09 機密襲撃② エレメンタルアーツ~人間同士が敵対しているのか?
『第5事象
異界からの転移は異粒子、異生物のように有機物に限定される。
ただし元素結晶においては例外であった。
異粒子特殊性質含有結晶・エレメンタルアーツ。
この固体が新世界に秩序もしくは不均等をもたらすでだろう。
ホークス=シノミヤ』
「これが国際連合によって隠蔽された第5の声明、そして特定の組織によって調査団が可及的に結成された理由だよ」
「そんなに重要なものなのか」
「各国が収集と研究のために抗体薬製造の補助金を削減した位だよ」
・・・・国民の命よりも重要なもの?
え・・・オイもしかしてこれ国家機密級のヤバいやつか?
「まて!その情報は知りたくないぞ!」
異世界の結晶、おそらくとてつもなく価値の高い鉱石なのだろう。
ウランのような新エネルギー体、もしくは核を越える超軍事兵器?
いや、異世界ハザードを解消する要素か?
少なくとも今起きている国民人口減少とトレードオフ出来るほどに価値のあるもの。
その犠牲にされる国民には決して明かせる事が出来ない超極秘プロジェクトという事だ。
すると設備の奥から二人の男が近付いてきた。
「なるほど、エヴァが薦めるだけあってカンは良さそうだな」
「ま、このオブジェクトを見た時点でもう後戻りは出来ませんけどね」
迷彩ズボンに革ジャンを着たゴツい男と
白衣を着たいかにも研究者的な中年の男だ。
「紹介するよ、東京理研大の教授で異粒子研究部室長をしている山田繁樹」
「室長代理ですよ、今はね。
よろしくお願いします、悠希さん」
そういって手を差し出して握手を求めてきた。
大人の社交儀礼は学生には慣れないから戸惑ってしまう。
流されるままにハンドシェイクをした。
もう一人も出てくる。
「斎藤譲治、この施設の警備兼、調査部隊員」
「よろしくな、悠希」
いきなり呼び捨て・・・そして同じく手を差し出してきた。
だが先ほどの山田とは様子が違った。
グググッ!
握手をしたその手が異様に力強かったのだ。
どれくらいの圧力かというと、反射的に身体強化を発動してしまう程だ。
するとエヴァが言った。
「斎藤譲治も
!!
力がさらに強まった。
ギリギリと軋むほどに痛みだす。
だが手をほどけない程ではない。
俺はエネルギー転換を高めて筋力強度をあげた。
ぎぎぎぎ
バッ!
ふりほどいた。
手を見てみると痺れて白色になっている。
「うまく使いこなせているようだな、適合して何日目だ?」
「・・・三日目です」
「えー!スゴいですね!たったそれだけで斎藤さんと渡り合えるなんて!」
「そんなに力込めてねーよ、文字通り挨拶がわりの確認程度だ。・・・・な。」
「これは・・・適合者同士の儀礼かなにかですか?」
「気を悪くしたなら謝るよ。
そうだな、まあマギストである証明に行う事は多いな。熟練者になれば相手のおおよその
俺の見立てだとおまえはこれまで5体の異生物を討伐した容量だ。たった三日で無茶したもんだな」
やはり今のは適合者特有の慣習か。
新人には洗礼だな、気分が良いものじゃない。
コイツの見立ては外れてるし。
「いえ・・・・まだ一体ですよ。」
「うふふ、悠希が討伐した相手は一級越え異生物だったんだよ」
麒麟のことだよな。一級?
