第十二話 幼女、二百年前にちょっとやらかす
アカツキは、ローレライの現状を打破するために聖霊王の力を借りたいと話した。
しかし、長老として今現在この島では最高権力者である浜は、首を横に振る。聖霊王は島にとって絶対的なものであり、余所者に関わらせる訳にはいかないと。だがアカツキとしても、譲る訳にはいかない。ローレライ会議の代表としてもあるが、何よりレイン自治領の事がある。今でも目を瞑ると、あの時の光景が瞼の裏に浮かぶのだ。
「お願いします。せめて会わせてもらうだけで良いのです!」
「うーん……そりゃ、知らない仲じゃないしオレ個人としては、力を貸してやりたいのは山々なんだが。見ず知らずのオレをこの島の人達は受け入れてくれた恩もあるからなぁ」
長老としての立場に思い悩む浜に、ルスカが話に割って入る。
「ハマじゃったか、ちょっといいか。ワシの記憶によれば二百年ほど前にこの島に来て当時の長老に聞いているが、余所者が聖霊王に関わってはいけないという決まりは無かったはずじゃが」
「……なぁ、田代。この子、お前の子か? なんか生意気そうだな」
そう言うと浜はルスカをからかうように、両頬を引っ張り始める。そんな浜を流星と弥生は、慌てて止めにかかった。
「ルスカは私の子ではありませんが、まぁ似たようなものです。流星も弥生さんも大丈夫です。ルスカは怒ってませんよ」
「うむ。そんなことより、どうなんじゃ? 確かポチチとか言うのがワシが出会った長老の子孫じゃろ? 聞いたことはないのか?」
「チル、お前はどうだ? 何か聞いたことは?」
ずっと浜に隠れて顔を少ししか出さないチルは、耳打ちで浜に話しかける。相当の照れ屋のようで、目が合うとすぐに顔を赤くするのであった。
「チルもルスカ・シャウザードの話は聞いたことあるそうだが、ポチチが詳しいらしいから一度聞いてみるわ。というか、本当にこの子がルスカ・シャウザードなのか?」
今一つ信じきれていない様子の浜だが、ポチチに話を聞きにいくと離席する。その間、この家でゆっくり寛いでくれと言い、チルにアカツキ達をもてなすように伝えてから家を出ていった。
隠れるものがなくなったチルは、急に慌てふためき、オロオロと首を忙しく動かす。隠れたい、けれど浜の言うことは聞きたいとの葛藤がありありと見て取れた。
「えーっと、チルちゃん? 良かったらみんなにお茶を淹れたいから手伝ってくれるかな?」
弥生がチルに話しかけると、チルはビクッと体を震わし物陰に隠れるも顔を出し小さく頷いた。
弥生とチルが場を離れると、アカツキはルスカに改めて二百年前に会ったという聖霊王の話を聞く。
「正確に言えば会ってはおらぬ。この島の奥に聖霊王の像が奉られておってな。そこに降臨させて会話をするのじゃが……」
「どうかしましたか?」
「うむ。前に来た時も思ったのじゃが……どうもな、上手く言えないのじゃが、しっくり来ないのじゃ」
煮え切らないルスカの答えにアカツキも首を捻るだけ。そこにお茶を持ってきたチルと弥生、そして浜がポチチを連れて戻って来た。
「なんか、すげえな。ルスカ・シャウザード。ポチチから話を聞いたが、恐怖の対象として伝わってるぞ」
「ルスカ。何かしたのですか?」
じとっとした目でアカツキはルスカを見ると、ルスカは何度も首を横に振り否定する。
「な、何もしてないのじゃ。本当じゃアカツキ! ワシが何をしたと伝わっておるのじゃ!?」
「何でも聖霊王に会わせるのを止めようとした島民全員を吊し上げて水責めにしたとか」
アカツキの目が、「やっぱりしてるじゃないですか」と訴えている。
「お、大袈裟に伝わっているのじゃ! ちょっと五月蝿かったから縛って海に浸けただけじゃ。……帰って来たら、数人沖に流されておったが」
「あ、わかった。もしかして、その後、余所者に関わるなって作ったとか?」
ポンと手を叩いた弥生が閃いたと言わんばかりにあっけらかんとして言うが、この場にいるルスカ以外は間違いなくそれが原因だと思っていた。
◇◇◇
「それで、どうですか? ダメでしょうか」
「うーん……わかった。オレの権限で許可しよう。オレがこの島に恩があるように田代達もローレライだっけ? そこに恩があるのだろうし、気持ちもわかる。それじゃ、今から向かうか。ポチチは、島の住民に一応伝えておいてくれ」
浜が立ち上がると、ポチチは先行して家を出ていった。
「わたしは残るわ。チルちゃんと仲よくなりたいし」
気づけばチルは浜ではなく弥生の陰に隠れている。お茶を淹れる間に随分と打ち解けたようだ。
アカツキとルスカ、そして流星とガロンは浜のあとについて家を出る。向かうは島の中心だと言う。
「随分と大人しいな、ガロン」
『前ニモ言ッタガ神獣ト聖霊王ハ仲ガ悪イ。アカツキモ未ヤ神獣側ダ。聖霊王ガソウ簡単ニ、力ヲ貸スト思エヌ』
「大丈夫だって。力をっていうより、魔石をちょろっと貰うだけなんだし」
『オ気楽ダナ。
ガロンは流星の頭の上で小さく溜め息を吐くのであった。
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