28 命を賭して② DIAC再戦

 異生物のほとんどを討伐したところで残りの数匹はこの場から去った。


 2級と3級の大群、約40体も一斉に討伐出来たことで俺のマギオソーム細胞は大きく飛躍した。


 しかも俺はダメージをほとんど受けていない。

 このリガントレススーツひとつで戦略性が大きく広がり、とてつもないレベルアップが実現出来たのだ。



 前回、エレメンタルアーツが強奪された時のシミュレーションをしても、今回の争奪戦での勝率は十分にあり得る。


 Dominant Innovation Assult Corps.

 ギアーズ重工の傭兵組織、通称D・I・A・Cディアック


 おそらく適合者の奴らもいるだろう。

 今回はこちらの奇襲だ。

 私兵組織もいることで戦略的な選択肢もとれる。




 俺は後ろで乗車しているエヴァに合図を送り、ここからは疾走して現場に向かう事にした。

 敵陣に入ったとき車のエンジン音で気づかれてしまわないように、そして奇襲を行うために。


 場所は新宿の西側のオフィス街、虚層塔のすぐ傍。


 目標地点に近づいていく程に終末大転移ブラックウィークエンドの惨状が広がっていた。


 異生物に襲われた都民の遺体が道ばたに点在していたのだ。


 ほとんどが一撃で死に至った者達。

 異生物からの死体に対する接触は一部しかないようだ。


 やはり異生物が人間を襲撃する目的はマドプラズムの吸収であり、決して地球生物の血肉という事ではない。

 これは生存本能による捕食行動なのだろうが、人類からはその栄養を得られないという事を異生物自身が学んで行けば今後被害は減るのではないだろうか。


 別次元の体組織を取り込むなんて自然界にそうそう準備されているものではないのだ。

 マギ不足に陥った異生物の生態をもし研究する事が出来れば人類を存続させる手立てが見つかるかもしれない。




 ・・・・だがその展望はすぐに打ち砕かれた。

 都庁へ続く、長くまっすぐに伸びた道路の先で、一人の少年が異生物に襲われていたのだ。


 白スーツに同行していた未適合者の少年だ。

 こんな所まで来ていたのか。


 すでに致命傷を受け、事切れている様子だった。

 そしてその死体からはマギプラズムが発せられていた。

 彼も適合者となったのか?・・・もしくは不適合者だったのかもしれない。


 だがどちらにしろこんな害獣に囲まれた場所でたとえ細胞の適合が出来たとしても、多少の身体強化程度では地理的危険度の方が圧倒的に上回り死に直面する確立が高いのは当然だ。


 あの組織は踏み込み過ぎだ。

 目的がいまいちわからないが自分達の生存手段を模索するには効率が悪い事をしている。



 異性物達は少年からのマドプラズムを僅かながらにも得られた事で、地球人類からも餌が得られるという確信を持ってしまった。

 一度得た経験はたやすく消えるものではない。

 大多数の人間からマギソオーム細胞が得られなくとも、一部の適合者のために大勢を蹂躙していくだろう。


 俺はその経験を消し去るべく、そこに悠々と居座っていた二匹の中型異性物にベアリングボールを投げつけた。


 重い金属球の打撃により行動不能にしたあとすかさず近接、アーミーナイフで心臓部に向けてとどめをさした。


 優先順位が加わった。

 一度でも人間からマギオソームを得た異性物は本能に刻まれ、人類の天敵となる。

 あの宗教団体がむやみに適合者を増やすのであれば止めなければならない。

 人間が餌となりうる状況を止めなければならない。


 観咲家が生き続けるためには人類全体の存続を考える必要がある。




 すると側面からパチパチと拍手する音が聞こえた。

 振り向くとそこに白スーツの男がいた。


「素晴らしい、君はとてつもなく高密な細胞を持っているのだね。先ほどとは見違えたようだ」


 さっき出会った宗教団体の人間だ。

 まさに目的としていた相手だ。

 あの子供の様子を見に来たのか。



「おいアンタ、ハクガって呼ばれてたか?また子供を死なせたな」


伯賀 京はくが きょうだ。その子もまた新世界に選ばれなかった人間ということだよ」


「適合細胞を取得させるのにこの場所がまずかっただけだろ。メシュア様の予言なんて言ってたが、子供ひとりの命の安全も見極められない程度の教主様ならたかが知れてるな」


 俺は全力で挑発してやった。

 この男は何か大きな自信を持っている。

 おそらく所属組織の絶対的な信仰心からなのだろうが、後日そこの核心に辿りつくためにギリギリの綱渡りをしようと思った。


「察しの良い人間は好きだが、我らの経典を侮る者は許しはしないぞ」


 すると後ろから男女が加わってきた。その現れた二人を見て俺は驚いた。

 まさか・・・コイツらとも繋がってたのか。


「・・・見た顔だなお前」

「確かT-SERA襲撃の時に居まシタ」


 ギアーズ重工の私兵!

