第3幕 求め継ぎし者たち
11 求める者たち① エヴァンジェリスト~なぜそこまで知ってる?
なぜ俺を置いて母は去ったのだろうか。
幼い俺は面影を追うといつも同じ場所にたどり着く。
深い蒼色の空と赤い雲に覆われた空。
吸い込まれそうなほど広い草原。
怖くもあり、でも美しい大地。
この風景はどこなのだろう。
幼い俺の手を隣で繋いでくれるこの人は誰なのだろう・・・・
またこの夢だ・・・・
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目が覚めた。
知らない部屋だ。
見慣れない場所で起きるのは何回目であっても心地悪いものだな。
『お嬢様、客人がお目覚めになられました』
襖のむこうでのやりとりが聞こえる。でもまだ頭が働かない。
『そう、ありがとう。ここはもういいわ。
あとは私が・・・』
開けて入ってきたのは凛とした佇まいをした女性だった。
「気分はどう?」
「誰だ?・・・頭がぼーっとする。ここはどこだ?」
「私の家よ。大丈夫、ここなら安全だから」
だんだんと目が冴えてきた。
「・・・古雅崎・・・・なんでおまえが?」
着物を来た
制服姿とは全く違う雰囲気で気づかなかった。
「寝ぼけてるわね。丸2日間寝てたのよ、あなた」
そうだ、確か古雅崎と待ち合わせしてそのまま・・・・って2日間?
「橋の上で会ったとき驚いたわ。
あなた気を失いながら歩いていたのよ?
倒れたときには全身が痙攣していたし。
外傷はないけどだいぶ無茶をしたのね。
でも目が覚めて良かったわ」
「そうか・・・迷惑をかけたな・・・・
そういえば、ニュースでビル襲撃の報道はあったか?」
「いいえ、ないわ」
・・・・もみ消されたか。
俺は説明のためにどこまで話せばいいんだろうか・・・。
国家機密に関わる情報が含まれている。
ヘタに伝えて古雅崎を巻き込んでしまうわけにはいかない。
いや、早々にここから立ち去らなければ俺を追ってこの家が襲撃される事だってあり得る。
あの部隊と異能者どもがきたら・・・・くそ!
起き上がろうとするがまだ頭がフラつく。
能力を使いきったあとはいつもこうだ。
「無理をしないで。
大丈夫、事情は把握してるわ」
「なにを把握しているって言うんだ・・・。
あいつらは人を殺すことを全く躊躇しなかった連中なんだぞ!」
「
理工学研究所の襲撃、 異能持ちの二人も・・・」
!??
「そして・・・エレメンタルアーツ」
「おい、なぜ・・・そこまで知ってる?」
・・・コイツら・・・まさか、あの襲撃の加担者か?
あの襲撃で逃がした俺をここで・・・!
「落ち着いて・・・。
私たちは情報網を持っているの。
メディアに頼らない手段よ。
こんな情勢でもそれは衰えていないわ」
「・・・・その情報は・・・国家機密だとわかっているのか?その知識は命を脅かすんだぞ!?」
「ええ、この情報のほとんどはエバンジェリスト本人からも得たものなの。私たちは危険を承知でそれを知る事を決めたの」
「・・・エバンジェリストが?」
まだ頭が働ききらない。
古雅崎がエレメンタルアーツを求める?
一体なぜ・・・・それに
「気を落ち着かせて聞いてね・・」
「・・・なんだ?」
「エヴァは死んでないわ」
・・・・・・・。
・・・・なんだと?
「・・・俺はあいつの死体を見ている。
全身を無惨に撃たれていた。
蘇生なんて無理だ、それはありえない」
「いいえ。事実、彼はあれから事態の掌握に動いているの。異能者の詳細、部隊の雇い主、奪取の目的」
死んでいたあいつが、そんなことできるわけないだろう・・・
「何て言えばいいのかしら・・あなたのエヴァが死んだのは・・・確かよ。いえ、『あなたの』何て言うと所有してたみたいな感じね・・・・
あなたの知るエヴァは死んで・・・
いえ、でも死んでないわけだし
う~~ん?」
古雅崎はなんだか混乱しだした。
手を顎に当てて首を傾げている。
そのしぐさは先ほどまでの凛とした佇まいとは違い、なんだか可愛らしく思えてしまった。
「おまえがやつらの加担者ではないことはわかった。
落ち着いてくれ。俺も落ち着くよ」
「そ・・・そう。
うん、そうね。
二日前から私たちの暗部があなたの遭遇した事件を調査してたの。
その時に出会った・・・向こうから接触してきたのよ」
「・・・・・誰が?」
バン!!!
「僕だよーーー!!んふふふふー♪」
????
え?
「エヴァ?」
「おはよー。さあ起きて起きて。
もう身体は大丈夫なはずだよ!」
「おいちょっと待て。
オイ!無事だったのか?
いやおまえ死んでたろ!」
「説明長くなるからそれはあとで!
それより朝ごはん出来たって~
食べに行こう~さあさあ起きて~ゴロゴロ~」
エヴァは布団をひっぺがして俺を転がり落としてきた。
「そうね、食事をとりながらゆっくり話すといいわ。私もまだうまく理解が出来てないから」
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古雅崎に連れられて大広間まで廊下を歩く。
廊下が長い!家がでかい!
エヴァが元気よく歩いてる方がよっぽど衝撃的なのだが、まあこの家が長く古い伝統を持つ豪族の家だということがわかった。
縁側で囲まれている中庭は獅子落としが音を響かせ、すれ違う使用人らしき人たちは頭を下げて古雅崎を迎えていた。
大広間ではすでに大人数が並んで食事をしていた。
俺もその中に加わるかと思ったが、どうやら特別な別部屋で少人数で食すことになるらしい。
畳の上にお盆が並ぶ。
お寺の精進料理のようだ。
味は淡白ながらも素材の味が深く出ている。
手間をかけた料理だ。
「おかわり!」
精進料理だっつーのにエヴァはおかまいなしに追加注文をし、古雅崎はごはんをよそおう。
「この体いまちょうど成長期だから!」
・・・どことなく以前よりも幼くなったように見える。っていうか背がすごく縮んでる。
「で?どういう事かそろそろ詳しく説明してくれ」
古雅崎から受け取ろうとした茶碗を俺が手で遮って食事を中断させた。
襲撃を受ける以前から知りたいことがあったのに、さらに疑問が山積みになる一方だ。
少しでも消化したい。
「んーとね・・・・
まずあの襲撃なんだけど、ロシアのギアーズ重工っていう軍事開発企業が首謀者だったよ。異界エネルギー研究を始めた企業のひとつなんだけどね」
「海外からの襲撃だったのかよ」
「ロシアは既に異界化の被害がひどくてね。街も人も壊滅状態なんだ」
「・・・そうなのか。知らなかった」
「報道ができないレベルだからね。
国を救う研究のために政府は結晶採取に強行手段を取るようになった。
抗体が効いている傭兵組織を雇って、各国で軍用の細胞適合者を作りだしたりしてる位なんだ」
「マギオソーム器官細胞はおまえの所の専売特許じゃないのか?」
「うちの中国支社も襲撃された事があって、その時に細胞サンプル盗まれたよ」
「おまえらやられっぱなしだな」
「まあ各国で同じ研究はしているんだからアプローチが違うだけの同種の結合用細胞は世界中で開発されているけどね」
「そんなに適合者が量産されているのか」
「薬剤の質に差はあるけどね。
あと人種によって適合率が大きく違うんだ。
日本人の実績を参考にしたせいで多数の不適合者をロシアは産み出してしまったんだよ」
「・・・それって有田君のようになった人が多く出てしまったってこと?・・・・一体どれくらい?」
「病院や実験場が破棄されて廃墟になるくらい」
ドロドロに溶けた人間がそこらじゅうに蔓延しているのか。
想像したくないな。
「DIACの適合兵が日本人だったのはその適合率のせいか」
「ちなみに女性の方はロシア人だった」
そんな感じだったか。
「そういえば悠希は不思議なことにまた別の異能を使っていたよね?」
「ん?・・・そうだったか?」
「そうだよ、監視カメラはそのタイミングで壊れたから記録がないけど僕は事切れる前に見たんだよ。真っ先にそれについて究明しないと!」
「まて。真っ先にハッキリしないといけないのはおまえが生きてる理由だろ!」
もしも適合者で異能持ちだったとしても、全身を撃たれて生きられる事など絶対にありえない。
「それは僕がエヴァンジェリストだからだよ」
「答えになってない」
「あーあ、ミステリアスな存在でいたかったのになー。」
「国家機密以上に隠すことではないだろ」
「んふふ、まあそれもそっか。
僕は、遺伝子操作とクローンによって生まれた人造人間なんだ。」
「・・・・ふむ。
・・・・マギオソーム器官は?
どうせ組み込まれているんだな?」
「ちょ・・・ちょっと悠希君?
いまのクローンの事実とかに突っ込みはないの?」
「んふふ♪寝起きの頭が起きてきたかな?」
「そうだな・・・
いくらマギオソーム器官細胞とはいえ不死身はありえない。ならばあの時のエヴァはやはりあの場で死んでいて、おまえは別のエヴァって事だな?」
「正解☆いい感じだね♪」
「クローン大量生産の問題は製造そのものよりも、育成・教育や維持費の方が高コストだ。
俺だったらその手段を重視する。
・・・で、おまえに身体強化がないのは細胞エネルギーをそういった補うべき部分に使っているんだろうな」
「半分当たり☆
そこまで推察できるなら合格点だよ!」
「ならば記憶部分か。
おまえとの会話は以前のエヴァとほとんど遜色がないからな」
背格好と雰囲気が少し違っている程度だ。
同一人物と言われたとしても不思議はない。
「ザ・シンクロ。
各地に散らばる僕らクローンはある条件下でその記憶を完全に同期する事が出来る、
情報を伝道する事が出来る、それが僕の異能」
-----死しても継承し伝道を続ける-----
「これがエヴァンジェリストの能力、僕の使命だよ」
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