第十二話 馬渕との最終決戦
まず、衝突したのはルスカと馬渕であった。
その巨体で、馬渕を押し潰すかのように体当たりをしてくるルスカに対して、馬渕は自らの力を試そうと両手で止めるつもりで足で大地を踏ん張る。
狙い通りと内心、ルスカはほくそ笑む。このまま自分の体に触れようものなら、たとえ馬渕の持つ再生力をもってしても、全てを食らうもので飲み込んでやる勢いで突撃した。
ところが馬渕は触れる直前に手を引っ込めてしまい、八枚の羽を激しく動かして後方へと舞い上がり、触れるのを避けてしまう。
「まだじゃ!!」
ルスカはフッと姿を消して、口を大きく開けながら馬渕の横に現れるも、今度は止めようともせず回避される。
「く……なんでわかったのじゃ」
悔しがるルスカを見て、馬渕は目付きが鋭くなる。
「その声……そうか、あの時の女のガキか……。どうした、その姿は? やはりそれが“食らうもの”なのか」
「今、気づいたのか!? だとしたらどうしてじゃ……」
「勘だよ、勘。しかし、触れないのは正解だったみたいだな。しかし、くそガキ。お前には借りがあるからな、普通に死ねると思うなよ!!」
馬渕がルスカに手を向けた時、背後から跳び跳ねたアカツキが両手で剣を持ち振り下ろす。
「背後から奇襲……か。だから、お前は偽善者だと言うのだ、田代ぉ!!」
「!! か、体が……」
あと少しで馬渕を斬れる、しかし、アカツキは振り上げた剣を振り下ろさずにそのままの状態で止めてしまった。それどころか、体自体が空中に浮いたままピクリとも動かない。
「あ、アカツキ!?」
「く……か、体が動か……ない!」
馬渕はアカツキに対して右手を向けたまま、今度はルスカの方を見据え今度は左手をゆっくり挙げる。
「ルスカぁ! 離れてぇえええ!!」
アカツキの声にルスカが翼を動かして上空に上がりながら後方へ下がっていくのを見て、馬渕は左手を挙げるのを止めた。
「ど、どうやら思っていた通り、この金縛りみたいなものは常に相手に向けなければならないみたいですね」
「残念だが、それは外れだ。田代」
馬渕がアカツキに向けていた右手を下ろすも、アカツキの体は空中で剣を振り上げた姿勢のまま動けずにいた。
ゆっくりと肩を回しながら馬渕はアカツキへと近づく。アカツキ本体の目の前に立つと、「オラァ!!」と声を上げて拳を振り抜いた。
聖霊王を型どった赤いオーラを体ごと突き破り、馬渕の拳は動けないアカツキの腹へと届く。
突き自体の威力だけでなく、本来後方に吹き飛びある程度逃げるはずの衝撃が、まるで壁に固定されたまま殴られたかのように突きの威力を全てを逃がさず生身の体で受けてしまったアカツキは、口から激しく吐血し、自らの体の中からボキッと音が聞こえてきた。
「……がはっ……ごほっごほっ!」
「おいおい、人の腕を口から吐いたもので汚さないでくれよ。次は頼むぜ」
血で汚れた腕を軽く振って払った馬渕は、今度はアカツキの胸めがけて拳を振り抜く。
またもやアカツキは自分の体の中から嫌な音が聞こえてきた。脳内に響くような音。再び吐血したアカツキの顔色は赤紫色に変わり、呼吸が上手く出来ないのか口をパクパクと鯉のように動かす。
「そうそう、お前は金縛りって言っていたが、これはどうやら“空間固定”と言うらしいぞ。初めて見たようだが、どうやら俺の中に居た奴は本当にお前らを、随分舐めてかかっていたらしいな。……俺はそんなに甘くないがな!」
今度はアカツキの苦悶の表情をじっと見つめる馬渕。まるで次の狙いはそこだと言わんばかりに。
壁に固定されたまま、顔を殴られる。脳震盪など簡単に起こすだけでなく、下手をすれば脳自体に重篤な傷を負う。アカツキは馬渕の鋭い眼光にゾッと寒気が走った。
「アカツキから離れるのじゃーーっ!!」
一度は退いたはずのルスカが、再び馬渕へ向かって襲いかかる。