 適合者、テレキネイサーの二人だ。

 やはりこいつらもここに来ていたか。


「ああ・・・そうだ、俺にケガを負わせたヤツか!」

「ほおアナタにケガを?大した青年なんですね彼」


 俺の事を思い出したようで顔に怒りの表情を浮かべる。


「キサマを探したぞ。今度は逃がさん」

「後ろに集っていたT-SERA部隊の方はもういいんですか?」

「すでに殲滅しまシタ」


 なっ・・・?

 オイ、まさかこいつらうちの部隊を全滅させたのか?


 早すぎるぞエヴァ。

 俺が到着するタイミングと合わせろよ。


 もし本当ならプランを大きく変更しなければならない。

 俺はひとりで兵団とやりあえる戦術を持ち合わせていないんだ。

 くそ、奇襲から隠密作戦へ移行しなければ。

 そのためには、こいつらを・・・ここで!


「殲滅したのならもう撤収ですよね。私もノルマは達成しましたし」

「好きにしろ、俺はあのガキに落とし前をつける」


「ふふ、テレキネイサーに目をつけられるとは、お気の毒に」


 そう言って白スーツの伯賀はこっちに向かって別れの言葉を口にした。

「残念ながらもうあなたと会える事はなさそうですね。さようなら、これも縁だ。冥界で君にメシュア様の加護があるようにお祈りするよ」


 手を胸と額につける挙動をしてその場をまたしても朧気に立ち去っていった。


 三人相手が二人になったのは幸いだ。

 正直白スーツの異能が未解明なので厄介な人間だったのだ。


「おまえ、ホッとしたな?」


 目の前に残った二人のうち男の方が俺に話しかけてきた。


「まるで二人相手ならどうにかなるって考えか?」


 その男の纏っていた空気が変わり始めた。

 なんだ?力の存在感が圧倒的なもこになってきている。


「身の程知らずのガキが!」


 ヤバい!早速くるか。

 俺はギガントレスアーマーを機能させ腕で頭部を覆う姿勢を取った。


 男から発せられた衝撃波は、以前くらったものとは違う威力だった。

 比較すれば2倍以上の差がある。


 俺はなんとか耐えた所で膝を地面に落とした。


「今のを耐えるとは・・・!」


 白がかっていたアーマーが少し黒ずんでいた。

 スーツの許容量を超えた衝撃だったのか?

 もう何度か食らったら保たないかもしれない。


 決着を早めにつけたいところではあるが、あの異常な威力向上の要因がわからなければ下手を打ってしまう。


 テレキネイサーの男はさらに前に出てこちらに近寄ってきた。

 近づく事で威力が上がるのか?

 いや、もっと副次的な要因があるはずだ。


 俺は一挙手すべてを観察するようにした。

 この衝撃波は全方向へ球状に放つ事が出来るものだ。


 同じ技をなぜか俺も放てた事があった事からこの異能の特性は判明している。


 あえて放射状に狭める事が意識的に操作出来る。

 狭める理由は仲間がいる時に巻き込まないため、ここでは女性のテレキネイサーの存在がそうさせているのだろう。


 威力を抑えてでも仲間を隣に置き続けるには理由があるはずだ。

 あの女性に突破口がある。


 そこで二発目の衝撃波が放たれた。


 くっ!

 俺は少しでも威力を減衰しようと後ろへ飛び、ギガントレスアーマーで身を守る。


 ・・・クソ、さらに威力が上がってやがる。

 道路のコンクリートは根こそぎ跳ね上がり、置き捨てられていた車も裏返りながら宙を飛んでいた。


 なんて威力だ!

 後ろを振り返るとはるか後方まで街灯の電球が割れて灯りを消していた。

 この距離に対して自由な範囲への圧倒的な守りと攻撃の両立、なんてフザけた技だよ。

 イチ軍隊を兵器ごと殲滅できるレベルである事が納得できた。


「また耐えたのか?どうやらおまえの装備に仕掛けがあるようだな」


 やばい、アーマーの黒ずみがさらに増してきてしまった。

 向こうにはまだ余力が残っているのにこちらが追い詰められてしまった。


 遠距離からのベアリングボールでは相殺されて致命には至らない、近づいたとしても近距離の大衝撃にギガントレスアーマーが耐えられるかわからない。


 あの女性のいる角度にまで回り込もうにもすぐに前に出られれば意味がなくなる。


 打つ手がない・・・・!



