1章3話 ギルド? やり過ぎました

 冒険者ギルドの外見は盾と剣が交差した、なんとも言えない看板が目印だった。技術面からか木造建築で結構古びている。


 ミカが俺の手を掴んだままで進むために引っ張られる形で中に入っていく。するとすぐに俺に対して威圧感、いや殺意が向かれた。


 ここに来て魔物と戦った経験が生きた。

 魔物は殺気丸出しのために攻撃が分かりやすかったからな。場所の把握にもいいとミカに無理やりヘイトを貯めさせられたからな。まあ、ミカがいるから安心してやれたけど。


 それにしても俺を睨んでいる人たちは嫉妬からだろうな。そしてステータスは俺以下。最低ランクの人たちだと俺は思った。


「すいません、冒険者登録をしたいのですが」

「お二人ですか?」

「いえ、こちらのミカだけです。俺は商人になりたいので」


 余計にヘイトを貯めることは理解しているが嘘はつけないだろ。周囲の商人のくせにあんな綺麗な人をとか言ってるけど気にしない。


「わかりました。こちらの紙に必要事項を書いてください」


 ミカが手渡されたのは本当に簡易的な質問が書かれた書類だ。名前や戦い方を書く必要がある。裏を返せば他は特にない。


 ちなみにだが俺はスキル制の人に対してもステータスを見ることができる。これはただ単にステータス制ならばどの程度か、と出てくるだけで誤差がないわけではない。


 ただ俺よりも低い奴らが騒いでもそこまで恐怖は抱かないな。簡単に言えばゴブリンより少し強い程度の何かに絡まれているものだし。


「書き終えた」

「……大丈夫そうですね。それではこちらに指を通してください。はい、大丈夫です」


 一瞬淡く光ってからカードが外に出る。

 これが冒険者カードらしいが銅でできているみたいだな。


「冒険者ランクはF〜SSSまであります。ミカ様は成り立てですのでFからです。質問はございますか?」

「特にない。あっ、解体場を借りられるか」


 ミカの言葉に「大丈夫ですよ」と笑って返す受付嬢。受付嬢だからか割と綺麗だと思う。ただミカの秀麗さにはかなわないが。


 それにしても両利きなんだな。

 俺と手を繋ぎながら、つまりは左手で文字を書いていたし。俺も小さい頃は使えていたが今では無理だ。そこまでして俺と手を繋いでいたいのだろうか。……さすがに違うか。


「あっちだから行こ」

「おう、わかった」


 肯定こそしたものの手を繋いだままなので引っ張られる。いい加減離してもいいと思うのだが、ミカは嫌なのだろう。


「おっと。お嬢ちゃん、そこの男に話があるんだ。借りてもいいかな?」

「ここを出てすぐだ」

「そっ、そうだな」


 立ちふさがる冒険者を無視するなんて、ミカって以外に天然か。それも可愛いと思うからいいけど。


「おい無視すんなよ」


 下卑た目でミカを見ながら俺の肩を掴む。

 なんでこうも人の気分を逆なでするんだろうか。俺は戦わずに稼いで暮らしたいのに。


「……リュウに触ってるんじゃねえよ」

「おいおい嬢ちゃん、異性は良くても俺はEランクだぞ? そんなガキよりも俺がお前のことを」

「ふざけんな」


 やっべ、手を出しちまった。

 俺の腹パンで転がって吹っ飛ばされる男。そこまで力は入れていないはずなんだけれど。


 あっ、これも女神補正か。もしくは加護の力で攻撃値に補正がかかってるとか。


 どちらにせよやっちまった。

 しゃあない、ここはどんと構えて流れに沿うか。


「俺の女に手を出してるんじゃねえよ。それにこれくらいで吹っ飛ぶ野郎がEランクだァ? 冗談も程々にしろよ」

「リュウ……カッコいい……」


 やめて……絶対に黒歴史になる事件だから。そんなにキラキラした目で俺を見ないで。


 仕方ないのでミカとの手を離しそのまま抱き寄せる。ひあっとか可愛い悲鳴が聞こえたが後だ。


「ミカは俺よりも強い。やるなら俺を倒してから挑むんだな」

「おま……お前何もんだよ!」


 あっ、俺に殺気を浮かべていた人だ。

 何もんだって、いや世界に嫌気がさしていたニートですけど。引きこもり、ヒッキーですけど。


「俺は世界で有名になる商人だ。リュウ、覚えていて損はないと思うぜ」


 仮だけれど失敗はしない自信があるしな。まあ、こいつらに物を売る気はないが。それでもこれくらい言っておいても良いのではないか。


「そしてオレはリュウの仲間にしてお嫁さん候補。冒険者としてもすぐにAランクを超えて上げる」

「いや、お嫁さん候補って」


 背筋が凍るとはこのことだ。

 お嫁さん候補じやないと言おうとしたら横目で見られた。ミカ怖い。

 うん、この状況でははったりは必要だよね。お嫁さん候補もはったりだよね。そうじゃなきゃこんなに綺麗な人がお嫁さん候補なんて。


「くっそ。なんでイケメンにはこんなに綺麗な人がいて、俺たちブサイクには女性の影すらないんだ」

「ブスだからじゃね」


 俺の一言で倒れる冒険者たち。

 メンタル弱すぎだよな。よく魔物と戦っていられると思うんだが。


 それに俺ってイケメンなのか。

 ナルシストになりたくないからそこまで気にしないけど、ミカには釣り合うのだろうか。それならミカが俺のこと好きって言うのは……成り立つよな。


 死屍累々とした冒険者ギルドのロビーを後にして解体場でゴブリンなどを解体する。初めての経験だったが八体目の解体の時にスキルを得たため楽になった。そのまんま解体ってスキルだ。


 受付嬢にそれを渡してお金を持って冒険者ギルドを後にする。そこまでお金は得られなかったな。銀貨十三枚と銅貨五枚だ。


 ちなみにミカ曰く、銅貨<銀貨<金貨<大金貨<ミスリル貨のようで価値は百枚単位。銅貨一枚で十円ほどなのでミスリル貨は一枚、千億程の価値がある。一般の人たちでは見ることすら少ないらしい。


 見ていないがミカが言うにはミスリル貨を鋳造してミスリルの武器を、とかは不可能のようだ。というのも粗悪なミスリルで貨幣を作っているので技術的にも、価値的にも大したことがない。教えてもらえばもらうほどに面白い世界だと思う。


 そうして勉強をしながら帰っていたために思いの外、体内時計では早く宿についてしまった。部屋の確認もしていないので、とミカに強く引っ張られる。


 203号室が俺たちの部屋で、先頭が2とあるように二階の部屋だ。鍵は古く錆びていたが簡単にロックが外れる。ドアノブを引いてミカが先に入っていくが、聞こえたのは悲鳴だった。


「なんでダブルじゃなくてツインなの!」


 割と宿の廊下に響いていたのでヒヤヒヤしながら部屋に入った。

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