1章6話 ドワーフ? 何故か好かれました
商人ギルドではミカと手を繋いでいても何も言われなかった。それよりも俺を値踏みするように見てくるだけだ。
特にギルドを出る時にはそれの数が多くなる。原因としてはモルガン、俺と商談をしていた職員という立場に見えているだろうが、その人が俺の出迎えをしたのだ。それなりに考えた結果、商談の話が表立っていたので成功したと思ったのだろう。
普通はギルドのような大きな相手と商談をする人なんていないだろうからな。それだけの胆心を持つと思われるだろう。
目指す場所は冒険者ギルド方面だった。
それも冒険者ギルドのすぐ近く。そこがモルガンにとって良い武器屋らしい。
いくつかの理由は考えられるが、一番は冒険者が武器を買いやすいようにするためだろうな。どちらにせよ、冒険者ギルドに行く用事があったため手間が省けた。
ポイントで武器を買うのも手ではあるだろうがそれだと駄目だ。ポイントで買える武器は魔剣などの高価なものばかりで、俺の持つお金ではまだ足りない。せめて金貨五十枚は必要になってくる。
それに武器屋の店主とも仲良くなればいいことがあるかもしれない。俺は戦闘以外は全て手を出すつもりなので、武器制作もやってみたいからな。
レベルのために戦いはするけど好んで強いてきと戦おうとは思わない。素材が欲しくてならやりそうな気がするけど。
「ミカ、金貨一枚で鉄の剣を買えるのか」
「いきなりだな。……オレが知っている限りでは鉄の上、つまりは鋼の剣くらいまでなら買えると思う。その上の銀、金、ダイヤモンド、ダマスカス鋼、ミスリル、オリハルコンは無理だな。せめて金貨十枚は必要になってくる」
「ポイント売買では闇喰いの銀剣が一番安いんだ。それでも金貨五十枚なんだけど」
「それは……安い方だな。需要と供給によってはもっと高くなるだろうし」
ポイントで買える武器の中に鉄、鋼の魔剣などはない。もしかしたら能力をつけることができないのかもしれないな。逆に何も付与されていない銀の剣などもないのだけれど。
良くも悪くも希少性のある武器しか置かれていないようだ。普通の武器に関しては武器屋で買うしかないということか。
「そっか、ありがとう。頑張って良い武器を買えるようにしようね」
俺の言葉に赤面して頷くミカ。
商人ギルドを出る時だって俺からではなく、ミカから手を繋いできたくらいだ。俺のことを好きなのはすごく分かるな。
だけど、まずは拠点からだ。ここに作るにしても休まる家がなければ何にもできない。それに俺もミカもギルドランクを上げなくてはいけないしな。
ちなみにだが商人ギルドにも冒険者のようなランクがある。F〜SSSで冒険者と同じ定義だ。商人ギルドに利をもたらせばもらたすほどランクが上がる。もちろん、上げることによって流通時の税の免除や入国税、入国審査などをしなくて済む。ギルドは全て国の管轄ではないからな。
今、この世界で王国と帝国の仲が悪いが、その関係がそれ以上悪化しない理由がギルドだ。攻めればギルドから見放され国や民が困ることは明白だから。
よってギルドは、一つのギルド自体が一国として扱われている。ここら辺はアフロディーテの常識に含まれていた。
そして今回の商談で俺は入り立てながらにして商人ギルドランクがCになった。これはハジメの街のギルドにとても貢献したかららしい。特例だ、とモルガンが笑っていた。
念願のジョブ、商人も付けているため契約を使うことができるようになった。レベルを上げればセカンドジョブなども開けられるから、魔物使いなども獲得しておきたいものだ。
「……ペット欲しいな」
「犬とかいいな。リュウは犬派? 猫派?」
「猫派だけど、子犬はもふもふしたいから好きだ。……中型犬とか魔物でいないかな」
そんなたわいもない会話をして武器屋に到着するまでの時間を潰す。ちなみにケルベロスの変身版が子犬くらいの大きさらしいので従魔にするのを決めた。
武器屋はとても古びていた。感想がそれくらいしか出ないほどに古びている。よく人の住んでいるのかいないのかわからない、植物のツタが壁を這っている家があるのだが、それと大して変わらない見た目だ。
扉も立て付けが悪く開こうとするとなにかに引っかかったかのように動かない。無理やり引っ張ることもできずに悩んでいると、
「こうすればいいんだ」
とミカが思いっきり扉を押していた。
運良く壊れはしなかったが大きな音がなり少しだけ周囲をキョロキョロと見渡した。誰も驚かない所を見ると良くあることみたいだ。
中には誰もおらず武器が所狭しと並んだり重なっているだけ。RPGゲームの店内のイメージそのままで心が弾む。
上に置かれているのはダマスカス鋼の大剣だった。だが値段は大金貨七十枚と高すぎる。もう少しでミスリル貨が必要になってくる程だ。となるとそれより上位のミスリル、オリハルコンの武器はミスリル貨でしか買えないのか。
「おい、マスター出てこい!」
「ちょっ、ミカ」
いきなり怒号に近い声を上げたミカに驚き振り向いてしまう。その声に反応してか、奥から「うるせえな」と野太い声が聞こえてきた。
「んだよ、客か。何の用だ」
小さな男。身長は俺の胸辺りだから百四十ちょっとか。顎には髭を多くこしらえているため成人であることは理解できる。ましてや目が座っており死線を何度も乗り越えているのかもしれない。となれば、
「んだ? 坊主、ドワーフが珍しいのか?」
「いえ、冒険者としても能力が高そうだな、と。確かにドワーフも初めて見ましたが」
ドワーフの男がため息を吐く。
「そんな堅苦しい言い方はいらねえ。俺の名前はリーク。一時期、冒険者をやっていたがよくわかったな」
「目を見ればわかりますよ。……いや、わかる」
敬語を使った瞬間に睨まれる。そんなに変な言い方や使い方だったのか。
「目、でか。今の冒険者ギルドの有象無象よりは一段といい目をしているぞ」
目に対してまだ返してくるんですか、そんなツッコミを心の中で留めておく。よく考えてみれば俺の魔眼をいくらか理解しているのかもしれないしな。それに鑑定で確認もしたから目で判断したことも間違っていない。
リークに「ありがとう」と言ってからミカの方を向く。ミカは少し悩みながらも必要な武器を提示していた。
ミカと話をして槍と片手剣を買うことを決めている。実際は杖が欲しいのだが使える魔法も空間だけなので意味がないだろう。そのうち覚えるか、ポイントで買って増やすしかない。
「だったら、ちょっと待ってな」
ミカの話を聞き終わってから俺の話を聞かないままでリークは奥に下がっていった。すぐに戻ってきたリークの手には数十本の剣と槍を抱えており、目が笑っていることから目利きをしろということなのだと理解する。
テーブルに置かれた瞬間にミカの隣へと移動して一つずつ手に取っていった。まずは置かれているのが槍と片手剣だけだ。これは俺のニーズを話さずに理解したのかもしれないが、
「俺の腰の剣を見て持ってきたな」
「当たりだ。それに鞘が少し壊れている所を見れば長く使っていることがわかるしな」
実際は昨日の戦いで無理に使ったからなんだが、まあ分かるわけがないよな。
数えてみたが槍が五つと剣が七つだ。
両方共に金ピカの武器があるので金かと錯覚するが全然違う。ただのメッキだ。すぐに除外して端に置いた。
一番良い武器二つを残したが両方合わせれば大金貨一枚は軽くかかる値段だ。先に出せる金額の提示をしていなかったことを後悔した。
「……よく分かったな。少し錆びさせたように見せるために鋼を合金にしたのだが」
「銀特有の魔力の流れなすさがあったので。それに鋼もそれを阻害しませんでしたし」
嘘だが本当だ。今流してはいないが銀は魔力を流しやすい。それにここまで職人のような行動をとる人が鋼によって銀の良さを消すミスをするだろうか。そんな期待も込めて減らず口を叩いてみたが成功のようだな。
「いいじゃねえか。その二つの武器譲ってやるよ。……無料でいい、その代わりは今後とも俺を楽しませてくれよ」
「いいよ。どちらにせよ、ここよりも良い武器屋は少ないだろうからな」
リークを上げておく。ミカが触れて何も言わないということはそれなりに腕が立つのだろう。鉄の剣の時は文句を言っていたし。それにステータスの高いモルガンからの推薦だ。この街一番と考えてもおかしくないだろうな。
「んだ? 客がいたのか。おいマスター。剣くれよ」
「あ? ……駄目だな、お前に譲れる剣はねえ。帰れ!」
俺が武器を手に取ってすぐに男二人が武器屋に入ってきた。だがリークが値踏みをしてバッサリと切ってしまったが。
「早く帰れ。三度目はねえぞ」
渋々といった感じで男二人が外へ出ていくがリークは興味もなさそうに椅子に腰を下ろした。
「何が駄目だったんだ?」
「あいつらは金しかねえボンボンだな。そんなすぐ死にそうな野郎に武器は渡せねえ」
詳しくは教えてくれなかったがそういうことらしい。よく分からなかったが職人というものはそういうのを嫌うのか。嫌われずによかった。
リークに「そうか」と返して金貨を一枚テーブルに置いた。リークの驚いた顔を見て心の中で笑ってしまう。
「無料でいいと言ったはずだが?」
「話を聞いてくれた礼だ。貰えるものは貰っておいてくれ。それじゃあミカ、ギルドに行こうか」
リークがうるさく言う前に外へ出る。
ミカには「ツンデレ」と言われたがどこにその要素があったのか、と悩んでしまった。すぐ目の前の冒険者ギルドに入り受付に並んだ。
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