10 機密襲撃③ 頼り
『もしもし、何かあったのね?』
「・・・察しがいいんだな」
『あなたがしようもない事で私に電話するとは思えないから。いまどこ?』
「詳しくは言えない。
盗聴されている可能性がある。」
『人が相手なの?』
「・・・ああ、状況はひどく悪い」
『・・・待ち合わせ場所を指定して。
そこに迎うわ。』
「なら・・・昨夜に俺とお前がすれ違った橋の上で。
あと、 ・・・エヴァが死んだ。」
俺は、なぜかこの事を伝えたかった。
別に古ヶ崎には深い縁があったわけではないだろう。
だが自分だけでは抱えきれないこの事実を他人に伝えることで心の負担を分けたかった。
『・・・そう。
まだ・・・そこに?』
「ああ・・・」
『辛いことかもしれないけど、一緒に連れてきてはダメよ?
まずはあなたが無事に逃げ切れることを第一にしなさい』
情に流されて背負って行こうでもしたら足が遅くなり逃げ切る可能性が下がる。
・・・残酷なようで、正しい判断。
こういった修羅場には本当に慣れているようだ。
これも妄想の中で鍛錬されたものだったりしたら笑えるな。
頼れる存在がいてくれたせいか気持ちに少し余裕ができてきた。
体内の異粒子は充填できている。
身体の方ももう少しで強化が使えるくらいに回復してきた。
『じゃあ待ってるわ』
ブツッ
盗聴される疑いもある事からお互いに
最小限の言葉での最短のやり取りだ。
俺は静かに眠るエヴァをみつめる。
そしてその遺体を物影に隠した。
「じゃあな、エヴァ。
今俺が生きていられるのはおまえのおかげだと思ってるよ」
前に組ませた手にそっと触れて、そして振り返ることなく走り出した。
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適合者の詳細に迫ろうと大企業の内部に、そして国家機密に関わり俺の目の前でだけでも3人の犠牲者が出た。
おそらくあのビルではさらに多くの死傷者が出ただろう。
空からはいつの間にか雨が降り始め、体についていた返り血を洗い流していく。
各国が求めるというエレメンタルアーツ、
その奪い合いに巻き込まれて俺は人間に殺されかけた。
あの存在が世界にとって、そして適合者達の生死を左右する。
これからもこんな争いが続くのだろうか。
今は、逃げなければならない。
待ち合わせの橋はまだ先だ。
わからない事だらけの異粒子エネルギーと異能の力。
酸欠に陥り頭も働かない。
「はあ、はあ・・・・はぁ・・・・ふぅ・・・・・ふ・・・・・・・」
俺はどうしていけばいいのだろうか。
この世界と・・・・俺はどう向き合って行けばいいんだ?
・・・身体強化を持久モードにして走り続けたがついに力が抜け切っていった。
心身ともに疲れ果てて目が霞む。
待ち合わせの橋の上にたどり着く頃には思考はもうおぼろげに・・・
雨の中、傘を差して川を眺め佇んでいた女子高生がこちらを振り向いた・・・・
傘を放り投げて駆け寄ってくれたときには俺の意識は遠ざかり・・・
「・・・・悠希くん!」
彼女の伸ばした暖かい腕の中で・・・意識を闇へと落とした
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