「おい本当か!大したもんだ。無茶どころじゃなくて特攻男じゃねーか!ははははは」
そういって背中をバンバン叩いてきた。
あー、俺の苦手な体育会系タイプだ。
つられて敬語を使ってしまう。
「俺一人で討伐したわけじゃないです」
「生き残れただけで相当なもんなんだよ、
俺のことはジョージって呼んでくれ。
わからない事は先輩として答えれるからよ」
麒麟ってそんなレベルのやつだったのか。
「ウフフ、よかったね。
斎藤譲治は元軍人だしいくつもの事象調査をこなしたベテランなんだよ。」
「このエレメンタルアーツを発掘した部隊の一人でもありますからね。」
ふむ、そりゃすごい実積なんだろうな。
・・・それよりも
「俺は自分と、自分の周りを助けれる程度の理解だけを求めに来たんです。機密を担う一員になりにきたワケではないですよ」
「残念ながらそれはあきらめろ」
「・・・・ここまで知った事は決して話しません」
「そんなに単純な話ではないんですよ」
「この異化世界での生存競争はこれからさらに過酷なものになっていくんだ。
特に適合者にとってな。オマエが自分の身を守るだけでもさらに力が必要になる」
「過酷って、異界化が進む事はわかりますが。
・・・・このオブジェクトに関係しているんですよね?」
「そうだ。
結晶発掘部隊で最も大変だった事はなんだと思う?
異粒子結晶を縄張りにしていた異生物への対処は勿論大変だった。
だが最も命を危険にさらしたのは発掘後に起きた強奪戦。人間からの襲撃だよ」
異生物ではなく・・・こんな時代に人間同士が敵対しているのか?
「これまでの結晶争奪の問題だけなば悠希くんへの影響はなかったんです。
けど
「自分達以外の所の適合者が邪魔な存在になってきちゃったんだよ」
「所属しなければ組み込まれるか殺される、特に君は他よりも高いポテンシャルを持ってしまっているからね」
・・・・異能の事か。
ダメ元で駄々をこねてみたものの俺自身の中でもう理解してしまった。
薬品投与の継続が必要なので一蓮托生、というものではなく敵対組織との競合に必ず巻き込まれる異能もちは組織の庇護に頼る他ないわけだ。特に低レベルの俺は。
「ひとつ聞きたいことが」
「なんだ?」
「斎藤さんと俺のレベルはどれくらい開きがあるんですか?」
「ジョージでいい」
「いえまだ敬称で呼ばせてもらいます」
「・・・・まあいい。
比較については評価軸や測定手段によって変わるもので一概に定量できるものじゃないんだが。
そうだな、マギド細胞の定着率はわかりやすいか。俺は65%だ。」
「エヴァ、俺の数値はわかるか?」
「測定すればね。
けれど君の場合は適合日数から推測できるよ。20%前後」
4倍以上の差か・・・・。
思ったよりも今の俺では絶望的・・・か。
「わかりました。機密を受け入れます」
「ははは、面倒事の察知が早かった割に受け入れも早いな」
「それだけ理解が良いんでしょうね~。私は好きですよ、賢いコは」
・・・・新世界へ順応した組織か。
この人らの知識こそ遅かれ早かれ俺が求めるものなのかもしれない。
下手な条件がないだけずっとマシな相手かもな。
「では早速じっけ・・・・じゃない検査ですね!」
「ウフフ、そうだねーまずはさっきいったマギド細胞定着率と身体強化耐久値。
異粒子許容量増加薬もためしてみたいなー。」
「ええ、ええ。もちろん結晶との共鳴反応テストもね!」
なにやら理系共のテンションが上がってきやがった。
これはモルモット状態にされる流れか?
実験体って・・・・交渉条件として最悪な選択だったかもしれない。
「ははは、いい後輩が入ってきたぜ。
たっぷりと俺の技術を教えこんでやるぜぇ」
こっちの体育会系もやばい!
くそ、早くソロでも生きていける術を身に付けなければ。
---------------------------
ドオォォォ
厄介な人間が揃ってわっしょいわっしょいしていると遠くから重い破壊音が伝わってきた。
「い・・・今の音は!?なんですか!?」
ダダ
ダダダダダダ
「アサルトの銃声・・・襲撃だ!」
ドゴッ
「ち・・・・近づいてる。警備員は?なぜ警報が鳴らないんですか?」
「システムに介入されか・・・ヤバいぞ!増援が間に合わない!」
「うふ、すでに壊滅してたりして・・・」
混乱する教授に武器を取り出す元軍人と、楽しんでいる様子のガキ。
どこかに避難するわけではない。
この異界発掘物を置いていけないんだろうか。
ダメだ、こりゃ全員が助かる見込みはないかも。
目的はまあエレメンタルアーツって線が妥当か。
有線で繋がっている監視カメラの映像から敵の影が見えた。
防弾装備をまといマスクで顔を覆った姿。
これはテレビのドキュメンタリーで見たような特殊部隊の様相だ。
「この武器と動きは
「・・・どこかの軍か?」
「Dominant Innovation Assult Corps.
新情勢で、き・・・企業に直属で傭兵となる私兵組織ですよ!」
「ココは通常の銃器爆薬なら弾き返す構造になっているんだがな。適合者を襲団に入れたか?」
ドゴオォォォン!!!
「チッ!勘違いだと良かったがカメラに映ってたヤツにテレキネイサーがいたな」
「ヤバイやつか?」
「エレメントアーツ移送時に何人もの仲間が殺された。オマエは手を出すな、逃げろ! 」
ガン!
こもった音ではなく轟音が響いた。
最も近い場所にあるドアが突破された音だ。
T時路の脇から重質量のドアがまるでオモチャのように吹き飛んで壁にぶつかった。
ハンドガンを持ち斎藤譲治が迎撃に行く。
侵入に成功した兵士も同時に突撃にきた。
ライフルの連射音が鳴り響く。
「ぐふっっっ!」
エレメンタルアーツを設備深く格納しようと制御機の前にいた山田教授の胸が撃たれた。
ダメだ、突撃の手際が速すぎる・・・・。
だが幸いにもコントロールが間にあったのか移動に向けて格納庫の底面が開いていくと同時にガラス窓にシールドシャッターが下りはじめる。
山田教授は・・・命を落とした瞬間、少しだけ笑ったように見えた・・・・。
ハンドガンの銃声音が近くから響く。
斎藤譲治は小銃を撃ちながら、高レベルの身体強化で、
なんと壁と天井を走っていた。
オイ、まじかよ!!
その動きに兵士の照準はついていけず、防弾服隙間に致命傷の弾を受ける。
-------------------
たったひとりで第一陣を撃退し、兵士からライフル銃を奪い一旦物影に隠れ、手と口パクでこちらにサインを送る。
『非常口から逃げろ』
すごい、これが第一線の適合者の能力・・・・
だが次の瞬間、すさまじい圧力の衝撃波が突然に俺達を襲った。
俺は宙を舞い、装置側に大きく吹き飛んだ。
壁に激しく体を打ちつけ、倒れた背に瓦礫の破片が落ち液体が滴ってくる。
「な・・・なんだ今のは!?」
起き上がって降り注ぐ煙を払いのけ見上げてみると装置の防護シールドがひしゃげガラス窓も割れた格納装置があった・・・。
そしてエレメンタルアーツはその姿を生身として露出してしまっていた。
状況がさらに不利になる。
襲撃側に目を戻すとそこには二人の面影がこちらに向かってきていた。
その姿は兵士とは異なり、一切の防弾服を身にしていない。
雰囲気が若い・・・20~30代くらいの男女ふたりだ。
今の攻撃はアイツらか?
あの衝撃でこれまでのセキュリティドアも突破したのか。
俺は今の衝撃波で態勢を崩した斎藤譲治に近づいた。
ここで斎藤を失うのは退路を確保する上でもまずいと判断した俺は
鞄に入れていた金属バット(小)を取り出す。
スー・・・・フー・・・・
異粒子を体深くに取り込み立ち上がる。
屋内とはいえ、大気の中にはそれなりに充満していた。
「ブースト 展開・・・!」
俺は視覚・反応神経を微加速させた。
あの二人が何をしてきたかわからないが、加速空間であれば挙動を見てからでも推測が立てられる。
俺の獲物は相変わらず頼りないバットだが、今は斎藤を安全圏へ戻すための援護を優先する。
当の斎藤はケガを負いながらも起き上がり、近づく二人へ向けてライフルを放った。
瞬間、射ったはずの弾はターゲットに向かう事なく止まった。
そして射手であるはずの斎藤に巻き返ってくる形で全身にその銃弾を受けてしまった。
「ぐごっ・・・・・」
なん・・・だ・・・・?
