『きつねのおっかさん』 卯野ましろ様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883632760


今回は素敵な童話をご紹介します。


1話完結の短編です。

ですが、その短い1話の中に読み応えのあるストーリーが潜んでいます。


ちょっと人間をからかってやろう!程度の気持ちで、綺麗な女性に化けたきつねさん。

でも、その姿を見た男は、別の意味で驚きます。

亡くなった奥さんに、そっくりだったのです。


男とその息子は「天国からおっかさんが帰ってきた!」と喜びますが、きつねさんとしては、ずっと‘おっかさん’のふりをして暮らすわけにもいきません。

‘くりごはん’を一緒に食べると、「天国へ帰らなければならない」と言って、2人の下を離れます。


父子はそれに納得して、‘おっかさん’を見送ります。

僅かな時間でも、戻って来てくれた事に感謝しながら…。


一方、父子を騙した事になってしまったきつねさんは、涙して化ける事をやめてしまいます。


僅かながらも、幸せな時間が得られた父子と、その時間を共有したきつねさん。

この三者の思いが、切ないです。


きつねさんは父子を騙した罪悪感と共に、一緒に過ごした楽しいひとときが、自分のためのものではない事も感じます。

おいしい‘くりごはん’も、決して自分のためのものではない。

そこに思いを馳せるきつねさん自身の家族は、どういったものだったのだろう?と想像してしまいます。


家族に恵まれない暮らしをしてきたのか?

それとも、愛情に包まれてきたからこそ、悲しかったのか?

もしくは、かつてあった家族の愛を失ったのか?


作者様の意図はわかりませんが、きつねさんの境遇を考えさせられました。


読後は、寂しいながらも温かい気持ちになります。

是非、お勧めしたい作品です。

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