 だが、三発目が発せられかけた所で、思わぬ奇襲が入ってきた。


 銃弾がテレキネイサーに向かって後方から撃ち出されたのだ。

 テレキネイサーはすかさず防御壁となる斥力を展開し銃弾を弾く。

 そして射手である一人の男が距離を一気に縮めた。


 あの人は見覚えがある・・・T-SERAの調査隊員、斎藤譲治だ。


 研究所の襲撃でやられていたが生きていたようだ。


 俺が注意をひきつけていた事で後方に隙が生まれ、そこを攻めた形だ。


「襲撃時には世話になったな。そのお返しをさせてもらうぞ!!」

 銃弾が撃たれる度に衝撃波によって跳ね返されていくが、そのどれも範囲が狭く次第に威力が弱いくなっていった。


 これは・・・もしかして威力を出すのに溜めが必要なのか?

 それとも連射特性で弱まっていくのか?



 すると譲治が持っていたハンドガンが突然、宙へと引き寄せられた。

 銃は吸い込まれるようにもう一人のテレキネイサーの女性の手へと収まる。


 研究室からエレメンタルアーツを強奪した時と同じ現象、引力の念動力者の力だ。



 譲治は同時に懐からピンを外した手榴弾を女の方へと投げた。

 手榴弾が宙に舞っている間、すかさずもう一丁のハンドガンを取り出して男側のテレキネイサーを撃ちながらさらに距離を詰める。


 女に引力を使わせないためのテクニックだ。

 ハンドガンをさらに奪おうとすれば手榴弾までが一緒に、女の手元に集まるようになる。

 あの一瞬で臨機応変の対処に転じた、異能持ちとの歴戦の成せる発想だ。


 自分の間合いにまで詰め寄った譲治はそこで身体強化をMAXにした掌底打ちを放った。銃弾のような点の攻撃ではなく、両の掌を使う「面」の攻撃だ。

 タイミングも衝撃波を放った直後の硬直状態を狙っている。

 すべてにおいて完全な奇襲に思われた。


 だが斉藤譲治の攻撃が当たった瞬間、その体は後方へと飛ばされてしまった。


 女側の念動力だ。人体程度なら軽く持ち上げられるのだろう。

 手榴弾ははるか後方に飛ばされて爆破を済ませていた。



 奇襲は成功に至らなかった。


「斉藤さん!」

 吹き飛ばされた斉藤譲治の所に駆け寄り無事を確認する。


「チっ。仕返ししてやろうと思ったがやはり一筋縄ではいかないようだな」

「あの時の襲撃で撃たれてましたけど生きていたんですね」


「あの程度のケガならこれまでいくつもの作戦で受けてきた。異粒子の治癒力のおかげだがこの場所に着いたらさらに傷の治りも早まった。あいつもすぐに回復するだろうな」


 テレキネイサーの男は完全でないまでも斎藤譲司の強化掌底によってダメージを受けていた。

 回復までにこちらは作戦を立てられる。


「斉藤さんのおかげで突破口が見えました」

「そうか、さすがだな。どうすればいい?」


「あの衝撃波の威力向上はこの付近の異粒子濃度の影響でしょう。ですが凶悪なまでに向上したあの威力にはそれ以上の要因があります。おそらく引力特性の念動力者が周辺大気からさらに異粒子を呼び寄せています」

「倍かけにさらに上乗せされていたわけか。あの連射もそういう事で実現できていたという事だな」

「手榴弾と斉藤さんを別で動かせていました。任意の物体を選んで引き寄せる事が出来る能力です」

「サポート能力としては万能だな」


「はい、ですが女性の立っている方向から攻めればその角度への衝撃波の攻撃は出来ない筈です。俺と斉藤さんの二人で分散すれば一方が距離を詰められます」

「なるほど」


「俺のスーツはまだ一撃くらいなら耐えられる筈です。俺が正面を突っ切るので斉藤さんは回り込みを・・・・」


「お前が回り込め。アイツの1撃目は俺が引き受ける」

「アレは生身では受けきれないものですよ」


「仲間部隊が全員あいつらにやられた。個人的な仕返しであったがこれは弔い戦にもなった。アイツは正面からぶっ殺してやる。オマエは確実にあいつを仕留められる役を買ってくれればいい」


 面倒くさいくらいに熱い人だが、判断はとても冷静でいる。

 1撃目はどちらにしろ玉砕担当になってしまうわけだが、もう一方への2撃目3撃目がもしくる状況になったらそれを連続で耐えられる人間が担当した方が確実なのだ。

 連射により威力は弱まっているからスーツを持つ俺の方が確実にテレキネイサーの懐にまで至れる。


 作戦は決まった。俺と斉藤さんは立ち上がる。



「懐に衝撃波は発生しなかった。その間合いがヤツのウィークポイントだ」





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