏡には叶っているのだろう。掴みは上々かな。


「オレはリュウのお雇い冒険者であり家族だ。オレもリュウと同じ故郷で一緒に出てきた次第だ」

「あなたも良い目をしている。……うん、それでどのようなお話をしに来たのですか」


 来た、ここからが本当の戦いだ。

 明らかにモルガンの目の色が変わったからな。品定めする、豪商としての瞳だ。


 そう、モルガンは豪商だ。スキル制でありながら商人よりも高位のジョブについているのだ。そしてスキルも戦闘系と商談系、生産系で広く深くといった感じだな。普通に器用なのだろう。


 俺は無言で一つの小袋をテーブルに置く。

 ズシリと音がしてモルガンもその小袋を見ていた。手でどうぞと合図をするとモルガンはササッと中身を拝見する。


 またモルガンの目の色が変わった。

 驚き、いや価値の高さを一目で理解したのだろう。


「これは?」

「私が、私だけが卸せるであろう白砂糖です。甘さも質も美しさも、現在売られている砂糖より価値があると思います」


 ミカに聞いた所、砂糖の価値は一キロ金貨六枚だ。それよりも質の高いものをどうやって値段付けるのだろうか。ミカの査定では金貨十枚はいくとのことだが。


「……確かにその通りですね。甘みも申し分ない。指に軽くついたものだけでここまで甘みがあるのですか」

「貴族には高く売れると思いますよ。定期的に卸すことは個人的には不可能なのですが今、この量であれば卸せます」


 モルガンは顎をついて悩み始めた。

 質などからして王族に売れるだけの価値はあることを理解しているのだろう。そしてそれに価値をつけるということは売る時にも影響がある。俺を手放したくなければそうするしかないからな。


「約一キロですね。……金貨十枚、と言いたいのですがこんな条件はいかがですか? 呑んで頂けるのであればもう少し増やせるでしょう」

「話によりますが何でしょう?」

「白砂糖が絡む商売の時にモルガン商会の介入を許して欲しいのです。個人で売る時には構いませんが、余っている場合モルガン商会に卸してもらいたい、と言った話です」


 先にモルガン商会は商人ギルドの傘下だと言っていた。商人ギルドとしても利があるし個人としても利があるのか。問題はどこまでが個人で売る、に該当するのかだな。


「個人の振れ幅はどのようなものですか?」

「リュウ様の店舗やリュウ様個人での販売の時です。無償で提供する時やリュウ様直属のものが販売する時は個人に含まれます」


 それなら悪い話ではない。

 ただ強い所への介入は下手をすれば吸収に繋がる。どのような工作をしてくるかわからないしな。


「それならばモルガン本人が、私と同等として以下の契約にこんなことを付け足してください」


 小さなメモ書きにサラサラと文字を書いていく。日本語で書いてみたが通じてはいるようだ。




1.モルガン商会とリュウはどちらに属することをしない。

2.リュウ個人(ここでの個人は無償提供、直属の者の販売、店舗での販売である)への過剰な介入は行わない。

3.余り次第、モルガン本人がリュウと交渉する。他の者との交渉は行わない。




「これらだ。3に関しては情報漏洩を防ぐための処置だが、どうだろうか。俺としては白砂糖を販売するまでは、俺が提供者だとバレたくないですし」

「いいですよ。悪くない契約です。ですがこれでは私に利が大きいのではないでしょうか」

「それは今後とも仲良くしてもらうことを前提にしているからです。1に書きましたが属することをしない、つまりは対等にモルガンと話をしたいので」


 俺は手を差し出す。

 モルガンはふふっと笑うと握り返してくれた。これで交渉成立だ。モルガンが俺の書いた紙を手に取り、手で丸めて握ったかと思うと一枚の紙がだんだんと姿を表し始める。


 商人スキルの一つだ。契約という経済的な決まり事の際に使われるスキルで、魔物を仲間、従魔にする契約とは違う。モルガンは両方とも持っているみたいだけれど。


「これが金貨二十枚です。これからはよろしくお願いしますよ。親友さん?」

「出会いたてで親友とは不思議ですね。ですけど嫌な気はしません。お互い利のある、そして楽しい関係を築いていきましょう」


 俺は金貨を一枚使ってポイント売買から一つのものを買う。リュックから出したように見せかけそれを見せつけた。


「それは通信器具です。私と話をしたい時は僕を思い浮かべるだけでいいです」

「これは……マジックアイテムですか? いやそれよりも高度な物にも見えます。……あなたは一体」

「モルガンの親友です。あっ、触れたら体に消えるので気をつけてくださいね」


 モルガンが驚いてから言ったので「早めに言ってください」と怒られた。これで他の方向への顔が利くようになりそうだ。


 通話できることを確認して、良い武器を販売している場所を聞いてから俺たちは商人ギルドを後にした。

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