1章2話 街? 治安良さげです
大体十七匹目を倒した時に明かりが見えた。
周りは夕暮れに近く少しだけ暗い。見間違うわけがないだろう。
「街……かな?」
「明かりからしてそうだな。確か落とされた所の近くの街の名前は……ハジメだな」
「そのまんまだね。何か人的作為を感じる名前だ」
俺にとっては最初の街、ハジメ。
これが偶然なのか、それともここの近くの魔物が弱いからハジメなのか。本当に始まりの街なのか。
「単純にハジメという初代領主がつけた名前だからだな。始まりという意味ではない」
少しガッカリしたが、まあその通りだよな。逆にそのまんまであればツッコミどころ満載だ。
「にしてもアフロディーテの近くにいた時よりも楽にしてるな。なんでだ?」
「いや、普通に慣れてきただけだ。さすがにファンタジーの魔物を倒したら気持ちも慣れてくる」
ミカには届かないがそれなりには倒している。武器は鉄の剣しかないからそれだけでだ。ぶっちゃけ強い武器が欲しかった。
力任せに振る俺の剣と、流れに沿って切るミカの剣は違うのだ。喋り方こそ粗野だが腕前はとてもすごい。
俺の鉄の剣は至る所が欠け折れそうだが、ミカの鉄の剣は新品となんら変わらない。まずは剣の振り方を学ばないといけないな。
「素質はあるよ。これから伸ばしてやるから安心しろ。まずは拠点を得ることが重要だからな」
拠点という時に頬を赤くする理由がわからないが当然のことだな。休める場がなければ英気も養えない。テスト前に寝なかったがために余計に悪い点を取るのと一緒だ。
「アフロディーテに感謝しないと」
「しなくていいさ。あいつが罪滅ぼしのためにやったことだ。リュウの前ではあんなことを言っていたが、暴力を振るわれないかビクビクしていたんだぞ」
確かに死に方が死に方だしな。
ただ元の世界に未練はなかったし、勉学至上主義という名の大人は偉く子供は従えの制度は嫌いだった。
そんな考えを排除しなければ教師の妬みなんか消えないだろう。虐めもそんな教師から影響を受けているようにも思える。少なくとも俺はそんな存在を知っている。
「それに偉そうに出ようとした癖にいつもの姿で出てしまうし、あいつは馬鹿だ」
「アフロディーテはいつも裸なのか」
「ああ、あいつは服が嫌いだって着ない。せっかく純粋さを基調とした真っ白い羽衣を用意していたんだけどな」
そういう割にはミカの表情がエグい。
わざとなのか、わざとアフロディーテを裸のままで外に出したのか。俺にはわからないがそうであっても納得できる。
「そっ、それでどうやって中に入る? お金は持っていないぞ」
RPGゲームのような敵を倒せばお金が手に入る、なんてことは起こっていない。つまりは売って稼ぐしかないのだ。
侵入するのは不可能だろう。やっても後が怖いし魔物対策のためかとても大きな門で囲われている。
持っているゴブリンたちの素材を売ってもいい宿に住めるだろうか。ステータスを見る限り後一週間は期間が欲しい。
「金ならアフロディーテから貰っている。良い宿も聞いておいたから大丈夫だ」
「……ミカが言うならそうなんだな。わかった、とりあえず中に入ろう」
小さな門前まで赴き兵士にミカがお金を渡す。兵士のミカを見る目が汚くて少し腹が立つが。
中には入れた。兵士の行動はとても許せることじゃないから何かお返しを考えておかないとな。
「リュウ、変な顔してどうした?」
「別に。ミカ、早く行こう」
まずは宿を取らないといけない。
やらなければいけないことを済ませてから今後の方針を決める。そう考えれば重要なことだな。兵士のこととかどうでも良くなってきた。
一応、俺の仲間だということをアピールするために、兵士がミカを見ている時にミカの手を握って人混みに入っていった。非リアという絶望を味わうがいいさ。
「……リュウ? 手……は嬉しいのだが」
「手? あっ、ごめん」
手を離した時にあからさまに落胆した表情を浮かべてくる。手を離したくらいでそこまでなるかってほどにだ。
「ミカ、宿ってどこら辺? 先に部屋だけ取っておこう」
「そっ、そうだよな。……その後に冒険者ギルドに行こう」
