第二話 青年と幼女、最果ての地へ

 アカツキ達の会議は夜遅くまで続く。襲撃者達の説得が難しい事がわかり、対応をどうするか悩んでいた。


 情報を精査していく内にヒントとなる情報が弥生の口から出る。


「見られていた?」

「うん。どんな事でもって言うから、不確かなことなのだけど、わたしやカホが旅に出たいた時、何か視線を感じたのよ。結局誰の視線なのかはわからないのだけれど」


 魔石を回収しにグルメールを旅している中、弥生は時折視線を感じて気にしていた。そして、直後にアルステル領が襲われた。


「もしかしたら、向こうから此方を見る手段があるのかもしれませんね。だとしたら……次に襲われるのは、ここグランツリーかもしれません」

「森エルフの住み処、アルステル領、レイン自治領、そしてグルメール。確かに襲う街の規模は段々と大きくなっておるのじゃ。なるほどの、残った一番大きな街、ここグランツリーを襲う可能性は確かにあるのじゃ」

「ええ。そして見られているのなら、襲ってくるのは、私達が出発した直後かもしれません」


 アデル王配は、すぐに準備せねばと部屋を出ようとするも、アカツキは咄嗟に引き止める。まだ、早いと。


「グランツリー周辺の地図、ありますか?」


 アデル王配から地図を受け取ると、皆に見えるようにテーブルに広げる。


「まず第一に住民の安全です。幸いまだ少し時間はあります。ですので、今のうちに住民全員を近隣各所の村に避難させるのですが、見られているということを考えると、その村から襲われる可能性があります。ですので、まず作戦としては、一部の兵士に住民の格好をさせ街中へ潜り込みましょう。そして入れ替わるように徐々に変装させながら、住民を避難。ここまではいいですか?」


 アカツキはアデル王配に可能かどうか確認を取ると、王配はコクリと頷く。


「次に残りの兵士をグランツリー周辺に隠します。そして相手が街中に現れた時点でこのグランツリーを包囲するのです」

「そうか、住民に変装した中の兵士と外側から挟みこむわけだな!」


 奇襲には奇襲をである。


「そして、兵士全員に相手を捕まえたら、すぐにメダルを取り上げるように指示してください」


 アカツキは、まず流星にお願いをする。カホと連絡を取り、目的のローレライの更に東へ最果ての地へと向かうメンバーとしてアイシャとナックを呼び寄せられないかと。


 最果ての地に向かうメンバーの中に、弥生は入っていなかった。


「アカツキくん! どうして!? そりゃ危険なのはわかるけど……」

「違いますよ、弥生さん。ここグランツリーは外壁こそあるものの城壁はなく、城はむき出しのままです。あなたがイミル女王を守らなくて誰をまもるのです。それと、もう一つ……。私は弥生さん貴女に酷い事をさせるのかもしれません」


 アカツキはそっと弥生に耳打ちすると、弥生の顔色が真っ青に変わる。


「アカツキくん。わたしに人を殺せ……そう言うのね」


 黙ってアカツキは頷く。


「わかったわ」


 弥生が決断するのを見届け、アカツキは皆に今耳打ちした内容を話す。


「待ってください、これはわたくしの役目です! わたくしがやります」


 この会議中、何度も気分が優れなくなっていたイミル女王は、更に悪化させていたが、それでも気丈にも名乗り出る。


「残念ですが女王陛下は適任ではないです。例えば、魔王に『世界の半分をやるから仲間にならないか』と問われて『はい』と答えますか? 襲撃者達にとって、今や女王陛下は魔王のような立場なのですよ」

「わたくしが……魔王ですか?」

「にっくきローレライの代表、ですからね」


 アカツキは再び弥生と向き合い何度も何度も決意を確認して、同じだけ謝る。


「本来は私がやるべきなのでしょうが……すいません。後々一部の襲撃者には恨まれるかもしれませんが、必ず私が弥生さんを守ります!」

「うん……だから、無事に帰って来てね。もちろんルスカちゃんも、みんなも」


 皆の前にも関わらず、アカツキは弥生を力強く抱きしめるのであった。


 そして、住民の避難等が始まり、一週間が過ぎた頃、ナックとアイシャ、そしてカホがグランツリーへと到着した。



◇◇◇



「なんで、カホまで来たんだよ! それにクリスまで連れて!!」

「だって、やよちゃんが一人じゃ寂しいでしょ!! 親友として一緒にいてあげたいの!!」


 流星も人の子である。カホや息子のクリスには安全な場所に居て欲しいと願うのも無理はない。弥生の役目を伝えたのは失敗だったと後悔していた。


「はぁ……来ちまったものはしようがねぇ。無理はするなよ。それと、連絡。忘れるな」

「うん! 流星も絶対無事で帰って来てね!」


 準備を整えたアカツキ達は、新型パペットに乗りこむべく城を出る。


「気をつけてね、アカツキくん、ルスカちゃん」

「弥生さんも……」


 アカツキ達は、惜しむように何度も振り返りながら、新型パペットのある場所に向かった。


「すいません、アイシャさん、ナック」

「いえいえ~。グルメールじゃ不覚を取りましたからね。借りは返さないと」

「俺もだ。それに……いや、何でもねえ」

「どうかしましたか?」


 ナックは少し照れ臭そうに頬を掻きながら、ポツリと「子供が出来た」と話す。どうやら留守にしていた間に、待望のリュミエールの妊娠が発覚したとの事だった。


「そうですか……それでは絶対に無事で戻らないと。私も見てみたいですからね」


 人払いで集まっていた兵士の囲いを抜けて、アカツキ達は新型パペットへと乗り込む。


「それじゃあ、出発なのじゃ!!」


 アカツキ達を乗せた巨大なパペットは、音もなく赤い光を放出して浮き上がる。まずはローレライとの境にある山脈から最寄りの国であるザングル国に向かった。

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