加速空間では確実にライフル弾が二人に向けて放たれていた。
自動小銃の連射弾道は、手をかざしていた男からのショックウェーブによって、届く前にスピードを落とし数メート近くに来る頃には止まってしまったのだ。
そしてそのスピードが反作用するかのように軌道を反対にし斎藤側へ帰っていった。
これは・・・異能か?
あのショックウェーブ・・・格納庫を破壊したのはこの能力か。
「お・・・・おぉぉぉぉ・・・・」
ドサッ
斎藤は返された弾を受け、その場に倒れて大量の血を地面に流していた。
適合者の2人の視線は俺へと移り・・・目を合わせてきた。
すると兵士第二陣が敵側に到着。
こちらにアサルトライフルを向け3人が斉射しながら走ってくる。
「ブーストトリガー・・・全開!!!」
脳神経すべてと身体強化を全力ブーストし、兵士のライフル弾の軌道を掌握した。
俺は銃弾に向けて走り出す。
3人分の射出した弾道は通路を縦横無尽に覆うっている。
隙間をかいくぐり左へ右へ避け、時には壁を蹴って上空へも飛んだ。
斎藤と同じ動きは身体強化によるものであれば、やはり俺でもできた。
兵士の距離が縮み、空中から足を地につけた所で流れるようにスイング態勢に入る。
右端にいる兵士の右側面に立ち、後頭部に向けてフルスイングした。
加速空間を維持したまま兵士は足を天井に向け頭を地面に埋め込む所まで動いたあと、地面との衝突で制止状態になり止まった。
俺は勢いを続ける。
振り切ったバットを今度は逆袈裟の要領で二人目の兵士の胸部へ全力の左打者スイングを当てる。
ブースト全開状態からここまで実時間約6秒、
踏み込みからニ連撃に至るすべての動きが高精度に最適化する事で可能となる異能と身体強化の応用技だ。
・・・だがニ撃目にしてバットがひしゃげてしまった。
(クソ!携帯性のために選んだ小型タイプでは耐久度が低い・・・・)
俺はそれでもバットを持ち直して三人目に迫ろうとした所、
兵士の後方で異能の男がこちらに手のひらを向けていた事に気づいた。
しまった・・・!
瞬間、背を向ける形で元いた方向へ逃げ走り、距離をとろうとしたところで・・・
ヤバい
・・・筋力の限界が来てしまいその場に倒れこんでしまった。
加速空間も同時に解除され衝撃波が頭上を襲う。
ドゴオオ!!!
