4話 出会いにはもれなく別れが付属するはずです

永遠というものはもちろん終わりのないもののことだけど、その終わりを、儚さを、どこかで夢想してしまうからこそ美しいものだと錯覚してしまう。

これから先に起こることが因果であったり、偶然によるものだったり、はたまた夢の内のものだとしても。

これらはすべて自分にとって現実であるのだと、夢から醒めた僕が教えてくれたような気がした。



日光が雲の影に隠されて、部屋が突然暗くなった。

蝉の鳴き声も気づいたら消えていて、自分がここにいるのかさえわからなくなるほど静か。


すると突然、彼女の身体がくの字に折れ曲がる。

不意のその動きで髪の毛が乱れ、忽ちのうちにほこりが、光の粒子が舞い上がる。

彼女はひゅうと小さく息を吸ったのち、静寂に声にもならない呻き声を響かせながら、身体を小刻みに震わせている。


「おい!大丈夫か?」

慌てて駆け寄って、うずくまっている彼女の肩に手を添える。


まるでこの世のすべてを拒絶するように固く、こわばっていた。

呻き声は次第にか細い悲鳴へと変わっていく。

僕は無意識にずっと、その肩をさすっていた。


その悲鳴が消え入るようになくなっていくのと同時にその身体はだらんと弛緩をして、偶然触れてしまった肌は死体のように熱を失っていた。

はっ、と驚くが、もちろん彼女はさっきまで確かに生きていたし、今も絶え間なく呼吸を続けている。


その顔には長い髪がかかってしまっていて、僕はそっとかき分ける。

雲に隠されていたあたたかな陽ざしが、そこに射し込んでいった。

真っ白い髪は光にあてられて、透き通るように煌めいていた。

そしてそのすき間で、


彼女は、泣いていた。


その、まぶたから零れ落ちる涙を手で掬おうとした瞬間、彼女はゆっくりと目を開く。


「ま、ママ?」

ちいさな唇はゆっくりと開閉をして、確かにそういった。


「僕はママじゃないけど」

当たり前の言葉が口をつく。

だけど、こんな状況で、当たり前の言葉を当たり前だと思って当たり前のように口から発している自分に少しの違和を感じる。

この子は大丈夫なのだろうか、

そう心配するのが当たり前であって。


その時、彼女はゆっくりと起き上がって、しきりにワンピースのすそで目をこすっていた。

まるでさっきのことなどなかったのかのように。


そして彼女は一度俯いてからくすりと笑い、僕のほうへ向き直った。

「面白いことをいうんだね、君は

わたしは少し、すこしわるいゆめをみていたの。さっきのは寝言。わすれて」

透き通るような声だった。こちらをずっと見つめている彼女の瞳に吸い込まれそうになる。


そして、拭うことのできなかった涙がつーー、と彼女の頬を伝っていた。

「その、君は?」


彼女はあたかも不思議であるように聞いてくる。僕もいまなぜこんな状況になっているのか不思議だ。


「その、君がひどくうなされていたから、こうやって」

彼女はまだ首をかしげている。

「あ、その、何でここにいるのかっていうのは勝手に忍び込んだってわけじゃなくて、いや、勝手なんだけど少し違うというか…」

僕はあわてて取り繕う。なんか二度目のような気がしないでもない。


彼女はそんな僕の様子を見て、またくすりと笑うと、

「そういうことじゃなくて、」

彼女はゆっくりと僕の言葉を訂正する。

「君の名前をきいているの」


「僕は、僕の名前は、夕凪洸介」

一語ずつ、丁寧に発音する。


「やっぱり、○○○○○○。」

僕には聞き取れない声で、彼女はそう言った。


その背の方向から差し込む陽ざしはもう赤みを帯びている。

僕に横顔だけを見せて、彼女はどこか虚空を見つめていた。


僕は尋ねた。

「さっき、君はうなされて…………」


その陽ざしにあてられて、彼女の真っ白だった片頬は赤く、妖しく。


「あれは、×××××××××××××。」


そして彼女は大きく息をついて、続けた。



「わたしはこの夏が終わると、死んでしまうから」



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