第十一話 ルメールの最期

「く、くくく……ま、まさか、こいつの体を使う羽目になるとは……な」


 ルメールはダラリとぶら下がった右手で、三角形の形をした黒い物体を握り潰すと、中から現れたのはルスカが閉じ込め封印したはずの馬渕であった。


「ちっ! やはりの。あの時の腕は、お主か。ルメール」


 ルスカが直ぐに再生してしまう馬渕に対して使ったのは、今ルメールが持っている三角形の物体に封じ込める手段を選んだ。あの中では崩れ再生を繰り返す永遠の苦しみ。しかし、ルスカの封印が終わる直前、空が割れ鉤爪の黒い腕が奪っていった。


 ルメールと同じような腕が……。


「くく……超速の再生を持つ体。これこそ私に相応しかったのだが……如何せん、私は本当にお前たちを舐めすぎていたようだ」

「アカツキ、止めるのじゃ! あのままだと厄介なことに!!」

「はいっ! ガロン! 聖霊王! 行きますよ!!」


 再びアカツキは赤いオーラを纏いガロンへ跨がると、大地を飛びはねながらルメールへと迫って行く。少し遅れてルスカも四枚の翼を動かし舞い上がると、フッとその姿を消す。


 アカツキはルメールのぶら下がった右腕を完全に叩き斬るべく、赤き剣を振りかぶる。ルメールの真後ろへと現れたルスカは、馬渕ごと飲み込むべく狙いを定めた。


『何か、ヤバいぞ! アカツキ!!』


 聖霊王の言葉が頭の中で響く。しかし、時は既に遅くアカツキはルメールの右肩から傷口に添ってその剣を振り下ろした。


「目の焦点が合っていない?」


 斬り下ろした腕を食らうべくルスカも接近していたが、聖霊王の言葉が聞こえていたアカツキは、ふとルメールの目を見ると、背筋にゾクッと寒気が走る。


「ルスカ!! 下がってええっ!!」


 アカツキの言葉に急ブレーキをかけたルスカもルメールが微動だにしないないことに気付き、嫌な予感が走るときびすを返して下がる。


「くっ!! まさかっ!」


 ルメールの体から閃光が漏れると体内から膨らみ、そして大爆発を起こす。


「うわああ、ああああ…………っ!!」


 アカツキは咄嗟にエイルの蔦で身を包みながらも、衝撃で遥か後方へと吹き飛ばされて地面をガロンと共に転がっていく。


「アカツキ! 大丈夫か!?」

「い、痛たたた……。だ、大丈夫です。ルスカも無事なようで何よりです」


 ルスカも爆発の衝撃全てを食らうことが出来ずに、吹き飛ばされてしまうが、直ぐにアカツキを追いかけて来ていた。


「アカツキ……どうやら、これからが本番のようじゃの」

「ええ……的が小さくなつた分、攻撃は当てにくそうですね」


 爆発の威力は凄まじく、ここ最果ての地、唯一の街は跡形なく吹き飛んでいた。恐らくは、流星の説得を拒否してこの地に残った者達も……そう考えざるを得ない。


 二人は爆発で巻き起こる土埃の中をジッと見つめていた。いや、目を離せなくなっていたと言った方が正解なのだろう。


 土埃の中から現れたのは、ルメールと同じように八枚の羽を背から生やした馬渕の姿。ゆっくりと目を見開いた馬渕の瞳は赤く染まり、空へ舞い上がると、日に照らされて後光が射しているようで、神々しくあった。


 アカツキとルスカは覚悟を決め、ゆっくりと馬渕の姿をしたルメールへと近づく。警戒を全開にして、何が起こっても対処出来るように。


「……かな」


 馬渕の姿をしたルメールが、呟く。声が小さすぎてアカツキ達の所までハッキリとは聞こえなかった。


「……かな、バカな!! そんな馬鹿な!! 何故、何故だ!? 何故、お前がいる!! やめろ! やめてくれ!! 私の中へ入ってくるなああああっ!!」


 ルメールの絶叫が辺り一面に鳴り響く。頭を抱え、悶え苦しむ姿に、隙だらけであったが、その不気味さにアカツキ達は二の足を踏んでしまった。


「やめろおおおおおっ……消えたくないいいいいっっ!!!!」


 断末魔にも似た声を天に向かって叫び終えると、馬渕の姿をしたルメールは、アカツキを見下ろしながら、口角を吊り上げて嗤う。


「くく……久しぶりだなぁ、田代ぉ……随分と人間らしからぬ姿になったな、お前は」


 アカツキとルスカは、聞き覚えのある声に目を大きく見開いて驚く。


「そ、そんな馬鹿な……あり得ないのじゃ……」

「馬渕……なのですね。ルメールはどうしました?」

「あぁん? ああ、俺の中に居た奴か。消してやったよ、俺を利用しようなんざ、百年早ぇ」


 見た目こそ神々しくもあり神か天使かと思わせるものの、中身が相も変わらずの様子で、二人は皮肉めいたモノを見せられ辟易していた。


 馬渕は自分の体の調子を確かめるようにストレッチを始める。アカツキもじっと馬渕を真剣な眼差しで見据えていた。


「変わりませんね。やはりあなたとは──」


 共存という道もあっただろうに、自分を利用しようとした者はたとえ元神であっても容赦はしない馬渕の本性をアカツキは腹立たしくさえ思う。


「相変わらずのようだな、やはり田代お前とは──」


 アカツキ同様、馬渕も真っ直ぐな目で自分を見てくることに苛立ちを覚えた。


「合いませんね」

「合わないようだな!!」


 同時に二人は飛び出す。


 アカツキとルスカは、再び馬渕と相対することとなった。

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