第十三話 青年と幼女、聖霊王を罵る
向かったのは島の中央にある山の麓の洞穴であった。それほど深い洞穴でなく、そこに置かれた石像を雨風からしのぐ程度のもの。
アカツキ達は、自身と同じくらいの背丈の立派な石像に感心する。凛々しく猛々しい雰囲気、壮年の男性が杖と剣を持ち天に掲げる。ただ、聖霊王といっても人間とそう姿は変わらない。
「これが、聖霊王ですか……。私はもっとお爺さんっぽいのや薄い羽根の生えた妖精みたいなものを想像してましたよ」
「あっはっは。やっぱり田代もそうか? オレも初め聖霊王って聞いてそんなの想像したなぁ」
互いに笑い合うアカツキ、流星、そして浜。ただ一人、ルスカだけは顔をしかめていた。
「どうしたのです、ルスカ?」
「むぅ……。いや何、ちょっとな。面倒臭いことにならないといいのじゃが……」
曇った表情のルスカを気にかけつつも、浜は聖霊王の像の前に立ち呼び掛け始めた。
「我らを守りし偉大な王よ、我らが島の代表として問う。何卒、その聖哲な知恵をお借りしたい。その荘厳なお声を聞かせたまえ」
浜の声が洞穴に木霊する。アカツキと流星も思わず唾を飲み込み見守っていた。
しかし、いくら経っても
「聖霊王め。浜、安心するのじゃ。もう来てる」
像を強く睨み付けたルスカは、アカツキに何かをそっと耳打ちする。一瞬、アカツキは驚いたが、ルスカに何度も確かめたあと、徐に像へと近づく。
浜も何をするのか分からず、ハラハラと見守るしかない。アカツキは上着を脱ぐと、背中からエイルの蔦を伸ばす。
「えっ? えっ? なんだ、あれ?」
エイルの蔦を初めて見る浜は一人驚くが、ルスカや流星が眉一つ動かさないのを見て仕方なく見守り続けた。
ガコッ、と大きな音と共に像の首が吹き飛び地面をゴロゴロと転がる。吹き飛ばしたのは、当然アカツキのエイルの蔦だった。
一瞬の出来事に浜は呆気に取られるが、ふと我に返るとアカツキに食ってかかる。
「おま、おま、お前、何してんだよ!?」
「落ち着いてください。像なんてあとで造り直せばいいでしょう。それよりも……いつまで隠れているのですか!? 照れ屋ですか!?」
アカツキは浜を振り払い、像に向かって叫ぶ。
「今、ハッキリと分かりました! 私の中のエイルとレプテルの書の二つの神獣が、貴方を感知してざわついています。バレバレなのですよ!」
「いい加減出てくるのじゃ……。本当、お主は面倒臭いのぉ」
それでも反応のない事にアカツキはエイルの蔦を再び振りかぶる。すると、壊れた像が赤い光に包まれていくではないか。そして壊れた首の部分から像とは違う顔が這い出て来た。
『ふふふ。よくわかっ──へぶらっ!!』
一度振りかぶったエイルの蔦は止まらない。そのまま像を破壊すると中から赤い光に包まれた子供が像ごとエイルの蔦に吹き飛ばされた。
「あっ……」
そのまま地面をゴロゴロと転がる子供を見てアカツキは、ポカーンと口を開いて呆けていた。
『いててててっ……おい! いきなり何を──へぶっ!』
光に包まれた子供は起き上がろうとするところを今度は地面とキスをする。その子供の後頭部の上にはルスカの足が乗っていた。
「ふん! どうせ、自分の登場の一番格好いいタイミングで出るつもりだったんじゃろ? ワシがそれほど気が長くないのは知っておるだろうに」
『ルスカ・シャウザード! 貴様っ! 足を退けろ! 退けてください! お願いします!!』
力は見た目通りの幼女並みしかないルスカに対して聖霊王と思われる少年は、嘆願する。奇しくも今は無理矢理土下座させられているような状態であった。
「あれが、あの少年が聖霊王ですか?」
「い、いや。オレも姿は初めて見るから……」
「っていうか、さっきまであった像とは違い過ぎるだろ。盛り過ぎじゃないか」
アカツキ達は、ただ呆然と見ているだけしか出来ずにいた。幼女に頭を踏まれている少年があまりにも憐れで。
『くっそおおおおおおっ!!』
「無駄じゃ、無駄じゃ。元々こっちの世界じゃお主は幽霊みたいなものじゃ。物理的な力は皆無じゃからなぁ」
『くそおおおおおっ! お前ら俺様の力を借りに来たんじゃないのかよぉおお!』
アカツキは言われてそうだったと気付き手を叩く。
「ルスカ、ルスカ。その辺で。弱い者イジメになっちゃいますよ」
「むぅ、アカツキがそう言うのなら……」
聖霊王とおぼしき少年は、ようやく立ち上がることが出来て、その顔を晒す。常に赤い光に包まれた少年は、髪色も赤く短髪、瞳の色まで赤く煌めく。
「それで、力をお借りしたいのですが……」
『ふん! 嫌だね』
プイッと横を向いた聖霊王は、完全に不貞腐れていた。アカツキが「ルスカ」と名前を呼ぶと、ルスカは聖霊王に向かって走り出す。逃げる聖霊王。しかし、その鈍足は、すぐにルスカに捕まると足払いをされ、再び地面とキスをする。
「話を聞いて欲しいんですけど」
『誰が、話など聞く──嘘っ! うそです! 聞きます、聞かせてください!!』
アカツキは何度となく後頭部を踏まれ続ける聖霊王に憐れみの視線を送る。
「本当にあれが聖霊王なんですか? 浜さん」
「ごめん、オレも自信なくなってきた……」
神々しく威厳のある声で助けを求めるその姿に、浜は島の人間にこの事を伝えない方がいいだろうと、考え始めていた。
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