考えた上で冒険者ギルドに行くのは必須だよな。なんかイベントがありそうで行きたくはないけど。
俺は冒険者になる気はないし必要性のない戦闘はしたくない。ポイントだっていくらか自分を守るための力と生産スキルを簡単に得るために手に入れたしな。
とりあえずは商人ギルドに入って豪商にでもなるつもりだ。俺やミカのステータスは相手を推し量るのに十分な要素となる。それにレベル制の設定があるからスキル制の現地人よりは強くなりやすいのだ。ましてやポイント制でもあるからな。
つまりは俺の欲したポイント制というのは、ステータスもスキルもポイントで得られる力だ。ステータス制ならではの能力の上がりやすさと、スキル制ならではのスキルレベルの上がりやすさが両立されている。
これだけでもチートと言えるが後の二つはより酷いとも言える。魔眼に関してはレベル上昇で能力が増えるのだ。ただ制限としてポイントで上げることはできないし、今は魔力が少なくてまだ使えない。ジョブが付けられるようになるまでは無理かな。もちろん、付くジョブは商人だ。派生する豪商のジョブは本当に使えるからな。
そしてもう一つのミカエルに関しては見ての通りだろう。俺を第一に考えて行動してくれる。妹が一番可愛いと思っているが、ミカは確実にそれと同等クラスで可愛いと思える。それに俺よりも強いから安心できる。戦ってる最中にいくらか能力は封印されたって言っていたけど、それを踏まえてもミカは強いのだ。
まあ、冒険者ギルドとの関連性は必要だからミカになってもらおうと思う。ポイントがないからミカに働いてもらって、俺は寄生しながらレベル上げとポイント稼ぎだ。
「なあ、ミカは俺のこと守ってくれるのか?」
「当たり前だな。ただ……女の子としてはリュウに守られたいと思うぞ」
街中で聞くことではなかったと思うが、頬を赤らめるのは本当に反則だ。うちのミカ可愛すぎでしょ。
「それならこうしていよう。いつでも危険を察知できるように、ね?」
さっきとは違い指を絡め手を握る。いわゆる恋人繋ぎの状態で街外れの古家に到着した。
よく考えれば街外れでもヤンキーのような存在はいないな。もしかしたら治安はいいのかもしれない。俺たちに向かってきたら、うん、南無三だな。ミカの餌食だ。
「ここか。……ノックしても返事がないな」
扉を開けても誰もいないのでノックしてみた。でも誰も来ないな。古びたボロ屋の見た目からやってないのかという言葉が頭をよぎった。
「おや、珍しいねぇ。高い魔力の子と素質の大きな少年の組み合わせかい。我が家に何のようだい?」
奥から一人の老婆が歩いてくる。
その速度は遅いが油断できないことは理解できていた。ミカを見ただけで高い魔力と、俺を見て神様が底上げした素質を理解していた。つまりは変に敵対すべき人ではないってことだろう。
「えっと、宿に泊まりたいな、と。部屋空いてますかね」
一応、下手に出る。
確かにこの老婆が守る宿なら安全かもしれないな。……いや、客を守ってくれるのか?
「部屋は空いているねぇ。ただ二人部屋だ」
「それでいい! これがお代だ。一週間分で銀貨七枚、食事は朝夕で頼む!」
畳み掛けるように早口でミカが言った。
老婆も驚いていたがすぐに口を隠しくすくすと笑い始める。
「それなら鍵は渡しておくよ。夕飯ならここから奥のカーテンの先だ。いいね?」
ミカが頭を頷かせたのなら良いのだろう。
俺も頭を頷かせて鍵をしまった。
「おや、珍しい魔法だね。まあ詮索はしないよ。ここで体をゆっくり休めなさい」
笑って皺が集まるのは少し恐怖を抱くがいい人なのだろう。いや、いい人だと思おう。それと魔法のことを忘れていたな。俺の死んだ時から持っていたリュックサックでカバーしよう。
「ありがとうございます。冒険者ギルドに用事を済ませてから戻るので食事楽しみにしてますね」
そんな社交辞令のような言葉を並べてからミカの案内の元、冒険者ギルドへと向かった。
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