ルメールと違い馬渕に油断はない。待ってましたと言わんばかりにルスカに向かって左手を向けようとする。ルスカもこのまま体ごとぶつかる勢いだ。
早かったのは馬渕の左手であった。もうほんの目と鼻の先。あと少しというところでルスカの体は動かなくなってしまった。
「さてと、どっちから料理するか……。そういやこのガキには借りがあったな。田代、お前はそこでこのガキが苦しむのを見てればいい」
アカツキに対してニヤリと嗤って見せると、今度はルスカと向き合う。馬渕に対し何かて言いたげなアカツキではあったが、上手く呼吸も儘ならず言葉を発することが出来ずにいた。
「さて、どうするか……触れる訳にはいかねぇしな。いや、敢えて触れてみるか」
馬渕はルスカの鼻先へ移動すると思いっきり蹴り上げてみる。
「ぎゃ……っ」と小さな悲鳴を上げてルスカは、大きな一つ目を思わず瞑る。血は流れることはなかったが、激しい痛みに顔を歪めていた。
「なんだ、攻撃出来るじゃないか。食らうものってのも大したことねぇな」
馬渕の右足首くらいまで失われていたが、それもほんの一瞬のみですぐに再生していた。
「それじゃお次は……」
馬渕は今度はルスカの大きな一つ目の前にまで移動すると拳を振りかぶる。
「や、や゛め゛ろぉぉぉーーっ!!」
狙いに気づいたアカツキは、顔を青ざめて必死に叫ぶも、大きな声を張り上げられない。
「ギャアあああぁぁぁぁっ!!」
ルスカの悲鳴が木霊する。目からは、涙か血かわからないが黒い液体を撒き散らす。暴れたいが動けない。痛みを振り払うように首を振りたいが動かせない。やり場のない痛みに表情だけが歪む。
馬渕への恐怖を刷り込ませるのに充分な一撃であった。
アカツキは苦しむルスカに何もしてやれず、手を伸ばすことも出来ずに戦意喪失したかのように見えた。
「る、ルしゅカ……」
未だに呂律が回らないまま、アカツキはポツリと呟く。
ルスカの近くで嗤って見せる馬渕は、次はどこをどう料理しようかと巨体である見て回っていた。
『アカツキ! 聖霊王ノおーらヲ解除シロ! 何故カ今ナラ我ガ動ケル!! 早ク!!』
脳内に響くガロンの声に、アカツキの周りを覆っていた赤いオーラは消える。ガロンは急ぎ地面に着地すると、大きく跳び跳ねて馬渕へと体当たりを仕掛けた。
残念ながら馬渕にはアッサリと躱されたものの、ルスカと馬渕の間に割って入り、側から引き離すことには成功する。
「ごほっ、ごほ……か、体が!?」
アカツキは、無防備のまま急に落下をし始める。深手を負い体の自由が回復していないアカツキは、すぐに聖霊王のオーラを放ち、地面に向かってエイルの蔦を伸ばして落下の衝撃を和らげる。
「そ、そういう……ことですか……。私と馬渕の距離が大分離れたから……」
全長十メートルはあるルスカの後方に回った時、アカツキを固定していたものが緩み、まずガロンが動けるように。次にガロンが馬渕を更に引き離したため、アカツキの固定は完全に外れた。アカツキは、そう考えたようであった。
「それならルスカから更に離せば……」
アカツキはルスカの救出に向かおうとするが、視界が揺れ、その場で膝をつく。
「こ、これは?」
自分が思っている以上にアカツキの傷は重症であった。体が上手く動かせない上、アカツキを覆っているオーラも先ほどに比べて小さくなっていた。
地面で膝をついているアカツキを一瞥した馬渕は、ルスカへ左手を向ける。そうはさせまいと、地面に降り立ったガロンが再び跳び跳ねて馬渕へと向かう。
「邪魔をするな」
ガロンの鼻っ柱にその場で回転した馬渕は回し蹴りを食らわし、地面へと叩きつけた。
「くく……田代ぉ。己の無力さを嘆け!」
馬渕が両手をルスカに向け出すと、アカツキは異様な光景を目の当たりにする。
ルスカ周辺の空間が歪み始めたのだ。
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