「ぐっ・・・・・・」
態勢が幸いしたおかげで偶然にも衝撃は瓦礫に遮られ、頭を通り過ぎて避けられた。
目を戻すと三人目の兵士は衝撃波をもろに受けて倒れている。
男は俺が落としたバットを持ち上げて調べていた。
「ただのバットか。これで銃装備の兵に向かったのか・・・・?」
俺は軋む体を無理やりに動かして立ち上がり、後ろ足で距離をとる。
「大したガキだ。ここまで繊細に身体強化を扱えた者は今までいなかったぞ」
そう言ってバットを投げ捨てた。
そして斎藤が携帯していたハンドガンを手にとる。
どうやら俺が異能持ちだという事までは気づいていないようだ。
ただの身体強化だと思い込んでいる。
ならば・・・・騙し通せる・・・時間稼ぎを・・・
「・・・おい、おまえらの目的はこのエレメンタルアーツか?」
「ああ、ついでに敵対分子の排除も請け負っている。残るはオマエだけだ」
「もう増援部隊がこちらに着く頃だ。いくら異能持ちでも対処できる銃器の数には限界があるだろう?」
すべて推測だけで語っている事。
格納庫の緊急射出が実行された以上、その発信記録は必ず本部に届いているはず。
「対象を守るための時間稼ぎのつもりか?無駄だ」
男は隣にいる女に目配せをし、女は手のひらをこちらに向けた。
俺はぐっと構えた。
するとまた衝撃波が・・・・いや、今までとは異質のものだ。
女から放たれてくるかと思ったら・・・逆方向・・・背中から押し戻されるモノだった。
破壊音が背中から轟く
俺は体を支えきれずうつ伏せに倒れた。
隙を見せるワケにはいかないとすぐに立ち上がると・・・・
あろうことか、後ろにあったはずのエレメンタルアーツが女の手に渡っていた。
クソ、やはり女も異能持ち・・・・。
ふたりとも念動力の類か。
交渉のためのカードがこちら側にもう何もない。
増援の気配は未だ何もない・・・・。
「これでオマエに出来る事はもう命乞いだけになったな」
そう言って男は手に持ったハンドガンをこちらに向けた・・・・
!!!
チャンスだ―――――。
俺はポケットにしまっていた野球ボールを瞬時に取り出す。
「ブースト開っ!!」
限界に来た体でギリギリ使用できる小ささに加減した知覚加速と身体強化を始めた。
あの男は余裕を残しているにも拘わらず、攻撃手段を銃に変えたのだ。
その心理には、経験から来る無意識の選択が行われているからだ。
いくらベテランであったとしても、異粒子エネルギーの使用には身体的限界があるという事。
その限界ラインを上級者であるほど適切に見極められるだろう。
俺はまだ三日目の素人。
余裕を残さないで戦う事が常であったため、このブレーキをかけない所にこのチキンレースの勝機を賭けるしかない。
『とっておきをくれてやる!!!』
ひとつしかない球は使い捨ての一度限りの奇襲。
加速空間で感じとれるボールに伝わる指先の感触は、50m以上離れたターゲットに寸分の狂いなくコントロールができる。
身体強化から放たれたボールは銃弾に匹敵する速度を生み出すはずだ。
ふたりのうち攻撃担当は男側。
コイツを倒せば状況は好転する!
すると男が下を向いて何かを叫ぶ様子を見せる。
足に誰かが絡みついていた。
斎藤譲治だ!
あの人・・・銃弾を体に浴びていたのに生きていたのか。
仕留められる!
狙ったフォームでボールを投げだし
高速ボールは男に向かっていった。
その様子を見逃すまいと加速空間を解除せずに認識し続ける。
するとボールは衝突の直前、突如スピードを落としていった。
徐々に速度は落ちていき、胸部にあたる時には初速時の威力の半分に落ちた。
「ぐおぉぉぉぉ!!」
まさか今のは・・・・異能の常時展開か!?
「グホっ、カハっ!き・・・きさまあああ!!」
異能の正体がわかった気がした。
あれは斥力だ。物質を反発する理力。反重力か?
理屈は全くわからないが結果はそれに近いもの。
そしてそれを狭い領域で能力を展開し続けられる程の熟練者だった。
麒麟がブーストトリガーを常時展開しているように‥‥コイツ異生物並みのベテランかよ。
くそ!
