1章4話 商談? お金が必要です
とりあえずツインの部屋で持ち物を置いていく。現在良い時間帯のため食事も済ましておく予定だ。
食事にかかるお金は先払いしたらしく気にしないでいいようだ。話によればお風呂はないため体を拭く布や水を貰う必要もある。これで明日買うものは確認できた。
ミカは魔法全般、高水準で使えるためタライなどがあればいちいちお金を払わなくて済む。まだ春真っ盛りだから暖かいしな。
「この世界での主食って何?」
ご飯と言っても米は出てこないだろうな、と予想を立てながらミカに聞いてみる。
「見ればわかる」
そう言われるということはそうなのだろう。これ以上聞くのもなんだし聞き出すことは諦めた。
食堂に着き日替わりメニューを頼む。実際日替わりメニューしかないらしくトッピングなんかもない。あるのはドリンクくらいで、普通にミカがワインを頼んでいた。
最初にミカの前になにかの燻製が出される。その後にワインだ。俺の前には普通の水。さすがに未成年で飲酒をしたいとは思わない。
「リュウは飲まないのか?」
「一応ね。人前では飲みたくないんだ」
さっきはぐらかしてきたお返しだ。こっちも本当のことは言わない。……すごく敗北感に襲われるが知ったことか。
出された食事はフランスパンとシチューだった。そしてようやくミカが言わなかった理由がわかった。フランスパンが元の世界のような硬さではなく、噛んでも噛み切れないほど硬いのだ。シチューにつけるんだ、と教えてきた時は恥ずかしかった。
食事も終え途中で宿のお婆さんに水を頼む。これで今日の仕事は終わりだ。着替えがないのは残念だけれど明日準備すればいい。
背中をミカに流してもらい反対に流して上げる。タオルで胸などを隠してはいたがいくらかは見えてしまう。うん、役得役得。
「服は明日買おう」
「そうだな。……後は商人ギルドに行くのと依頼を受けることだな」
そんな呟きをしながらベットを持ち上げるミカ。普通に地球でもあるような大きなベットだ。それを片手で軽々と持ち上げて俺のベットの隣に付けてくる。
顔を赤らめているから恥ずかしいんだろうな。まあ、来る者拒まずだ。ミカならいつでも隣にいていいと思う。アフロディーテに頼んだようにとてもいい子だ。
ベットを付けたがそれぞれの場所で横になる。それなのに気がつけば俺のベットにミカが侵入していた。解せぬ。
寝息だけが聞こえる中で俺はミカを抱きしめる。久しぶりの人肌はとても暖かかった。
若干睡眠不足のままで朝が来た。
特に手を出すこともなくミカの顔を見て癒されていたら夜中だったのだ。高揚感のためか寝てもすぐに目が覚めてしまうし。
逆にミカがなぜ寝られるかがわからない。能天気なのか、実は俺に脈ナシなのか。その二つしか答えはないだろう。
体を起こしはしたもののベットから降り顔をじっと見つめている。本当に可愛い、妹と同じくらいに可愛い。だからこそ手を出すことはできない。
可愛い存在に手を出すことは犯罪だと俺は思う。俺のような存在は美しいものに触れてしまうと、その存在を汚してしまいそうだからな。……でもミカとの子どもとか欲しいな。裏切らないならいっそ結婚も。
その時にミカの瞳が薄らと開いた。
俺は満面の笑みを浮かべてミカに言う。
「おはよう。さすがに俺の所まで侵食してくるのはどうかと思うな」
「……リュウー。……おはよう」
そう言って抱きついてくるミカ。
はいはい、と頭をポンポンと叩き離してくれるのを待つ。
「早くしないと朝食に遅れるよ。もう起きようか」
「うん。……リュウいい匂いがするよ」
いつもはガサツな言い方なのに寝起きはこんなに甘えてくるんだな。天使も人も大して変わらないじゃないか。確かに眉目秀麗で人とはかけ離れた、いで立ちかもしれないが。
とりあえずベットに腰を下ろしてミカの脇に手をかける。そのまま引きずり出し上半身を起こさせた。
「酷い。もう少し良い方法がなかったのか」
「起きようとしない人が悪いだろ。ほら、早く起きてくれ。今日はやることがいっぱいだからな」
お金を沢山使うということは逆に稼がなくてはいけない。ポイント売買では買えるものも少ないから、良い掴み方はできないだろう。いや白砂糖でも高く売れるのか。純度や甘さに至ってはこの世界のよりも良質だろうし。
うん、最初は砂糖を卸すか。
白砂糖一キロ買って空間の中に放り込む。一キロでポイント50なので意外に高いかもしれない。魔物狩りで得られたポイントは二百ちょっとなのでゆっくり使わないとな。
武器も買いたいけれどそこまでのポイントはない。一応、お金をポイントに変えられるようだが、それでもミスリル貨十枚でいわゆるSランク武器が手に入るしな。ちなみにエリクサーは安い。多分、素材があれば割と簡単に作れるのだろう。
作って売り出したいな。もちろん、製作者は不明にしてどこからか入手していることにする。やっぱり商人でもやっていける自信があるな。もしくは後継を立てて俺が作ったものを卸してもらうか。
どちらにせよお金が必要だ。後継にしても信頼できる奴隷を得た方が楽だしな。知らない人は、例えギルド経由でも信頼はしない。本心を理解するなんて神の所業だろ。
お金を手に入れたら武器だな。
欠けにくい片手剣が俺には必要だし、ミカの主要武器は槍らしい。できれば両方とも獲得しておきたい。
食堂で朝食を済ませ部屋に戻り、持ち物を空間に入れておく。空間の割れ目というか、黒い空間の中に放り込むのだが取り出す時は手を突っ込むだけでいい。後は欲しいもののイメージをすれば手で掴んでいる。それを引っ張り出せばいい。
鉄の剣を腰に下げて宿を後にした。
宿を先には出たが場所を知っているのはミカのため、俺はすぐにミカの隣に移る。昨日と同じように手を繋ぎながら冒険者ギルドとは反対の方向に向かった。
ミカが何度か人を弾いていたが俺にはわかった。痴漢か盗賊だ。お金が取られそうになるのを腕を思いっきり弾いて対処しているようだ。俺にも何人かの人がまさぐってきたが何もしていない。あいにくと必要な物は収納しているので取れるものはないからだ。リュックを奪えるほどの大胆さはないようだし。
商人ギルドに着いた時には午前八時前だった。これはステータスの端に時間が書いてあったからわかったことで、他の人は時計台の鐘の音で時間把握をしているようだ。簡単に言えば午前六時から午後八時まで、時間の回数によって把握するようだ。六時なら六回鳴るといった感じだな。ちなみに午後になっても六時なら六回だ。
商人ギルドの看板は飾り気のないものであった。手が繋がれている、握手しているだけの看板で他には栄えるものもない。冒険者ギルドは色を付けて輝かしくしていたが。
「いらっしゃいませ」
九十度の礼、それは商人ならではであるだろう。そして素人目から見ても分かるほどに美しい。
受付に立つのは男性の職員だった。
綺麗な顔だがミカには及ばない。俺の妹にも及ばないな。
心の中でそんな評価をしてから俺も見よう見まねで礼をする。さて、ギルド登録と商談の時間だ。
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