第4話 欲しいのは人材ではなく駒。或いは馬車馬
その男は進藤と言った。
役職は「社長」とのことだ。
進藤は持ってきた履歴書をさらりと眺めると、特にそれについて質問はなさそうだった。
当たり前か。別にそこには特に聞きたくなるようなことも書いてない。
学歴欄は高校まで
視覚欄は自動車免許すらない
自己PR欄は「剣道を三年間やっていました。そこで培った忍耐力や精神力が長所です」
そんな適当な事を書いた。
剣道の話は持っている。
せいぜい半年程しかやっていなかった。
小学生の時に好きだった女子が剣道部に入ったから、同じ空間にいたかっただけの為に入った。
そんな動機は何の役にもたたない。
その女子は部長を好きになった。
小学校の時はスポーツが出来るクラスの中心みたいな男を好きになった。
そんなもんだ。俺の事など眼中にはない。
けれど棒きれがあれば、そこら辺の不良を叩きのめす位の技術は身についた。剣道三倍段とはよく言った物だ。
まあ嘘というのは多少の事実を混ぜるとリアリティは増す。
進藤は履歴書を持ち、部屋の奥に行った。
そして別の男を引き連れて戻ってきた。
その男が目の前に座る。進藤はその傍に直立不動。
男がタバコを咥えれば即座にライターに火をつける。
男はその火でタバコを吸う。
煙をふうと吹き出すと、口を開く
「その昔、ここには道玄という山賊がいたのを知ってるか?」
俺は知りませんとだけこたえる。
「道玄はな、そこを通るたび他人の身包みを剥ぐんだ。金は勿論巻き上げる」
この人は何を言ってるんだろうと思いながらも適当に相槌を入れると「てめえ、ちゃんと聞いてるのか!」と進藤が怒鳴ってくる
そうすると男は振動に向かい灰皿を投げる。脛にあたる。苦痛に顔を歪める進藤。けれど直立不動は崩さない
「俺が岡田と喋ってんだ。余計な茶々挟むな馬鹿野郎」
そこまで怒られる事はしてないだろと思った。
この人は怒りの沸点が低いのか。
後々わかることだが、今は伏せておこう
「俺たちはね。道玄なんだ。ここに迷い込んだ奴らからは容赦なく巻き上げる。そして次にまた迷い込んできたら、また巻き上げる。わかるかな」
「そんな商売をしている。明日朝10時ここにきなさい」
そう言い残し、男は立ち去る。入ってきたドアから出ていくと進藤はその方向へと向き
「オス!お疲れ様でした」と声をかける
今の人はね、ここの店のオーナーだよ。顔は覚えておいてね。
そうなのか。この人がオーナーか。確かにどこか迫力があった。背丈は進藤よりも低い。20センチくらい低かった。なのに、それほど小さくも見えなかった
「じゃあ、明日朝10時にここにきてね。とりあえず職場見学していこうか?」
そう言われて、事務所を後にする。外に出るとすぐ脇に二階にあがる階段があった。
進藤の後をついていく。
下に降る階段もあった。踊り場の壁にはファッションヘルス未来旅行と書かれていた。
階段を登るとドアがあった。「喫茶ラッキープラザ」これが店名か。確かに喫茶店だ
しかし違和感がある。店名の下に十円玉のイラストが描かれていた。
ドアをあけると、からんからんとベルの音が鳴る。
その音が鳴ると同時に
「いらっしゃいませ!」と怒号にもにた挨拶が聞こえて若いボーイがかけよってくる。
ここまで連れてきた男だった。
「社長、お疲れ様です!」そう言って一礼するとホールに戻った
「ここが、岡田くんの働く店だよ」
店内を眺める
壁には大きなトランプが飾られている。何枚か数字が隠れていた。
そしてポラロイド写真がベタベタと貼られている。
ホールにはテーブルはあるにはあったが、正しく言えばテーブルゲームだ
ぴろっぴろっぴろっ てーれれー
こんな機械音がけたたましく店内に響く。
テーブルゲームの画面にはポーカーゲームが映し出されていた。
「入れてー」客が一万円を片手にヒラヒラとさせて何かを要求すれば
「ただいま!」の掛け声と共にボーイが走り、その宅に向かう。片膝をついての接客。
「何本入れますか?」「5本」「かしこまりました」テーブル横に鍵をさし、5回回す。
「12卓さん、5本。1から5バック!」「1から5バック!」ボーイは10000円札を受け取りカウンターへ。10000円札を渡し釣りの5000円札を受け取ると12卓の客に戻す
世間知らずの俺でもわかる。これは
賭博場だ
進藤が口を開く
「明日朝10時遅れないようにね。無いだろうけど来なかった時は…」進藤は俺の耳元で囁くように
「追い込むから」静かに呟いた。
それはどう聞いても脅しの言葉だ
俺は心無く「はい…」と答えるしかできなかった
ROSERS HIGH アヲイ @aoi666
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