第2話 カフェ。日給12000円

その男の生活は、決してうまく行ってるとは言えなかった


何をしても長続きしない。


それには理由があった。


その男には逃げ癖があった。


この癖はもう、治らない。


例えば盗み癖がある人はいつまでも手癖が治らない


悪癖であればあるほど、それを治すのは困難だと思う。


ギャンブル依存性もそれに似ているとも思う。


逃げ癖。それを話すには小学校の頃まで遡らなければならない。


また機会があれば触れるとして


その男の家は決して裕福とは言えない。


母子家庭で、心臓に病を抱えた弟もいた。


遊んでいる人間を食わせるほどの生活の余裕は無かった。


それ位の空気は読むことができた。


なので、仕事を探さなければいけないことも解っていた。


しかし、その男は学が無い。


潰しが効かなかった。


媚びへつらえばなんとかなる接客業が良いのかなどという舐めた思考があった。


ポケットの中に手をつっこみ、中にある小銭を握る。


五百円玉が2枚と数枚の百円玉。


無けなしの金。百円玉を1枚取り暇つぶしの為にとあるスポーツ新聞の夕刊紙を購入した


その新聞はプロレスとアダルト記事が充実していた


まだ女のことなんて知らなく、そのアダルト記事を読むとときめいていた


異性と付き合うってどんなだろう?


SEXってどんなだろう?


そんな妄想ばかりしていた。


そしてその時にとある物が目に入った


求人欄だ。


その求人は様々な項目に分かれていた


若い男


男女


一般


なんだろう。このカテゴライズは


太った人、モデル募集


接客


女の人と話して高収入


寮、食事付き


今ならば怪しいと思うこの単語の羅列。


だが、世間知らずのその男には


その言葉一つ一つが刺激的だった。


そして、その求人の大半にはこの項目が共通していた


高給・日払い可


その男は今日の生活にも困窮していた


自分の生活はもとより、家にも金をいれなければいけない


追い込まれていたのだ。


ただ、世間知らずで知恵のないその男も解る事があった


ここに書かれていることは余すことなく怪しいということ。ただ、追い込まれていると


人間は冷静な判断が出来なくなる。


男は求人欄を熟読しはじめた。もう通常の仕事を探すという思考は無くなり


この高給の中から選ぶという間違った選択を始めていた。


そして、その男はこんな一文を目にする


カフェ店員募集。日給12000円日払い可。寮あり。


喫茶店なら大丈夫だろう。そんな安易な考えを持ってしまった。近くの公衆電話に駆け込むと、十円玉を数枚投入し


書かれていた電話番号に電話をした。


「岡田と申します。スポーツ紙の求人を見て連絡しています。まだ受付はしていますか?」


その男の名は岡田和樹と言った。


この物語の主人公であり、逃げ癖が治らない負け犬だ。


この1本の電話から、この物語は始まる

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