ヤツのエネルギーの許容量を見誤った。
最低限の守備分を不測の事態に備えて残していたのだ。
「貴様は必ず殺す!!!」
適合者としての経験の差か・・・・。
こちらはもう身体強化で躱すほどの余裕がない。体はすでに痙攣している。
銃弾がこちらに向かって放たれた。
俺はその様子をなすがままに見つめる。
加速意識を展開する事なく、だがなぜか世界がゆっくり流れているように見えた。
ーーーーーーーーーーーー
目の前に人影が覆う・・・・
小さな体でめいいっぱい両腕を広げ、
少しでも大きく俺を影で覆うその身体は発弾の回数と同じだけ身を震わせ‥‥
「・・・・エヴァ?」
そして倒れた。
「お・・・おい!・・・・」
おれは軋む体を引きずりエヴァの元へ倒れ込む。
見るとエヴァの身体からいくつもの血がにじみ出た。
頭からは既に大量の流血がある。
最初の衝撃波で崩れた破片の下敷きになっていたのだ。
こんな身体で・・・・。
「悠希・・・うふふ、無事でよかった・・・・」
オマエと俺は数日だけのつきあいだろう、なんで・・・
「なんで・・・おまえ、こんな無茶なことを!!」
「ここは・・逃げて。非常口から・・・君はまだ・・・・」
弾の切れた銃を捨てた異能の男、テレキネイサーは手のひらをこちらに向けた。
「ゴホっ、おまえら・・・逃がさんぞ!!」
残りの力を使った異能の衝撃波がくる。
相対性理論において存在し得ないとされた、『斥力』。
負のエネルギー密度など存在しないのにどうやって実現させている?
異能なんて簡単な言葉で片付けてたまるか。
俺はエヴァの体に添えていた自分の手を前に伸ばし、ヤツと同じ姿勢になるように真似た。
この宇宙のエネルギー条件を覆す宇宙外の物質・・・
一瞬でもそんな存在を生み出せたならば、この場には穴の空いた宇宙船のようにとてつもない衝撃の流れが発生するだろう。
それがおそらくこの異能の性質。利用しているのは異粒子。
別種だが異能に目覚めている俺になら出来そうな気がする。
俺の細胞が、なぜかその感覚を知っていた・・・!
異粒子転換・・・反質量粒子の・・・・生成!!
『異能
俺の伸ばした手から信じられないほどの理力が生まれた。
敵側の異能とぶつかり、そして何度も放たれた衝撃波によって研究室の通路が敵ごと崩れだした。
---------------------------------------
はあ・・・はあ・・・はあ
俺はエヴァを抱えて緊急脱出ポッドを使いいまは地下8階から地上の配管エリアで身を潜めている。
あの男の衝撃波と同等の能力で押し返す事が出来、ここまで逃げてこれた。
ビルの中を通っていないため果たして救援が望める状態なのかわからない。
そうこうしているうちにもエヴァの出血は止まらず顔が真っ青になっていった。
「うふふ・・・・君はすごいね」
「おい!何か手段はないのか?どうして増援が来ない?」
「これは内部の人間も関わった計画だった・・・・ごほ、君には迷惑をかけてしまったね、ごめん」
「謝るな、お前にはまだ聞きたいことが沢山あるんだぞ!」
「安心・・・して、すぐに次の・・・担当が・・・僕はこれ・・・で・・・」
「おい!!!」
エヴァは目をあけたまま事切れてしまった。
悔しさで胸がこみあげてくる。
俺の事を守って犠牲になった。
突き放していた存在が突然にかけがえのない存在になり、そして失われた。
それがどうしようもなく悲しかった。
エヴァのまぶたをそっと下ろした。
煙のようなものがエヴァの体から発せられていた。
だが今は気にする程の余裕がなかった。
じきにこの場所も探られるかもしれない。
ここから離れなければ。
・・・・どこに身を潜めればいい?
もし俺の身元が判明されていたのなら自宅にも学校にもいられない。
つけられでもしたならば
観咲家には絶対に近付けない!
『 あなた、つけられてるわね 』
・・・・ふと昨日の言葉を思い出した。
『困った事があったら呼んで頂戴』
いや、クラスメイトに助けを望んだってなにが・・・・
『 あなたは私たち一族にとって利用価値があるかもしれないから 』
・・・・。
俺は悩みながらも藁にもすがる思いで
スマホをとりだし、血だらけの手で古雅崎のアドレスを選んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます