12 求める者たち② 雅の継血一族


 エヴァは古雅崎こがさきからお茶碗を受け取り食事を再開した。


 俺は質問を続ける。

「おまえらは個体間での記憶はどこまで同期されるんだ?」


「ほぼすべてだよ。

 君がバットで兵士に迫った事も、相手の異能の事も自分の目で見て体験したように同期されるんだ」



「・・・そうか。

 そこらじゅうにオマエみたいなのがいる想像をするとゾっとするな」


「広範囲に分布してるからほとんど交錯することはないよ。

 たまにエリアを交換することはあるけど。

 ちなみに実は君の前で入れ替わっていた事が三体分あるよ、年代差を縮めた間で接触してるから気づきにくいけど」



「・・・まあなんとなく雰囲気が違っていた時があったような・・・。

 けど会話に違和感はなかったし不便もなかったな」


 都内だけで数百人いるわけではなさそうだな。

 こいつは国家機密は簡単にしゃべるが企業秘密は慎重なフシがある。


 その線引きを探りながら質問をしていこうとしたが古雅崎も疑問をぶつけるようになった。


「複数人の記憶を重ねて、脳への負担はないのかしら?」


「もともと普通よりも物覚えが良い人間をベースに、遺伝子操作でさらに記憶域を膨大にしてあるんだ。

 定期的に記憶整理もしているし記憶暴走する問題はないよ。

 一度読んだ本は一語一句とまではいかないけど大抵覚えれて同期できるくらいかな」



「そう。じゃあ雅の一族の歴史と詳細はどこから知ったのかしら?」

 古雅崎はさらに質問を続けた。


「あなたの姿は私たちの情報網から多くの発見報告はあったわ。

 でも一族の深部に精通しようとする動きは一切なかった」


 エヴァは茶碗を置いて手を合わせる仕草をしたあと向き直って話し出した。


「まずはご飯をありがと。

 ご馳走さまでした。

 それと悠希遥架を保護してくれたことに感謝する。

 おかげで貴重な適合者を失わずに済んだ。

 君はあの時の僕の忠告を覚えててくれてたんだね」


「悠希君の事は・・・半分はクラスメイトのよしみよ。」



「けどもう半分は一族のためだよね。

 いいよ、教えてあげる。

 外にいる人も入れてあげるといいよ」


 すると襖の向こうからスッと一人の男が座ったまま姿を現した。


 ずっとそこに人がいたのか・・・気づかなかった。


 ていうかさっきから機密喋りまくってたがいいのか?

 こいつも巻き込まれるワケか。



「雅継血のひとつが敷家しきけ敷雅 孝しきが こうと申す」


 わぁ・・・リアルで『申す』とか言っちゃってる人初めてみた。

 サムライか?


 いかにも世俗から離れた雰囲気で眉毛もずっとつり上がってるし固そうな人だ。


 古雅崎と同じ時代錯誤系の人なのかな。

 分家とか名乗らないだろフツー。

 できれば関わりたくない。


「君がここの代表者ってことでいいんだね?」

「現当主は事情により不在、次期候補として私が代理と致す」

「孝、その説明は不在までとしなさい。

 次期の予定はまだないわ」


「失礼しました、なにぶん当主不在が長いものでしたので・・・」


 ・・・・跡取り問題か?

 まあやっぱりこれだけデカイ家だとこういう事あるものなんだな。

 まあ俺には関係ない。

 関係ないよな?


「雅血族がこの先衰退するとのありえない予見、自分が聞き及ばないわけにはいかぬ」


 込み入った話になりそうだ。

 よし、立ち去ろう。

 ここの縁側はボーッとするには良いロケーションそうだし、うん。


「部外者が立ち入るべき話じゃないだろうから席をはずそうかな」


 立ち上がろうとすると古雅崎君が手で制止してきた。


「あなたにも、関係することだからいてくれる?」

「おまえの所の御家事情の話だろう?」


「敵対組織に狙われているあなたを、危険を承知の上で匿ったのはこれから話してもらう内容に関係しているから。居なさい」


 お願い→命令形に語尾が変わった。

 ・・・やっぱり面倒ごとか。


 まあ人が殺された事件だったにも関わらずスムーズに受け入れてくれたわけだしな。

 恩に報いろう。


「伝道者は僕のような体系じゃなくても昔から同じ存在があったんだ。

 君たちの始祖が現れた時代の情報も僕らの中にはある」


「な・・・我々のはじまりまで知っているというのか?」



「雅一族は平安時代にその始まりを起したよね。

 その流れは飛鳥の藤原の政策『霊樹の布植』に端を発するもの。

 大地に巡る霊力を霊樹脈として地下に張り巡らせてその力をもって妖鬼を滅する、千年続く退魔師だ」


俺は古雅崎の方を見てみた。

「合ってるの?」

「・・・・ええ、全くその通りよ」


「で、ここまでは概要。

 裏組織の中じゃそこそこ有名な存在だしね。

 本題はここから。雅の力が落ちている」


バンッ!!


敷雅は畳を手のひらで叩いた。

「落ちてなどいない!私が返り咲かせて見せるわ!」


 あー、自覚してるんだね。

 めっさ落ちてるんだ、自分で語っちゃってるよ。・


「孝、まずは話を。

 その認識に対してあなたは原因と対策を持っている、ということでいいのよね?」


「そう、そのキーになるのが悠希遥架と郷野剛志だよ」



「血液にマギオームという細胞を持っている人間よね?」


「そう。まずは君たちの力が落ちたとされる原因から説明するよ。

 理由はとても単純だよ。

 霊樹が枯れてきているから」



「どうして?・・・と聞くまでもないのかしら。

 異世界変異の影響よね?」


「うん、次元断層によって異世界の大気が流入し、地球の大気組成が変化した。

 霊樹にとってとても良くない成分みたいだね。

 人間が中毒症状を起こすのと同じく」



「一族のほとんどはこの微弱な衰えをまだ気のせいだと思っているわ。

 けれど、大霊術を使う者には明らかな力落ちだとして弱体の影響がでているの。

 これが続いてしまう事を止めたい。」


「霊樹が弱れば君たちの稼業は持たなくなるからね」



「人と妖鬼とのバランスが崩れてしまうからよ。それは避けるべきなの」


古雅崎はチラッと俺の方を見てきた。


「で?こんな俺に何が出来るって?

 人より少し早く動く事くらいしか出来ないと思うけど?」


「謙遜しなくてもいいよ~。何か他にも出来る事増えてるんでしょ~?んふふふ」



「そんなものはない!」

「えー、あとでちゃんと教えてもらうからねー。

 話を戻すけど雅血族が自身で取れる手段は少ないんだ。

 そうだねー・・・うちらが協力できる事と合わせて3つの対策はあるかな」


「思ったよりもあるのね。

 現実的かどうかによるけど」



「まず一つ目、霊樹にマギオーム細胞結合実験を行う」

「却下だ!! 大霊樹に異物を仕込むなど私が許さん!」


「・・・・本家の人間としてもそれは難しいと答えるわ。

 分家全体にそれを納得させるには骨がおれるから。

 何よりも、適合率の問題もあるのでしょう?」


 人間で0.01%だったか?

 そこからさらに適正で絞られて、もし結合できなかったら細胞がメルトダウン。

 割には合わないだろうな。


「人間とは違って植物は手段が変わるし僕らの薬剤では成功確率が低いんだ」


「ひとつでも悲惨な状況になってしまえば関連する派閥全体から反発を食らってしまうわ」


 まあ、みんなのご神木様みたいなものだろうし、こりゃ実現はなしだろうな。



「二つ目、適合者の血を利用する。

 麒麟戦の時に古雅崎名鶴が郷野剛志を使いやった行為に近い事だ。

 あれは霊樹の特性と一族の力を組み合わせた技術だね?」


「ええ、霊樹は取り込んだ媒体の本質的な要素を術者に宿す事ができるの。

 霊樹薙刀を通して私は郷野君の身体強化を自分に付与することができた。

 もちろんその効果は維持時間という制限があるけれど」



「それは微量な血液だったからだよ。

 これが二人分の血液が用意出来た場合、霊樹の武器一本なら異粒子高エネルギー構造を定着させる事ができる」


「我らの神聖なる神器に他族の血を宿すは穢れであるが、まあその案は妥当かもしれぬな」


「いやまて!その血量は致死量じゃないだろうな!」



「ギリギリ大丈夫。理論値だけど」

「それを大丈夫とはいわねーよ!」



「えーでもメリットは多いんだよ?

 異粒子の力を使える霊樹の武器・・・・

 それはあのエレメンタルアーツに匹敵するかもしれないんだ」


「でもじゃねえ!しらん!」

「・・・エレメンタルアーツというのは実際どんなものなの?」



「俺とエヴァが襲われた原因の異世界結晶だ。

 ひとまずいまの案は俺から却下だ。」


「そっかー。残念。」


「残念じゃねーよ。もっと人道的な案を出せ」



ハァとため息をつきながら最後のひとつを望む古雅崎。

「・・・みっつ目は?」



いまのところ非現実的なものばかりだったからな。

実現できるものを最後にとっておいていることを願おう。



「みっつめはキミとキミ・・・

悠希遥架と古雅崎名鶴の間で子供を作ることだよ」



「・・え?」

「おまえなあ・・・」


「ダメだああああ!!! 断じてゆるさあああん!!!」


 敷雅 孝が猛烈に叫び出した。



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