第5幕 命を賭して
27 命を賭して① 異生物掃討戦
「天然適合者と高質適合細胞の組み合わせは前例がない。彼女は貴重な人間として我々も存続を望む」
そういってローズ博士とエヴァは持ち込んでいたトランクを開きだした。
「これは?」
「リガントレスの体組織で作ったアーマードジャケット。開発に成功したその試作品だ」
「あの異生物の個体性能、『ダメージ減衰』の移植が実現したんだよ」
銃弾や変性術に耐えた異能並みの性能だったヤツだ。
「防弾チョッキみたいなものか?」
「物理的な防御ではなく異界の減衰法則にを過剰に起こして攻撃を無効化するものだ。身体強化と合わせれば比べる物がない程の防御力となる」
なるほど、わからん。
だが、博士のお墨付きならば100人力だ。
あのリガントレスには退魔のプロ、雅家が死闘の末に倒せたくらいだ。
早々破られる事のない防御なのだろう。
若干、獣臭い所はあるがメリットの方が完全に上だ。
他にも軍用に特化したアーミーナイフと、如月が持つ対異生物銃弾と同様の弾を込めたT-SERA製のハンドガンを受け取った。
警察装備からイチ企業の私軍兵の装備に一新したのであった。
「人間相手なら敵なしだな」
俺は自分を鼓舞するように口にする。
殺傷力が高すぎて通常の人間を相手にするには気が引けるかもしれない。
用意してくれていた特性警棒も装備のひとつとして腰に装着しておいた。
準備を終え、俺は結奈さんと花凛ちゃんの様子を見る。
「悠希くん・・・・」
花凛ちゃんは既に目を覚ます事なく昏睡している。
結奈さんはその手を握りしめ、必死に祈り、願っていた。
「また、みんなでご飯を食べましょう」
俺はその願いを実現するために家を出て、虚層塔方面へと向かった。
-------------------------------------
博士が乗ってきた車を使い、エヴァと二人でギアーズが屋外実験をしている場所へ向かう。
車内では突撃に向けた手順を確認しあった。
「T-SERAの隊が先行してDIACにアタックをかける。君が合流する時の戦況がどうなるかわからないが、担当としてテレキネイサーを狙ってくれるかな? 」
やはりソイツもいたか。ロシア企業が雇った日本人異能者。
部隊が新宿なら当然派遣しているだろう。
「実弾を跳ね返す斥力使いだったな、わかった」
「世界の異粒子適合者の中でも彼はトップクラスの使い手に上りつめている、苦戦は覚悟しておいて」
「今度はこちらからの奇襲だ。虚を突かれていない以上、同等の立場で挑んでやるよ」
簡単なブリーフィングをしながら俺はスマホに表示させている古ヶ崎の電話番号を見つめ、そして閉じた。
協力を仰ごうとしたが電話には出ない。
もしかしたら向こうでも何かの事件が起きているかもしれない。
そして彼女達を俺の私闘のために海外の軍と闘わせるには少しだけ気が引ける想いもあった。
すると車が突然止まった。
「異生物がいるね。結構、大量にいるけど、どうする?」
そこには大小30体が道路を塞ぐように闊歩していた。
「全員倒す。後ろにある観咲家に近づく可能性があるならば掃討してやる」
「がんばって~」
俺は車を降りて異生物の大群を見渡した。
ほぼ三級の群集に2割が二級だ。
俺は受け取った武器を手にした。
そして異粒子エネルギーを変成術の要領でジャケットに流し込んてみる。
するとリガントレススーツは呼応するように減衰空間を展開する。
拳で自分の胸を叩いてみても、その衝撃はかなり消されているのがわかる。
異世界の特殊物理法則が、異生物の体組織を通じていま俺の体の周りに発生したのだ。
俺はこの群衆に対して確実な勝率を確信する、そして切り込んでいった。
「身体強化・・・展開!」
すぐさま手前の異生物に迫り、一体目の四足獣の首元に斬撃を加えた。
階級が低い異生物ほど実体度が高く、生物的構造が地球のものと近い。
だから首元には頸動脈に準じた急所があり僅かな攻撃で致死させる事が出来る。
次の一体も同様に最小限の動きで急所を裂く。
次の一体も斬る。
続け様に刺す。
距離のある異生物を左手に持つハンドガンで撃ち抜く。
加速感覚を瞬時に展開し、命中精度を上げて周辺の異生物に弾丸を埋め込む。
これまで防御側に異粒子エネルギーを半分近く回していたが、このジャケットのおかげで1割程度に収まっている。
身体強化にバジェットを回せる事で戦略が一気に広がった。
リガントレススーツの真価はその防御力ではなく、攻撃主体のスタンスに切り替えられる戦略性の広がりなのかもしれない。
奥方向から別の群れが合流してきた。
異生物は群衆同士で敵対することなく共同戦線で俺に牙を向ける。
おそらく俺の持つ適合細胞の純度に惹かれているのだろう。
鼻の利くヤツらだ。
数は最初の頃よりも倍以上に増えている。
異粒子エネルギーの残量に気をつけるべきか。
いや、その心配はない。
虚層塔に近づくほど異粒子濃度は高まっていて、消費するごとに補充されていく。
ガス欠する事はなさそうだ。
では細胞の摩耗はどうか。
これも心配はない。
異生物を倒す度に
命のサイクルが俺を中心にこの場を輪転しているようだ。
生命が渦を巻いて循環する終点に俺がいて、この場を支配している形。
そこへ上空から急下降する黒い影が見えた。
俺は咄嗟に身を翻してかわした。
その姿は見覚えのある異生物、黒豹であった。
こちらを獲物としてターゲッテングしている。
どうやらあちらもこの大転移において多くの他者細胞を吸収して戦闘力を上げているようだ。
放つ光子の量が先ほどと違い増えている。
乱戦に持ち込んでいた周りの異生物も、黒豹の登場で一端の距離を取り始めた。
黒豹は今度は見逃さないといった表情で俺を見ている。
煮え湯を飲まされたのはこちらだ。俺がオマエを獲物にしてやるよ!
「身体強化ザ・ブースト!」
俺は黒豹に向かって飛んだ。
前回と同様の空中戦に持ち込んだ。
相手の土俵に入った事に黒豹はなんの疑いもなく、自分の勝ちパターンと思い込み俺と同じように飛び込んできた。
知能が高いとはいえ所詮野獣だ。
前回と同様、黒豹は異能、「空中跳躍」を使い、俺の予想を外れる軌道を取って俺に牙を立てた。
かかった。
行動パターンを読む事が出来るならばどんなに想定外の動きをされようが術中にはめる事が出来る。
その牙が、俺の胴体に向かわせるように俺は手を上に挙げて喉元と顔面を覆った。
狙い通りに俺の腹へと黒豹は喰いかかってくる。
しかしリガントレススーツはその牙を通す事はなく、さらに空中跳躍による黒豹の衝突も緩和させた。
ドカっと頭を反らしながら跳ね返る黒豹に、俺は首もとを掴んで共に下降する。
地面へと着地する前に首元へナイフを突き立てた。
着地の衝撃でさらに深くナイフが刺さる。
・・・・・・。
黒豹は呼吸を喉元から漏らし、すぐに酸欠状態になり意識を朦朧とさせていた。
大量出血も相まって10数秒後に気体化を始める。
俺はその気体に身を寄せ、細胞を吸収していった。
まわりの異生物も、ひと目置いていた黒豹の気体化現象におののいている。
黒豹は二級異生物であるが、異能持ちのアドバンテージにより多くの下級異生物を吸収していたのだろう。
得られるマドプラズムは一級並みの質に感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます